25 / 47
第二十五話 利き手の重要性(相手side)
しおりを挟む【狼の魂】パーティーが地下水路ダンジョンを訪れる少し前。
ピッケルがかつて所属していた【超越者たち】パーティーもまた、同ダンジョンへと足を運んでいた。
王様が天覧する予定の日にエドガータワーへ行く前に、難易度の低いダンジョンに潜って訓練がてら、失いつつある自信を取り戻そうということになったのだ。
それに加え、盗賊ネルムの利き手である欠損した右手に義手をつけ、なんとか現状を打破しようと計画していたのである。
「ネルム、義手の具合はどうだ? それ、高かったんだぞ。上手く使えてるか?」
「……」
「ネルム? おい、何黙ってんだ。返事くらいしろよ」
「……これじゃ、何も感じないの……」
「な、何も感じられないだと? だったら、感じられるようになるまで努力しろみろってんだよ! なあ、おい、お前のためにその義手で250ギルスも使ったんだぞ⁉ ふざけんなよ。真面目にやらねえつもりなら今すぐ出ていけ――」
「ディラン、ネルムは右手が欠損しただけじゃなく、そのときのトラウマもあるのよ。なのに、そこまで言うことはないでしょ! あなたはリーダー失格よ!」
「ったく、ガタガタうるせーな! リシャ、お前らのくだらねえ友情ごっこに付き合ってる暇なんてねえんだよ! こっちは250ギルスもする高価な義手まで用意してやってんだぞ⁉」
「ふ、二人とも、ダンジョン内でも喧嘩するのは、控えてもらえませんかね。ここだと特に響きますし、耳障りなのですよ……」
「そうっすよ。クラフトの旦那の言う通りっす。あー、おいらマジ頭いてえっす……」
「「……」」
戦士クラフト、回復術師カインが宥めたことで、ディランとリシャは渋々といった様子で矛を収めたものの、相変わらず火種は燻ぶったままであった。
「あたしが魔法を発動させるまで、もうちょっと耐えててね、クラフト!」
「フッ……リシャ、この程度ならば、自分でも耐えられますよ……」
地下水路のモンスターを大量に抱えていたクラフトに氷化魔法、さらには雷魔法が発動し、残ったモンスターをディランが片付ける。
「いいぞ、みんな、その調子だ! おい、役立たずのカイン、とっとと回復して次行くぞ!」
「へいへい」
【超越者たち】パーティーの道のりは一見すると順調だったが、大きな課題が残っていた。
それは、メンバーの中で唯一、盗賊ネルムの存在が機能していなかったことだ。
その場にいる誰もが、その問題を認識していたものの、見て見ぬふりをしていたのかもしれない。
嫌なもの、面倒なものを視界に入れたくなかった、触れたくなかったのかもしれない。
しかし、パーティーの病状は、目には見えにくいだけで徐々に進行していたのである。
「……」
盗賊ネルムは、パーティーの先頭を歩きながら、しきりに利き手に装着された義手を確認していた。盗賊には、とりわけ重要な仕事が二つある。索敵ともう一つ。トラップの探知と解除だ。
この世に存在する、ありとあらゆるダンジョンの内部には、トラップと呼ばれるものが必ず用意されている。
それは、ダンジョン自体が侵入者の行く手を遮ろうと自然に生み出すものであり、トラップの効果も迷宮によって違うのはもちろんだが、その日によって種類が変化するのが一般的だ。
なので、盗賊の存在はパーティーにとって必要不可欠といわれているのだ。
「――うっ……」
「「「「「ネルム……⁉」」」」」
そのとき、遂に誰もが恐れるようなことが起きた。
ネルムがトラップの存在に気づかずに踏んでしまい、罠を発動させてしまったのだ。
「ふわ……」
異変に気付いたときには、彼らはいずれも目が半開きになっていた。
これは、状態異常の罠の一つ、睡魔トラップである。
このトラップの特徴は、眠くなるという自然に近い作用によって、自分たちが罠に嵌った事態に気づくのが少し遅れてしまうことだ。
「……こ、この異常な眠気……こりゃ……罠っす……。なんとかしねっとやべえっすねえ……」
この異変に一早く気づいたのは、皮肉にもメンバーからピッケル以下と烙印を押されている回復術師カインであった。
「――か……回復、完了っすうぅ……」
睡魔トラップの真に恐ろしいところは、こうして気づいて回復したとしても、その後遺症がしばらく残るということだ。
ディランたちの精神や足元は、しばらくの間酔っぱらいのように覚束なかった。それゆえに、彼らは重大な見落としをすることになる。
「ガアアアアァァッ……」
「「「「「はっ……⁉」」」」」
それは、地下水路ダンジョンにも当然湧くボスの存在である。
その名もキングアリゲーター。
体長およそ5メートルという、巨大なワニの姿をしたボスモンスターが、ディランたちのすぐ脇にある水路からその禍々しい姿を現したのだ。
