ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第2回 解放

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「――ふー……」

 強い日差しの中、俺はキンキンに冷えた缶コーヒーを一気に飲みほしたわけだが、零したと勘違いするほどの大量の汗が足元に滴り落ちていた。

 朝っぱらからぶっ続けで仕事をしてきただけに、乾ききった体が驚きつつも喜んでいるのがわかる。午前中の30分ほどの休憩時間に、一か所に集めたコーヒーやお茶をみんなと飲み合うのが至福の一時なんだ。

「おう、あんちゃん、今日も頑張ってるなー」

「あ、玄さん、どうも」

 俺は冷たいタオルを班長の玄さんから受け取って首に巻いた。ひんやりとしててこれがまた最高に気持ちいいんだ。

「俺は昨日の件でよ、あんちゃんの気が変わって仕事をやめちまうんじゃないかって心配してたんだよ」

「いやいや、それはないですよ。俺、この仕事も悪くないって思ってるんで」

「それならいいんだけどよ、あんちゃんはスレイヤーに憧れてたって聞いてたからなあ」

 笑顔の玄さんからポンポンと肩を叩かれる。班長は気に入った人間にしかこれをやらないが、大抵の人間が顔をしかめてるのを見ればわかる通り、歳の割りにかなり腕力があるんだ。俺は鍛えすぎてほとんど痛みを感じないが。

「確かに憧れてましたけど、もう終わったことですよ。あれはエリート種にしか無理ですから」

「けど、あんちゃんはそのエリート種でもないのに、レベル1まで上げたっていうから、本当に大したもんだぜ。その鍛え上げた筋肉、充分すぎるほど役立ってるぞ」

「これからも大いに役立ってみせますよ」

「そうしてくれるとありがたいがな。一度も音を上げたことがないあんちゃんは俺たちのアイドルみてえなもんだからよ」

「あはは……」

 そりゃ、レベル0から1にする苦行に比べたらなんでも大したことがないように思えてしまう。あのときは本当に死ぬんじゃないかと思ったもんだ。

 一週間以内に腕立て伏せと腹筋を1万回ずつ、さらに500キロを走るっていうのはあまりにも過酷すぎる。

 運動系が苦手な場合、それ以外でもレベルを上げる方法はあるんだが、そっちを選んだとしても同じ期限内に文字を1000万字読むだけでなく、一切身動きせず、無の境地で24時間ひたすら瞑想し続けなきゃいけない。少しでも動いたり雑念が入ったりするとやり直しになる。

 レベル1から2になるためには瞑想以外倍の回数をこなさなきゃいけないだけに、やる前から諦める人間がほとんどだろうと思えるレベルだった。

 一般人は一生レベル0のままっていわれるのもうなずける難易度の高さだ。まあ、自分にはもう関係のないことだからどうでもいいことか。昨日の出来事は衝撃的だったが、一日経って夢から覚めたような気分なんだ。スレイヤーにまったく未練がないといえば嘘になるけど。

「「「「「――お疲れー」」」」」

 夕方になる頃に仕事が終わって解散となり、俺は帰路に就いた。もうそろそろ六時だ。

 そうだな……節約のために家で何か簡単な料理でも作ろうかと思ったけど、今日はやたらとだるいし近くのコンビニで弁当でも買っていくか。

「…………」

 あれ? 俺はコンビニに入った途端、に気付いた。内部は外から見た光景と全然違ったのだ。

 おばさんがカウンターの前にいて、若い男が雑誌のコーナーにいるはずが、二人ともコンビニの隅でうずくまっていたのだ。

 まさか、強盗事件でも発生したのかと思って周囲を見回したが、カウンター近くには店員の姿もなかった。これは一体どういうことなんだ……?

 ん、視界にマイクロチップを通じてウィンドウが出てきたと思ったら、その枠内にとんでもないメッセージが表示されていて俺はしばし目を疑った。

 クエスト【コンビニダンジョン】が解放されました。

 クエストランク:F

 クリア条件:ダンジョンのどこかにいるボスを倒すこと。

 成功報酬:ステータス10ポイント付与 ※最初に倒した人限定

 注意事項:見た目に騙されないようにしましょう。

 おいおい……コンビニがダンジョン菌に感染したっていうのか……。俺はすぐに引き返そうとしたものの、自動ドアはまったく反応しなかった。

 なんだこりゃ。腕力にはそれなりに自信があるのに、自力で開けようとしてもびくともしないんだ。それならとばかり何度か体当たりしてみたが、皹すら入らなかった。

 なるほど、客がうずくまってたのは何度も脱出しようとしたのに出られなかったからか。

 ダンジョンは発生した場合でも、すぐにスレイヤーがやってきて解決したり、警察に規制線を張られたりして一般人は入るのが難しいし、今までこういうことはなかった。なので多分発生してからそんなに時間は経ってないんだろう。

 視界の片隅にはマップのウィンドウが表示されており、そこには自分のマーカーもあった。

 ほとんどの人間がこういうときに備えてマイクロチップを体内に埋め込み、ワクチンだって打っているわけだが、実際に遭遇するとやはり戸惑ってしまう。とんでもないことに巻き込まれちゃったもんだな。

 当然の如く外部に連絡もできなくなってしまっている。こんなときでもダンジョンスレイヤーなら喜ぶんだろうが、俺はただの一般人でしかないわけで、これからどうすりゃいいんだか……。
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