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第19話 これで夢にまで見たモブ生活送れますか?
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オルガを見守り始めてから、セドリックが突然リーナの元へ来ることもなくなった。周囲からは『当然よね。オルガ様がいらっしゃるんですもの』と、これみよがしにリーナの耳に聞こえるように言われる。
(そんな厭味ったらしく言わなくたって、当の本人が一番分かってますよ・・・神様は、修正できないと言ってたけど、実は元に戻してくれたのかしらね。まあ、こうして関わらなくなった現実が一番よ)
心の中でそう愚痴りながら、リーナは今日も授業に向かう。教室に入り席に着くと、懐かしい声が掛けられた。
「リーナ、おはよう」
声の主はレオナだった。それは、以前のような気軽さで掛けられた挨拶だったが、リーナの心には何とも複雑な想いが渦巻く。きっとセドリックがリーナに絡んでこないことに、周囲と同じように彼女の中の嫉妬心が薄まったのだろうが、あまりにあからさまな態度の変化にリーナはうんざりした。
そして、もう一つ困ったことが起きていた。それはオルガの取り巻きから、誹謗中傷を受けていたのだ。人の目のない場所でオルガの取り巻きに囲まれると、ネチネチと嫌味を投げつけ、そして誰かがその場を通りかかると、取り巻きの誰かが嘘泣きを始める。まるでリーナがその子を泣かせたように見えた。
(はぁ・・きったないやり方使ってくるわねぇ。まさかこの歳でイジメにあうなんて思ってなかったわ)
以前、リーナがオルガと近かったのが気に入らないらしい。自分たちは、あのガサツなオルガからさっさと逃げ出したくせに、それを棚に上げてリーナを中傷する身勝手さに嫌気が差していた。
(この世界でも、周囲の目を気にしないといけないなんてウンザリ。何で気に入らないなら、放っておいてくれないのかしらね。視界に入れるほうが、不愉快でしょうに)
そしてある日、またしてもビクトリアから呼び出しが・・・お決まりの取り巻きに拉致されてきたのは、毎度おなじみのピアノ室。この部屋へ来ると、リーナの胸に色々な想いが渦巻く。そして蘇るあの日の出来事に、リーナの胸はチクリと傷んだ。
しかし今回は、前回の時のようにセドリックと閉じ込められることはなかった。一応、警戒して部屋に入ったリーナに掛けられたセリフは、意外なものだった。
「何か困ってることはない?」
きっとオルガの取り巻きのことを言いたいのだろう。なぜ派閥から距離をおいたリーナにそんな言葉をかけるのか。それに何故あの日、セドリックとこの部屋に閉じ込めたのか。リーナの頭の中には、“何故?”がずっと付きまとっていた。
(元派閥のよしみ?それとも助けるふりをして、王子の好感度上げたいとか?だって悪役令嬢だもの。絶対に、裏があるはずよ・・・)
「もったいないお言葉です。お気遣いいただき、ありがとうございます。でも特に困っていることなど、ございません」
リーナは、心の中で警戒しながらそう答え、頭を深く下げる。するとその答えに不満だったのか、顔を上げたリーナの目に映ったビクトリアの顔には、明らかな失望の色が見えた。
そしてビクトリアは、おもむろにリーナに近づいてくる。さすが悪役令嬢の凄みを効かせて歩く様は、リーナの目線を自然と下げる。しかし目の前に立ったビクトリアは、リーナの顎に手を当て顔を上に向かせた。
リーナは今までで一番近い距離で見つめるビクトリアのその美しい顔に、目を奪われる。黒髪ストレートに深い紫の瞳は、ヒロインとはまた違った美しさを持っていた。
「もう一度、言ってごらんなさい」
ビクトリアの言葉に、リーナは同じセリフを返す。
「・・私などにはもったいないお言葉でございます。でも特に困っていることは、ございません」
ビクトリアに目をジィっと見つめられていると、心の奥底まで見透かされるような居た堪れない気持ちになる。リーナは耐えられずに目を逸らす。するとビクトリアは小さなため息をつくと、リーナを解放した。
「もういいわよ。行きなさい」
ビクトリアのお許しが出たので、リーナは会釈をして部屋を出た。
(一体、何なの・・・?)