「……にっ……にげっ……逃げろおおぉぉぉっ……!」
なんとか声を絞り出した剣士ディラン。
リーダーの彼を筆頭に、パーティーはこのままの状態では戦えないと判断して逃げようとするが、そこでまたしても悲劇が起きることになる。
「あっ……」
逃げる際に魔術師リシャが足を縺れさせ、その場に転倒してしまったのだ。
「グゴオオオオオォッ!」
「ぎっ……?」
チャンスとばかりキングアリゲーターが襲い掛かり、魔術師リシャの左足は無残にも噛み千切られてしまう。
「ひぎゃあああああぁぁっ!」
悲鳴を上げ、失神したリシャを戦士クラフトが抱えると、彼らは足を代償にしてその場をなんとか立ち去るのであった……。
790
あなたにおすすめの小説
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。
あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」
長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。
だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。
困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。
長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。
それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。
その活躍は、まさに万能!
死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。
一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。
大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。
その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。
かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。
目次
連載中 全21話
2021年2月17日 23:39 更新
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
最強付与術師の成長革命 追放元パーティから魔力回収して自由に暮らします。え、勇者降ろされた? 知らんがな
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
旧題:最強付与術師の成長革命~レベルの無い世界で俺だけレベルアップ!あ、追放元パーティーから魔力回収しますね?え?勇者降ろされた?知らんがな
・成長チート特盛の追放ざまぁファンタジー!
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】
付与術のアレンはある日「お前だけ成長が遅い」と追放されてしまう。
だが、仲間たちが成長していたのは、ほかならぬアレンのおかげだったことに、まだ誰も気づいていない。
なんとアレンの付与術は世界で唯一の《永久持続バフ》だったのだ!
《永久持続バフ》によってステータス強化付与がスタックすることに気づいたアレンは、それを利用して無限の魔力を手に入れる。
そして莫大な魔力を利用して、付与術を研究したアレンは【レベル付与】の能力に目覚める!
ステータス無限付与とレベルシステムによる最強チートの組み合わせで、アレンは無制限に強くなり、規格外の存在に成り上がる!
一方でアレンを追放したナメップは、大事な勇者就任式典でへまをして、王様に大恥をかかせてしまう大失態!
彼はアレンの能力を無能だと決めつけ、なにも努力しないで戦いを舐めきっていた。
アレンの努力が報われる一方で、ナメップはそのツケを払わされるはめになる。
アレンを追放したことによってすべてを失った元パーティは、次第に空中分解していくことになる。
カクヨムにも掲載
なろう
日間2位
月間6位
なろうブクマ6500
カクヨム3000
★最強付与術師の成長革命~レベルの概念が無い世界で俺だけレベルが上がります。知らずに永久バフ掛けてたけど、魔力が必要になったので追放した元パーティーから回収しますね。えっ?勇者降ろされた?知らんがな…
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる