19 / 47
第十九話 普通とは少し違う
しおりを挟む僕はベホムたちのいる宿舎を去り、早めに自分の豪邸へと戻った。すると、エルシアがびっくりした様子で駆け寄ってくる。
「ピッケル、今日は早いんだねっ! あの変な女は追い払ったから安心して!」
「マリベルのことか」
「あの人、図々しいし大嫌い!」
「ははっ。あの後なんか言われた?」
「うん。子供は相手になりませんわって涼しい顔で言って、一人で勝ち誇って帰っていったよ」
「彼女らしいや」
なんていうか、マリベルは一方通行な人だ。普通とはやや違うのかもしれない。その分、まっすぐな思いを持ってるのかもしれないけど。
「あ、そうだ。エルシア、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なあに?」
僕は思い切ってエルシアに幽霊のことを聞いてみた。ここでずっとお留守番していたなら、もしかしたら何か目撃したかもしれない。
「ピッケルもあのお化けのこと知ったんだ……。あたい、何度も見たよ」
「やっぱり見てたのか。なのに、なんで黙ってたんだ?」
「だって、お化けなんか出るって知ったら、ピッケルが帰ってこなくなるかもって……」
「なるほど、それでか……。でも、それを抱え込むのは怖かったろうに」
「ううん。なんかね、お化けでも優しい感じの声だったよ。それに、怖がらせたいっていうより、なんか見守ってくれてるって感じだった」
「そっか。幽霊は姿も見せなかった?」
「うん」
エルシアの言う通り、幽霊には僕たちを怖がらせる意図はないようだ。どっちかっていったら、ここに住んでいる人を優しく包み込むような感じに思えた。
でも、ずっと前から知られているということは、それだけ成仏できずにいるってことでもある。
つまり、思い残したことがあるってことだ。僕は声の主に興味を持っていた。
向こうだって声をかけてくるんだからこっちに興味があるはずだし、思い残したことについて話したいはずなんだ。
何も急ぐ必要はないし、こっちから行くこともない。向こうからまた声がかかってきたときに、話を聞こうと思う。それが、この屋敷をずっと見守ってきた主に対するせめてもの敬意だ。
「……ありがと……」
「「……」」
そんな声がどこからともなく聞こえてきた気がした。エルシアも聞こえたみたいで、僕たちは驚いた顔を見合わせる。
それでも、今はまだ話しかけない。向こうが話したくなったら話せばいいんだ。
今晩はエルシアと夕食を取り、回復術も使わずに普通に楽しく過ごした。彼女がはりきって作ったみたいで、僕の食べる様子をつぶさに観察してて微笑ましかった。
「どう、ピッケル? あたいの作ったお料理、美味しい……⁉」
「うん、凄く美味しかったよ。エルシアは料理上手だ」
「ほんとぉ? やったあっ!」
エルシアは自分が食べるのも忘れてはしゃいでる。その後は一緒に食事してお風呂に入り床に就いた。
そうして、手を繋いだエルシアが先に寝息を立て、僕もウトウトし始めたそのときだった。
「ピッケル様……あなたとお話しても、いいのでしょうか……?」
例の声の主が、いつもよりもさらに遠慮気味に話しかけてきたんだ。
「うん。君が話したいって言うなら……」
「……ありがとう」
「君は誰なんだ……?」
「……私の名前は、レビテ・ドルーデン。侯爵令嬢です」
「侯爵令嬢だったのか。そういや、侯爵の令嬢も早逝したって言ってたから、君がその娘さんなんだね」
「……はい。残念ながら、14歳のときに病で亡くなってしまいました」
「無念だったろうね」
「……はい。やりたいことも何もできずに、消えるのはとても無念でした」
「どんな未練があったのか、具体的に僕に話してくれる?」
「……」
僕の言葉を聞いて、彼女は考え込んでる様子だった。きっと、ここまで普通に会話に応じてくれる人は僕が初めてで、それで少し驚いてるっていうのもあるんじゃないかな。
「レビテだっけ? ゆっくりでいいよ」
「……ありがとう」
レビテの声は少し湿っているようだった。思い残したことについて、彼女なりに何か思うところがあったのかもしれない。
「……お父様の意思を受け継いで、跡継ぎになりたいっていう思いはありました。マリベルとも、もっと仲良くなれるっていう気持ちもあって……。でも、もっと残念なのは、冒険者になるという夢を叶えられなかったことです」
「冒険者に……?」
「そうです。病で屋敷に引きこもりがちだった私にとって、外の世界、それも冒険者の見る世界は憧れだったんです」
「なるほど……それで、何を?」
「剣士です」
「剣士か。意外だ」
「ふふっ、よく言われます……。でも、こう見えて、幼少の頃は天才だなんて褒められてたんですよ……? かつて剣聖として名を馳せたお父様から、このまま順調に成長すれば5本の指に入るだろうと褒められたこともあります。井の中の蛙かもしれませんけれど」
「な、なるほど……」
レビテは父から剣士としての遺伝を色濃く受け継いでる可能性もあるね。
「あの、ピッケル様……もっと私の話、聞いてくださりますか……?」
「うん、もちろん」
「よかった……」
話しているうち、彼女の言葉に熱がこもってきた気がする。なるほど、この情熱があるからこそ、ここまで成仏せずに屋敷に残ってたんだね。天才なんて言われてたなら猶更、その腕を冒険者として試したかっただろうに。
「そうだ。君を回復しよう」
