パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

文字の大きさ
47 / 130

47.爪と牙

しおりを挟む

「――ん……」

 せせらぎによって俺は目を覚ました。

「うぅ……」

 しかし酷い頭痛がする。今にも頭が割れそうだ……。

 どうやら斜面から滑り落ちた際、頭を打って気絶していたようだな。あれからどれくらい意識を失っていたのか見当もつかない。それでも、俺の口にはあの薬草がしっかりと咥えられていた。よし、これさえあればバニルたちの元へ戻れる。

「――なっ……?」

 よろめきながらもなんとか立ち上がったとき、俺は悪い夢でも見ているのかもしれないと思った。

 川辺のありとあらゆる場所が、ラピッドウルフでほぼぎっしりと埋め尽くされていたからだ。その幾多の鋭い視線は、いずれもまぶしいほど俺のほうに向けられていた。

 ど、どうすんだよ、これ……。

 めまいと吐き気までしてきて意識が飛びそうになったが、必死に堪えた。多量の汗がしたたり落ちる中、ここで倒れたらそれこそおしまいだと視線を宙に釘付けにする。というか、よく今まで襲われなかったもんだ。

 もしかしたら、こいつらは俺という存在に対して強さを測っている段階なのかもしれない。これだけいるんだから何匹か飛び掛かってきてもおかしくないのに、微動だにしない。おぞましいまでの警戒心と統一感だ。

 おそらく、ここで俺が少しでも逃げようとしたり怯んだりするようであれば、やつらは俺を大したことのない獲物とみなして一気に襲い掛かってくるんだろう。

「……」

 今にも恐怖心が湧き上がってきそうになるが、寸前で堪える。落ち着け、俺。落ち着くんだ、頼む……。

『グルルッ……』

「……くっ……」

 微細な恐怖心すら感じ取られたのか、すぐ近くにいた狼が牙を剥き出しにして唸ってきた。ただ、それでも襲ってくる気配はない。何故だ……?

 ……そうか、わかった。俺は肝心なことを忘れていた。自分が狂戦士症であることを。

 やつらはそのことに勘付いているんだ。薬草はこっちにあるし、これを食べれば狂気を解き放つことができる。長剣を持って思う存分暴れ回ることができるんだ。

 とはいえ、ペンダントを外して狂戦士になったところで多勢に無勢。俺が正気に戻ったとき、狼が一匹でも残っていたらアウトだからためらう。しかもボロボロの体で対応せざるを得ない上、地形的にも圧倒的不利で、こんな見晴らしのいい場所では格好のターゲットにされてしまうのは目に見えていた。

『いいか、セクト、危なくなったら逃げろ。俺の言いたいことはわかるな? 今のお前にはそれができるはずだ』

 逃げたいと思っていたとき、ベリテスの言葉が脳裏に浮かんだ。

「……」

 この言葉を反芻するなら、逃げろというのは決して後ろ向きなものではなく、あくまでも前向きなものだと捉えるべきなんじゃないか?

 だから俺は狼たちの視線をしっかりと受け止めた上で、毅然とした態度を示してやった。ただ、前向きといっても真正面から戦うわけじゃない。前衛的な回避というやつだ。

『グルルァ……』

 空腹なのか、狼たちが少しずつ近付いてくるのがわかる。俺は後ろ歩きで一定の距離を保ちながら後方の森へと進んでいくと、やつらは俺が何をする気なのかと警戒したのか勝手に道を作ってくれた。木々の中なら一斉に襲い掛かってくるにしても限度があるし、今の状態よりは遥かにマシになるはず。

「さあ、来いよ。お前ら、俺が相手になってやる……」

 やつらは一様に体を硬直させている様子だった。この状況で冷静さを失わない俺が不気味なんだろう。

「いいぞ、来い。まとめて倒してやる……」

『グルルルルッ……』

 狼たちの唸り声が連鎖し、あっという間に広がっていく様子に俺の意識が遠のきそうになる。

 やつらの怒りは徐々に高まってきているらしく、地鳴りを思わせる迫力があった。大地まで味方にしているようで、自分が今たった一人で大勢の敵を前にしているという絶望的な事実をこれでもかと突きつけてくる。

 ……もう、いつ襲ってきてもおかしくない。やつらは既に一部が俺の後方へと回り込み始めている。俺をここから決して逃しはしないという明確な意思表示だ。

 この状態で少しでも俺が怯めば、やつらは今度こそ一斉に飛び掛かってくるだろう。俺もペンダントをいつでも外せる準備だけはしておく。

 さらに俺は楽しいことだけを考えた。もし死ぬにしたって、それまでの間は楽しいほうが絶対にいいからだ。これぞベリテスの言っていたことだと思う。そのせいか、この苦境さえも愉快に感じられるようになった。錯覚というのは実に不思議なものだ。

『――グルルルァッ!』

 俺が森の中に入ってほっとしたのも束の間、油断しすぎたことがやつらにとっての絶好の合図となったのか、狼たちの殺意を乗せた爪と牙が一斉に迫ってくるのがわかった。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

処理中です...