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第二十四話 初心者じゃ仕方ない
しおりを挟む僕たち【狼の魂】パーティーがエドガータワーへ行くまで、とうとう残り三日になった。
しかも王様が天覧されるということで、より気合が入ってるのも事実だ。
「んじゃ、そろそろ出発といこうぜ?」
「「「「「了解っ!」」」」」
そこで、ベホムたちの宿舎にて、これからみんなで地下水路ダンジョンへと出発したところだ。
いつもなら、ちょっと前に古代地下迷宮へ行ったのもあり、少し訓練するくらいで済ませる予定だったという。
それが、王様が天覧することになったのはもちろん、マリベルとレビテが入団したことで、実戦によって連携を深めたいっていう狙いがあるんだそうだ。
いわば、最後の予行演習ってわけだ。
地下水路ダンジョンは町の北西、郊外に位置する迷宮の一つだ。
古代からあった小さな水路が、そこに蔓延した魔力と長年の月日を得てダンジョンと化し、現在の複雑な構造へと変貌を遂げたのだという。
とはいえ、古代地下迷宮よりも難易度が低く、比較的安全なダンジョンってこともあり、みんなリラックスムードだった。
「地下水路だなんて、なんだか気分が悪いですわ。もっと上品なダンジョンはありませんこと?」
「「「「「……」」」」」
もしかして、下水のようなイメージなのかな? 公爵令嬢マリベルの一言で、若干空気は淀んだっていうか凍り付いたけど、負の要素なんてそれくらいだった。
回復術師として、ダンジョンに行くときはいつも興奮する。
それは【超越者たち】のときも同じだった。
今頃どうしてるのやら。
未練があるかっていえばまったくないけど。
木々の点在する草原を歩いていると、前方のほうにダンジョンの入口が見えてきた。
それは井戸だ。
「俺が先に行くから、慎重に降りろよ。くれぐれも、足を滑らせないようにな」
リーダーの戦士ベホムを先頭に、みんなで井戸の梯子を下りていく。
ここは郊外にあるし入り口は狭いしで、利便性という意味でも冒険者たちの足も遠のきそうなダンジョンだけど、僕には思い出深いダンジョンでもある。
なんせ、初めて潜ったダンジョンがここだからね。
【超越者たち】パーティーもあの頃はまだまだ駆け出しだったこともあって、すぐヘトヘトになってみんなで逃げるように帰ったのも良い思い出だ。
「――ふう……」
ようやく梯子を下り切った僕らは、ダンジョンのスタート地点に立った。
じめじめとした空間の脇には水路がある。
風もないのに不気味に波立つ水路は赤く光っていて、ダンジョンを明るく照らすとともにモンスターの発生源にもなっている。
ここは主にリザードマン、ブラッディアリゲーター、キラーフィッシュ、フューリーバット等のモンスターが出現する。
「こんなところ、ピッケル様の手を煩わせずとも、わたくし一人でも充分ですわ――って、ひ……ひあああああっ!」
マリベルが青い顔で悲鳴を上げたと思ったら、早速一匹のモンスターが登場した。
テーブルサイズのでっかいゴキブリ、すなわちジャイアントコックローチだ。そうそう、こういうモンスターも出るんだった。
「はぁっ……!」
その直後に剣士レビテがゴキブリをバラバラに切り裂き、一瞬で倒してしまった。
「マリベルったら、これのどこが怖いんでしょう……? むしろ、可愛いくらいですよっ」
「……」
何事もなかったかのように微笑むレビテが、僕は若干恐ろしく感じた。
「というかなあ、レビテ……。モンスターが現れたらよ、倒すんじゃなくてまずは俺を盾にするように心がけてくれ」
「あ……申し訳ありません、ベホムさん!」
ハッとした顔で平謝りのレビテ。まあ彼女は初心者だからしょうがない。
それ以降、僕たちはベホムの言う通り、モンスターを倒すことより、連携を高めるためにじっくり戦うことを優先した。
その結果、みんなそれぞれの役割をこなせるようになってきた感じだ。
「――ふう。マリベルもレビテも、中々いい感じじゃねーか。やっぱりセンスあるぜ。なあ、ジェシカ、ロラン、ピッケル」
「……うむ。私としてはまだまだ物足りないが、連携という意味ではまあまあじゃないかと」
「確かに、二人とも初体験の割りに、いい動きをしやがりますねえ」
「そうだね。この調子でいけば、今日中に仕上がるんじゃないかな?」
「フンッ、当然ですわ! こんなダンジョンであれば、わたくしとピッケル様だけでも十分なくらいですわよ。オホホッ!」
「……」
マリベルはすぐ調子に乗っちゃうんだからなあ。
「マリベルったら。あんまり我儘を言うようだと、コックローチさんの脚をプレゼントしちゃいますよ……?」
「ひぃっ⁉ レ、レビテ、それだけはやめてくださいまし! 想像もしたくありませんわ!」
マリベルが一転して異様に怯え出したので笑い声が上がる。
こんな感じで、色んな意味でパーティーの呼吸がどんどん合っていく。その楽しさを僕たちは肌で体感していた。これがあるから冒険者をやめられないんだ。
「――あ、みんな、ちょっと待ちやがれください! この感じ……多分、ボスがいやす!」
ふと、盗賊のロランが思わぬ言葉を発した。ここはモンスターが多くなる等の、ボスが出現するわかりやすい目印がない。だから盗賊の索敵が頼りになる。
この地下水路ダンジョンはそんなに頻繁にモンスターが出るわけじゃないので、化け物の放つ魔力に邪魔をされずに索敵をしやすいっていうのはある。
盗賊は頭で索敵すると思いがちだけど、実はそうじゃないんだ。
吟遊詩人が楽器を指で覚えるように、盗賊は利き手の指先に生じる僅かな感覚でボスの居場所を知覚することができる。
「しかも、なんか複数の声と悲鳴が聞こえてきやすぜ。ここからはかなりの距離がありやすが……」
「……」
複数の声と複数の悲鳴か。じゃあパーティーでボスと遭遇して交戦したものの、苦戦を強いられてるんだろうね。
ここのボスはそんなに強くはないけど、初心者パーティーじゃさすがに荷が重いので、そういう人たちが紛れ込んだのかもしれない。
「そんなに距離があるんじゃ、助けようにも間に合わんな……。気の毒だがしょうがねえ。ボスは後回しでもいいだろ。そもそも、俺らがここへ来たのは連携を深めるのが目的だからな」
「「「「「確かに……」」」」」
ベホムの言葉に僕たちは頷く。確かにそうだ。彼の言う通り、今から助けに行っても間に合わないし、ボスと戦うのはパーティーの連携にもっと磨きをかけてからでもいい。
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