「え……?」
「僕は時間を操る回復術師でね。師匠からは、あまりそのことを周囲にひけらかさないようにって注意されたからあんまり言わないけど、普通の回復術とは少し違うかもしれない」
「……少しというか、かなり違うと思うのですけれど……」
「そ、そうかな? 自分が特別だと思ったら絶対にダメだよって師匠に口を酸っぱく言われてたからね」
「その方は、ピッケル様をとても大事に思っていたのでしょうね。もしその能力を広く知られたら、引っ張りだこになっちゃいますし、成長する前に驕ってしまうかもしれませんから……」
「なるほど……。その発想はなかった。なんだか師匠と会いたくなってきたな。彼女はフラフラと旅に出てしまってるけど」
「そうなんですねぇ」
「あ、そうだ。僕の回復術を使おう。レビテ。普通の幽霊なら難しいと思うけど、君の場合はちょっと違うんだよね。その情熱があれば、時間を戻す対象として成立するかもしれない」
「……でも、人を幽霊の状態から蘇らせるなんて……本当に大丈夫なのでしょうか? 何か、大きな代償がありませんか……?」
「うーん……どうだろ? エネルギーは沢山消耗するとは思うけど、多分大丈夫だよ」
僕はレビテの残留思念に対して、時間を戻す回復術を行使した。意識を何度も失いそうになるけど我慢する。さあ、どうなるか……。
882
あなたにおすすめの小説
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。
あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」
長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。
だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。
困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。
長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。
それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。
その活躍は、まさに万能!
死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。
一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。
大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。
その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。
かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。
目次
連載中 全21話
2021年2月17日 23:39 更新
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
最強付与術師の成長革命 追放元パーティから魔力回収して自由に暮らします。え、勇者降ろされた? 知らんがな
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
旧題:最強付与術師の成長革命~レベルの無い世界で俺だけレベルアップ!あ、追放元パーティーから魔力回収しますね?え?勇者降ろされた?知らんがな
・成長チート特盛の追放ざまぁファンタジー!
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】
付与術のアレンはある日「お前だけ成長が遅い」と追放されてしまう。
だが、仲間たちが成長していたのは、ほかならぬアレンのおかげだったことに、まだ誰も気づいていない。
なんとアレンの付与術は世界で唯一の《永久持続バフ》だったのだ!
《永久持続バフ》によってステータス強化付与がスタックすることに気づいたアレンは、それを利用して無限の魔力を手に入れる。
そして莫大な魔力を利用して、付与術を研究したアレンは【レベル付与】の能力に目覚める!
ステータス無限付与とレベルシステムによる最強チートの組み合わせで、アレンは無制限に強くなり、規格外の存在に成り上がる!
一方でアレンを追放したナメップは、大事な勇者就任式典でへまをして、王様に大恥をかかせてしまう大失態!
彼はアレンの能力を無能だと決めつけ、なにも努力しないで戦いを舐めきっていた。
アレンの努力が報われる一方で、ナメップはそのツケを払わされるはめになる。
アレンを追放したことによってすべてを失った元パーティは、次第に空中分解していくことになる。
カクヨムにも掲載
なろう
日間2位
月間6位
なろうブクマ6500
カクヨム3000
★最強付与術師の成長革命~レベルの概念が無い世界で俺だけレベルが上がります。知らずに永久バフ掛けてたけど、魔力が必要になったので追放した元パーティーから回収しますね。えっ?勇者降ろされた?知らんがな…
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる