回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し

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第十八話 段々深まってきた

「お、見えてきた見えてきた……」

 僕の前方のほうからその姿を現したのは、自然の中に溶け込んで落ち着いた佇まいを見せる【狼の魂ウルフスピリット】パーティーの宿舎だ。

 お世辞にも綺麗とはいえないけど、実家のような安心感がある。

 だからこそ、僕はあえてピカピカの新築に回復するようなことはしなかった。雨漏りしてた部屋には、さすがに時間を戻す回復術を使ったけどね。

 それから少し歩いて宿舎へと到着。ウルスリのメンバーで共有している鍵は僕も貰ってるので、それを使って玄関を開けて中へ入る。

「……」

 そのとき、ホッとしたのもあってか、僕の頭の中には、エルシアやマリベルのことのほかに、奇妙な声のことが浮かんでいた。

 あれって、一体なんだったんだろう? お化けの声だったりして? まさかね……。

 っと、こっちの宿舎が静まり返っていて、誰もいないのかと思う。念のために探したけどやっぱりいないし、変な声の件もあって怖さも感じた。

 かといって、自分の屋敷に戻るのは別の意味で怖いしなあ。ただ、昨日の件もあるから、今日はエルシアのためにも早めに帰宅するつもりだ。

「――みんな遅いなあ……」

 ……というか、何か様子がおかしい。僕がここに来てから数時間経ってもメンバーが全然帰ってこないんだ。一人も戻らないっていうのは妙じゃないか?

 もしかしたら、何か事件に巻き込まれたのかもしれない。そう考えると急に落ち着かなくなる。ずっとお留守番をしていたエルシアの気持ちがわかる気がした。

 気が付くと玄関付近でウロウロしてしまう。僕って暇人だ。

「あ……」

 物音がする。ようやく誰か帰ってきたみたいだ。

「ただいま、だ」

 誰だろうと思いきや、魔術師のジェシカだった。相変わらず不愛想な顔と口調だけど、心細かったのもあって女神のように輝いて見えた。

「おかえり、ジェシカ! 遅かったね」

「おや、ピッケルではないか。玄関前でどうしたのだね?」

「え、えっと、一人でお留守番をしてたら心細くなっちゃって、ここで待ってたってわけ……」

「ふ……ふむ。も、もう一度言ってくれないだろうか?」

「え? お留守番をしてたら心細くなって……」

「ちょ、ちょ……超可愛い! 可愛すぎだろおおぉっ!」

「ちょっ……⁉」

 感激した様子のジェシカに僕は抱きしめられてしまった。そういえば、彼女は可愛いと思ったものに惹かれるんだっけ? というか胸が当たってるんだけど。しかも結構大きいし……。

「ただいま帰りやしたぜー。はっ……」

「「あ……」」

 僕とジェシカは抱き合ったままロランと目が合うことになった。

「げ、げげぇっ……⁉ ふ、二人とも、玄関で何をやりやがってるんですかぁー⁉」

「い、いや、ロラン。違うんだ。これには、深いわけが……」

「うむ。これには、谷よりも深い理由があるのだ……」

「いや、ジェシカ、誤解が深まるからうっとりと僕を見つめないで!」

「ふむぅ?」

「ピッケルさん……ボクというものがありながら裏切るなんて、あんまりですぜえぇぇっ!」

「ご、ごめん……って、いつの間にロランと僕にそんな既成事実が⁉」

 それからしばらく、その場がなんともカオスなことになったのは言うまでもない……。

 そのあとでリーダーのベホムが帰ってきて、今までの経緯を話すと唾が飛ぶほど豪快に笑われた。

「――がははっ……! そりゃあ、災難だったなあ、ピッケル」

「早とちりしちまって、すいやせんでした、ピッケルさん……」

「い、いや、いいんだよ。あれじゃ誤解されても仕方ないしね」

 それと、ようやく納得してくれたのかロランも平謝りだった。

「ふむう。大変だったようであるな……」

 唯一平然としてるのがジェシカだけだという。ちなみに、みんなそれぞれ好きな狩場で狩りをしていたんだとか。

「ジェシカは、自分が可愛いと思ったらもう、我を忘れちまう。記憶が吹き飛ぶほどな」

「うむ。ベホムの言う通りだ。ピッケルのことが愛おしくなって抱き着いたときまでは覚えてるが、そのあとは記憶が曖昧だ。まあ、ベホムに抱き着くよりはずっといいが……」

「おいジェシカ、そりゃ一体どういう意味だっ……⁉」

「……」

 ジェシカの癖って、結構ヤバいかもしれない悪癖だ。ただ、不幸中の幸いか、我に返るのにそんなに時間はかからないみたいだけど。

「ピッケルはまだこの生活に慣れてねえだろうし、パーティーが好き勝手に動くと戸惑うだろうが、その分みんなこうして自由に活動できるからな。そこがウルスリのいいところだ」

「確かに……」

「それにしてもよ、ピッケル。ここに来るのは別に構わねえどころかむしろ大歓迎なんだが、あの豪邸の居心地はあんまりよくねえのか?」

「い、いや、そういうわけでもないんだけど」

「もしかしてあれか、幽霊が出るとか……? いくら情報に疎い俺らでも、あそこは昔からそういうのが出るっていう噂くらいは聞いたことがあってな。なあ、ジェシカ、ロラン?」

「うむ、ベホム。それは私も聞いたことがあるな」

「リーダー、ボクもそれ聞いた覚えがありやす! でもまあ、ただの噂でしょうし……」

「……」

 ってことは、僕が自分の屋敷を出るときに聞いたあの声は幽霊のものだったんだろうか? みんなの話を聞いたことで、その可能性が深まってきたような。

 でも、不思議と嫌な感じはしなかった。声の主は僕に向かって穏やかに話しかけてきたことから、いずれはその正体もわかるような気がする……。
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