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125.舌で転がすもの
しおりを挟むこれが演技だというなら、世界最高の役者たちだろう。
懲りずに俺に襲い掛かってくるルベック、ラキル、グレス、カチュアの顔つきは、一様に必死そのものだった。怒り、憎しみ、蔑み、焦り、恐れ、痛み、祈り……色んな仮面を顔に装着しながら俺を攻撃してくる。
実に滑稽で見ている分には面白い。俺を殺そうと必死だが無駄なことだ。夜になったことでやつらにはさらに隙が生じている。俺には高い気配察知能力があるが、こいつらにそこまでの付加価値的な力があるとは思えない。動き方からしても、視界に入ったものをただ追うだけの淡白なものだ。
「――はぁ、はぁ……もう、ダメ。あとは任せましたぁ……」
カチュアが離脱してしまった。というか、休み休みだったのに最初にバテるなんてな。所詮は姫として担がれていただけの存在なんだろう。
「カチュア」
「……」
俺が呼びかけてみると、やつは少し驚いた顔をしたあとで睨みつけてきた。ゴミが気やすく人の名前を呼ぶなとでも言いたげに。
「お前の大事なものを奪う」
「……へ? ぎっ……」
俺は《反転》によって自分の潰れた目と欠けた歯を、カチュアのものと入れ替えてから《結合》した。
「……え、え……?」
「ププッ……」
片目と歯を入れ替えただけでやつが不細工になったので笑ってしまう。はっとした顔から察するにやっと何が起きたか理解できたらしく、焦った顔で手鏡を見たので、近くの《ファイヤーウッド》に《導きの手》で火をつけて見やすくしてやる。
「い……いやああああああああっ!」
顔を両手で覆い隠して泣き叫ぶカチュア。ああ……なんとも心地よい音色だ……。
「前より可愛くなったな」
「お……お願いっ! 元の顔に戻してえっ! なんでもするからっ!」
「死んで復活すれば? おっと……」
会話しながらルベックたちの攻撃を回避する俺って結構器用なのかもしれない。しかしメンタルの弱いやつだ。俺なんてずっとそういう状態でここまでやってきたっていうのに……。
「じゃ、じゃあ……今しゅぐ殺しちぇええええぇぇっ!」
「……」
カチュア、俺に殺されたいらしくて泣きながら必死に追いかけてくる。自分で勝手に死ねばいいと思うんだが、ショックのあまり混乱してるのか頭が上手く回らないようだ。
「カ、カチュアぁ……。よくもおぉぉ……」
グレスも何気にショックを受けてるらしく顔がやたらと赤い。そんな愛する彼女も今は何故か俺に夢中のようだが……。もし死んで復活しても顔が元に戻らなかったら俺を頼りにするしかないからな。
「邪魔だビッチ!」
「ぷぎいっ!」
ルベックに横っ腹を蹴られ、カチュアが転がり豚のような悲鳴を上げるも、また起き上がってこっちに向かってくる。不屈の精神です。でも泥だらけになって不細工さに磨きをかけたせいか、さすがのグレスもだんまりだった。
「こ……このクソビッチがまた戻ってきやがった!」
「僕に任せて!」
「――ひっ!?」
ラキルがカチュアの背後に回って空中まで拉致したかと思うと、左手の長い爪で胸板を貫通した。その口から血が零れ、彼女の姿が消えてからしばらくして、地上でうずくまった姿で現れる。胸元は破けてるが、傷口は綺麗に塞がれてるっぽいな。これが《授肉》の効果というわけか……。
それでも、鏡を見るまでもなくカチュアが黒髪を地面に預けて泣き始めたので、結果はすぐにわかった。よく考えたら元に戻るわけもないか。あいつの目と歯は俺が所持しているわけだし……。
「……ひっく……もどっ、戻してぇ。なんでもする、からぁ。えぐっ……」
カチュアががっくりと座り込んだまま俺のところに来ようとしないのは、もうしばらくは死ねないからだろう。最高に哀れだが、断じて許すつもりはない。お前らは全員、ここで最後まで苦しんで死ぬことになるんだ。俺の手の平の上で踊りながら、色んな感情を放出してもっと楽しませてくれ……。
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