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第二十三話 似た者同士かも
しおりを挟む僕は師匠に自分の家を紹介することになった。
師匠と会うのはおよそ一年振りだから、弟子の僕がまさか豪邸に住んでるなんて思いもしないはず。
ベホムたちはみんな僕らに気を遣って、師弟水入らずということで二人だけにしてくれたんだ。なんせ久々の再会を果たせたわけだからね。
「師匠、見てください。これが僕の家です」
「お、おおぉ……ピッケル。これもお前が家を回復した結果なのだなっ!」
「よくわかりましたね。さすが師匠!」
「当然なのだ。以前は時間を戻す回復術を使うにしても、1分くらいしか戻せなかったのに、回復術師として本当に成長したようだの……」
「あはは……あの頃のこと、今でも鮮明に覚えてますよ。今じゃ、十年以上も時間を操作できるようになりましたけどね」
「そ、そりゃ凄い成長だの……。しかし、それくらい操作できるとなると、エネルギーの消耗もさぞ激しかろう?」
「はい、そりゃもう……。先日は、幽霊を回復したのもあって、一日中死んだように寝ちゃって……」
「……ゆ、幽霊までも回復しおったのか。相変わらず、ピッケルの回復術は規格外だの……」
「師匠。あの頃はそんなに褒めてくれなかったのに……」
「それは、まだピッケルが未熟だったのもあるが、弟子を思う師の心があるからこそ、なのだ」
「はいはい、そういうことにしておきます。でも、これも師匠の指導の賜物ですよ。さ、中へ……」
「あぁ……ん、ちょっと待て。ピッケルよ、なんか先客がおるようだぞ?」
「え? あ……」
「ピッケル、また女の子連れてきた!」
エルシアがカンカンの様子で僕らの元へと駆け寄ってくる。もちろん、ホウキを構えて師匠を威嚇していた。
「エルシア、落ち着いて。この人は僕の師匠だから」
「え……⁉ ピッケルの師匠なんだ……? あたいと同い年にしか見えないけど、もしかして、ピッケルが回復術を使って子供に戻しちゃったの?」
「いやいや……」
「おっほん。エルシアとやら、よく聞くがよい。わしはな、こう見えてドワーフの一族なのだ」
「ど、ドワーフ⁉ お髭が生えてるお爺ちゃんのイメージしかなかったけど!」
「失敬な。偏見もいいところなのだ……」
「そうだよ、エルシア。一概にドワーフといっても、住んでる地域によって違いがあるから……。それと、師匠はこう見えて25歳なんだよ」
「へ、へえぇ……」
「ピッケル……乙女の年齢を他人に言ってはダメだと習わなかったのかの?」
「ご、ごめんなさい、師匠……あ、そうだ。師匠、エルフとドワーフだから、相性ピッタリかもしれないですね!」
「ふぅむ。むしろ、相性は最悪だと思うがの……」
「ま、まあまあ。師匠、とにかく中に入ってくださいよ」
こうして師匠を屋敷の中に迎え入れると、エルシアはいつもと違う反応を示した。
僕の傍にピッタリとくっついて相手を警戒するっていうより、いつもと変わらない感じで師匠のことをジロジロと見ていたんだ。
僕の師匠っていうのもあるだろうけど、エルフにとってドワーフの存在は興味深いのかもしれない。
「どう、ピッケルとあたいのおうちは凄いでしょ」
「ふむう、そうだのお。わしの弟子として誇らしいわい」
「ジー……」
「ピ、ピッケルよ、なんかこの子にやたらとジロジロ見られとるんだがの……」
「師匠、我慢してくださいよ。エルシアの友達になってやってください」
僕が耳打ちすると、師匠は若干不満そうだったものの頷いた。
「ま、まあ弟子のためなら我慢しよう。正直、エルフは苦手なのだがのう……」
「あ、そうだ。旅には出なくてもいいんですか?」
「しばらくはじっとしておるつもりだから安心せい」
「おお……」
そりゃよかった。エルシアは一人でいるのがとても寂しかったみたいだからね。それに、二人とも馬が合いそうな気がする。見た目も似たようなもんだし。
「エルシアよ、わしの名はミシェル・アリスティアだ。しばらくここにいてやろう」
「別にいなくていいもん! あっかんべーだ!」
「こ、こやつ……!」
「ははっ……」
エルシアのやつ、師匠に反抗しつつもどこか嬉しそうだ。こんな姿の彼女を見るのは初めてかもしれない。
そのあとお茶を飲みながら、師匠との思い出話に花を咲かせた。大体、僕の回復術の話だ。
それについて、近くでじっと耳を傾けてたエルシアが質問してきた。
「ねえねえ、ミシェル。ピッケルの師匠なら、あなたも時間を操る回復術を使えるの?」
「わしが使えるかというとだな、実はまったく使えん」
「えぇ⁉」
「もちろん、論理は知っておる。しかし、論理だけがわかっても、この術は使えない。選ばれた者でなければ……」
「選ばれた者?」
「うむ、そうなのだ。彼の回復術は、心が深いからこそできる。ピッケルは、心の奥行きが普通の者よりもずっとあるのだ」
「心の奥行きかあ。なんかわかる気がする! それって広げられるの?」
「心の奥行きには天性のものもあるし、後天性のものもある。もちろん、わしがいたからこそピッケルの心はここまで広がり、時間を操る回復術が使えるようになったというわけなのだ」
「なるほど……さすが、あたいのピッケル!」
「いやいや、わしの弟子だからわしのものだが?」
「あたいのものだもん!」
「「ムムッ……!」」
「……」
おっかない顔で睨み合うエルシアと師匠。さっきまで和やかに話してたのにこの変わり様。やっぱり似た者同士なのかもしれない……。
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