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第二十五話 利き手の重要性(相手side)
しおりを挟む【狼の魂】パーティーが地下水路ダンジョンを訪れる少し前。
ピッケルがかつて所属していた【超越者たち】パーティーもまた、同ダンジョンへと足を運んでいた。
王様が天覧する予定の日にエドガータワーへ行く前に、難易度の低いダンジョンに潜って訓練がてら、失いつつある自信を取り戻そうということになったのだ。
それに加え、盗賊ネルムの利き手である欠損した右手に義手をつけ、なんとか現状を打破しようと計画していたのである。
「ネルム、義手の具合はどうだ? それ、高かったんだぞ。上手く使えてるか?」
「……」
「ネルム? おい、何黙ってんだ。返事くらいしろよ」
「……これじゃ、何も感じないの……」
「な、何も感じられないだと? だったら、感じられるようになるまで努力しろみろってんだよ! なあ、おい、お前のためにその義手で250ギルスも使ったんだぞ⁉ ふざけんなよ。真面目にやらねえつもりなら今すぐ出ていけ――」
「ディラン、ネルムは右手が欠損しただけじゃなく、そのときのトラウマもあるのよ。なのに、そこまで言うことはないでしょ! あなたはリーダー失格よ!」
「ったく、ガタガタうるせーな! リシャ、お前らのくだらねえ友情ごっこに付き合ってる暇なんてねえんだよ! こっちは250ギルスもする高価な義手まで用意してやってんだぞ⁉」
「ふ、二人とも、ダンジョン内でも喧嘩するのは、控えてもらえませんかね。ここだと特に響きますし、耳障りなのですよ……」
「そうっすよ。クラフトの旦那の言う通りっす。あー、おいらマジ頭いてえっす……」
「「……」」
戦士クラフト、回復術師カインが宥めたことで、ディランとリシャは渋々といった様子で矛を収めたものの、相変わらず火種は燻ぶったままであった。
「あたしが魔法を発動させるまで、もうちょっと耐えててね、クラフト!」
「フッ……リシャ、この程度ならば、自分でも耐えられますよ……」
地下水路のモンスターを大量に抱えていたクラフトに氷化魔法、さらには雷魔法が発動し、残ったモンスターをディランが片付ける。
「いいぞ、みんな、その調子だ! おい、役立たずのカイン、とっとと回復して次行くぞ!」
「へいへい」
【超越者たち】パーティーの道のりは一見すると順調だったが、大きな課題が残っていた。
それは、メンバーの中で唯一、盗賊ネルムの存在が機能していなかったことだ。
その場にいる誰もが、その問題を認識していたものの、見て見ぬふりをしていたのかもしれない。
嫌なもの、面倒なものを視界に入れたくなかった、触れたくなかったのかもしれない。
しかし、パーティーの病状は、目には見えにくいだけで徐々に進行していたのである。
「……」
盗賊ネルムは、パーティーの先頭を歩きながら、しきりに利き手に装着された義手を確認していた。盗賊には、とりわけ重要な仕事が二つある。索敵ともう一つ。トラップの探知と解除だ。
この世に存在する、ありとあらゆるダンジョンの内部には、トラップと呼ばれるものが必ず用意されている。
それは、ダンジョン自体が侵入者の行く手を遮ろうと自然に生み出すものであり、トラップの効果も迷宮によって違うのはもちろんだが、その日によって種類が変化するのが一般的だ。
なので、盗賊の存在はパーティーにとって必要不可欠といわれているのだ。
「――うっ……」
「「「「「ネルム……⁉」」」」」
そのとき、遂に誰もが恐れるようなことが起きた。
ネルムがトラップの存在に気づかずに踏んでしまい、罠を発動させてしまったのだ。
「ふわ……」
異変に気付いたときには、彼らはいずれも目が半開きになっていた。
これは、状態異常の罠の一つ、睡魔トラップである。
このトラップの特徴は、眠くなるという自然に近い作用によって、自分たちが罠に嵌った事態に気づくのが少し遅れてしまうことだ。
「……こ、この異常な眠気……こりゃ……罠っす……。なんとかしねっとやべえっすねえ……」
この異変に一早く気づいたのは、皮肉にもメンバーからピッケル以下と烙印を押されている回復術師カインであった。
「――か……回復、完了っすうぅ……」
睡魔トラップの真に恐ろしいところは、こうして気づいて回復したとしても、その後遺症がしばらく残るということだ。
ディランたちの精神や足元は、しばらくの間酔っぱらいのように覚束なかった。それゆえに、彼らは重大な見落としをすることになる。
「ガアアアアァァッ……」
「「「「「はっ……⁉」」」」」
それは、地下水路ダンジョンにも当然湧くボスの存在である。
その名もキングアリゲーター。
体長およそ5メートルという、巨大なワニの姿をしたボスモンスターが、ディランたちのすぐ脇にある水路からその禍々しい姿を現したのだ。
「……にっ……にげっ……逃げろおおぉぉぉっ……!」
なんとか声を絞り出した剣士ディラン。
リーダーの彼を筆頭に、パーティーはこのままの状態では戦えないと判断して逃げようとするが、そこでまたしても悲劇が起きることになる。
「あっ……」
逃げる際に魔術師リシャが足を縺れさせ、その場に転倒してしまったのだ。
「グゴオオオオオォッ!」
「ぎっ……?」
チャンスとばかりキングアリゲーターが襲い掛かり、魔術師リシャの左足は無残にも噛み千切られてしまう。
「ひぎゃあああああぁぁっ!」
悲鳴を上げ、失神したリシャを戦士クラフトが抱えると、彼らは足を代償にしてその場をなんとか立ち去るのであった……。
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