リーナは、度々ビクトリアのとる意味の分からない行動に、首を傾げていた。そして教室へ戻ろうと、廊下の角を曲がったその時、視界の端に意外な人物がピアノ室へ入って行くのを捉える。
それはセドリックだった。
(そんな厭味ったらしく言わなくたって、当の本人が一番分かってますよ・・・神様は、修正できないと言ってたけど、実は元に戻してくれたのかしらね。まあ、こうして関わらなくなった現実が一番よ)
心の中でそう愚痴りながら、リーナは今日も授業に向かう。教室に入り席に着くと、懐かしい声が掛けられた。
「リーナ、おはよう」
声の主はレオナだった。それは、以前のような気軽さで掛けられた挨拶だったが、リーナの心には何とも複雑な想いが渦巻く。きっとセドリックがリーナに絡んでこないことに、周囲と同じように彼女の中の嫉妬心が薄まったのだろうが、あまりにあからさまな態度の変化にリーナはうんざりした。
そして、もう一つ困ったことが起きていた。それはオルガの取り巻きから、誹謗中傷を受けていたのだ。人の目のない場所でオルガの取り巻きに囲まれると、ネチネチと嫌味を投げつけ、そして誰かがその場を通りかかると、取り巻きの誰かが嘘泣きを始める。まるでリーナがその子を泣かせたように見えた。
(はぁ・・きったないやり方使ってくるわねぇ。まさかこの歳でイジメにあうなんて思ってなかったわ)
以前、リーナがオルガと近かったのが気に入らないらしい。自分たちは、あのガサツなオルガからさっさと逃げ出したくせに、それを棚に上げてリーナを中傷する身勝手さに嫌気が差していた。
(この世界でも、周囲の目を気にしないといけないなんてウンザリ。何で気に入らないなら、放っておいてくれないのかしらね。視界に入れるほうが、不愉快でしょうに)
そしてある日、またしてもビクトリアから呼び出しが・・・お決まりの取り巻きに拉致されてきたのは、毎度おなじみのピアノ室。この部屋へ来ると、リーナの胸に色々な想いが渦巻く。そして蘇るあの日の出来事に、リーナの胸はチクリと傷んだ。
しかし今回は、前回の時のようにセドリックと閉じ込められることはなかった。一応、警戒して部屋に入ったリーナに掛けられたセリフは、意外なものだった。
「何か困ってることはない?」
きっとオルガの取り巻きのことを言いたいのだろう。なぜ派閥から距離をおいたリーナにそんな言葉をかけるのか。それに何故あの日、セドリックとこの部屋に閉じ込めたのか。リーナの頭の中には、“何故?”がずっと付きまとっていた。
(元派閥のよしみ?それとも助けるふりをして、王子の好感度上げたいとか?だって悪役令嬢だもの。絶対に、裏があるはずよ・・・)
「もったいないお言葉です。お気遣いいただき、ありがとうございます。でも特に困っていることなど、ございません」
リーナは、心の中で警戒しながらそう答え、頭を深く下げる。するとその答えに不満だったのか、顔を上げたリーナの目に映ったビクトリアの顔には、明らかな失望の色が見えた。
そしてビクトリアは、おもむろにリーナに近づいてくる。さすが悪役令嬢の凄みを効かせて歩く様は、リーナの目線を自然と下げる。しかし目の前に立ったビクトリアは、リーナの顎に手を当て顔を上に向かせた。
リーナは今までで一番近い距離で見つめるビクトリアのその美しい顔に、目を奪われる。黒髪ストレートに深い紫の瞳は、ヒロインとはまた違った美しさを持っていた。
「もう一度、言ってごらんなさい」
ビクトリアの言葉に、リーナは同じセリフを返す。
「・・私などにはもったいないお言葉でございます。でも特に困っていることは、ございません」
ビクトリアに目をジィっと見つめられていると、心の奥底まで見透かされるような居た堪れない気持ちになる。リーナは耐えられずに目を逸らす。するとビクトリアは小さなため息をつくと、リーナを解放した。
「もういいわよ。行きなさい」
ビクトリアのお許しが出たので、リーナは会釈をして部屋を出た。
(一体、何なの・・・?)
リーナは、度々ビクトリアのとる意味の分からない行動に、首を傾げていた。そして教室へ戻ろうと、廊下の角を曲がったその時、視界の端に意外な人物がピアノ室へ入って行くのを捉える。
それはセドリックだった。
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