パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

文字の大きさ
46 / 130

46.腐った者たち

しおりを挟む

 アルテリスの町外れ――森林とは逆方向にある山の麓――には、幾つもの冒険者の宿舎が所狭しと立ち並んで長い行列を作り、広大な湖に臨んでいる。

 それはさながら一つの町といっても遜色はなく、冒険者街と呼ばれるほどパーティーには人気があり、多くの強者だけでなく行商人が行き交うことでも知られていた。

 宿舎の東には、三カ月に一度開く湖のダンジョン――蒼の古城――があり、西には年の初めのみに開く岩のダンジョン――灰の牢獄――が存在しているため、冒険者にとっては立地もよく、主に中級者から上級者にかけてのパーティーが利用していたのだ。

 とはいえ、中級者の中でも住めるのは大金を持つ者か、上級者に伝手があるか、あるいは並外れた力――強力な固有能力や武器――を持っている必要があった。

 最近この宿舎に移住してきた新規パーティー『ウェイカーズ』がまさに大いなる力を持つならず者たちの集まりであり、噂を聞いた中級者パーティーが幾つも逃げ出してしまうほどの影響力を誇っていた。

 そんな彼らが暮らす宿舎一階の広間、煌めく湖を映す窓際のソファで、床にひざまずくパーティーメンバーの前、とても長い黒髪の少女――カチュア――の肩を得意げに抱く者がいた。

「何か変わりはないかぁ? ルベックぅ……」

 一見すれば乞食にも見える長髪の男がニヤリと笑う。

「は、はい。グレスさん、何も――」

「――グレスさんだぁ? グレス様だろボケぇ。喰うぞぉ。喰っちまうぞぉぉ……」

「……も、申し訳ありませんでした、グレス様……!」

 ルベックの顔が見る見る青くなっていく。

「ひひっ……わかればいいぃ。さあ、カチュア。ちゅうぅ……」

「ちゅー」

「……」

 メンバーが見ている前で堂々と唇を重ねるグレスとカチュア。それを薄目で見るルベックの両手は固く握りしめられ、唇には血が滲んでいた。



「――畜生があぁっ! もう我慢ならねえぇっ!」

 ルベックの持つ短剣がひらめき、周囲にあった標的の棒が一瞬で細切れになる。

 固有能力【神速】の基本スキル《電光石火》によるものだった。熟練度が低いためまだほんの少ししか持たないが、使用するとスピードが桁外れに上昇するものだ。

 彼の能力はAランクであり、赤い稲妻と呼ばれるに相応しい充分な強さだったが、今や『ウェイカーズ』のリーダーまで上り詰めたグレスとは立場が逆転してしまっていた。

 蛇男とも呼ばれるグレスの固有能力【聖蛇化】は、姿形を変える系で共通する基本スキル《変身》を覚えた時点ではAランクだったわけだが、派生スキル《神授眼》習得によってSランクとなった。

 これを使用した場合、グレスの視界に入った者は容赦なく動きをしばらく封じられてしまうため、ルベックたちは逆らおうにも手も足も出ない状況になっているのだった。

 また、このスキルは使用せずとも勝手に自分に対する攻撃の意思や動作に敏感に反応して相手の動きを封じてくるため、遠距離から攻撃しようにもできずにいたのである。

「なあ、ラキル。こうなったら俺たちだけで新しいパーティーでも作ろうぜ」

 ルベックが見上げた先には、Aランクの固有能力【悪魔化】を使用し、黒ずんだ青い両翼を広げたラキルの姿があった。

 クールデビルという異名が示す通り、基本スキル《変身》を使用することで身体能力の極めて高い悪魔と化したものの、まだ熟練度も低くて僅かしか体を維持できないため、低い位置から自分の翼で体を抱くように閉じて地に降り立つ。

「僕は賛成だけど……蒼の古城がもうすぐ開かれるんだし、そこでお宝の一つでも手に入れてから離れたって遅くはないよ。それに、上手くやればどさくさに紛れて間接的にグレスを葬り去ることだって可能だろうしね」

「まあな……。難しいがそうするしかねぇか。だがよ……たまらんぜ。ストレスで狂いそうだ……」

「ルベックの気持ちはわかるよ。グレスなんて元々雑魚中の雑魚だったくせにすっかり思い上がってるんだから。それに、カチュアもカチュアだよね」

「黒いオアシスは昔からそういうやつだろ。ビッチだからころころと強いやつに乗り換えやがる。……やつも殺すか?」

「いや、彼女は殺すにはあまりにも惜しい固有能力を持ってるし、大目に見てあげたほうが……」

「……それはそうだな。グレスをぶっ殺したら、カチュアもボコボコにして顔の形を変えてでも俺のパーティーに入れてやるさ。なあ、ラキル。それより今から暇潰しに誰か殺しにいこうぜ」

「ん、まだやめといたら? グレスがリーダーのうちはさ。自信満々で殺しを請け負ってるみたいだし、依頼も受けてない状態で僕らが勝手にやってることがバレたらまずいよ」

「……あー、だりーな。いつものようにあいつで発散するしかねえか」

「だね」

「ひっ――」

「――おっと。逃すわけねえよなあ? 腐ったみかんちゃん、いつものアレ頼むぜー」

「い、嫌だ……」

 ルベックに首根っこを掴まれ、オランドが足をガクガクと震わせる。

「あ……?」

「……た、頼むぅ。こんな役はもう嫌なのだ……。俺よりもっと反応が面白いやつを紹介するから、今回だけは見逃してくれ……」

「アホか。殺しても大丈夫なのはお前くらいだろうが。つべこべいわずとっとと【腐屍化】しろ!」

「……うぐぅ……」

「おいオランド……お前な、固有能力も人生もDランクのゴミってことを自覚しろよ。なんなら本当にぶち殺してやるぞ……?」

「わ、わわ、わかった。わかったから……」

《変身》を使ったオランドの顔は、またたく間に青白くなり腐っていった。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

処理中です...