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第1回 目覚め
しおりを挟む「「「「「あっ……!」」」」」
俺を含む、上擦った声が工事現場から上がる。続いて飛び出したのが、もうダメだ、チッキショウ、終わりだ、そんなおっちゃんたちの悲観的なダミ声だった。
それも仕方ないの話だ。仕事仲間がクレーンで吊り下げていた鉄筋が落下してしまい、その下を通りかかった女性に命中してしまったのだから。こりゃ、間違いなく即死だな……。
あまりのことに気が動転して我を忘れそうになるが、そこまで疲労困憊でもなかったせいかすぐに我に返ることができた。そうだ、俺の名前は佐嶋康介といって、工事現場で働いている二五歳の男だ。
本当は憧れのダンジョンスレイヤーになりたかったんだが、俺みたいな一般人じゃどうあがいてもダメだった。こればっかりは仕方ないし、この仕事も悪くないと思っていた矢先、なんとも嫌な事故が起きてしまった。
ただ、被害者は立ち入り禁止の看板と停止線を無視しているので、こっちだけが悪いわけじゃない……って、そんな面倒なことを考えるより、まずは鉄筋に巻き込まれた女の人の死体を回収してやらないとな。
きっと酷い有様になってるだろうが、見たくないからってこのままにしてはおけない。
「「「「「よいせっと……」」」」」
みんなで一斉に鉄筋を持ち上げると、下敷きになっていた女性がうつぶせに倒れているのがわかった。
主に頭部が陥没していて出血量が酷いものの、意外と損傷はそこまで酷くなかったので驚く。あの華奢な体格だとペシャンコになっててもおかしくないと思っただけに。気の毒ではあるが、苦しまずに即死できたことだけが幸いか。
「――う……」
「「「「「えっ……?」」」」」
俺たちは呆然とした顔を見合わせた。被害者の女性は呻き声を上げたかと思うと、何事もなかったかのように立ち上がったんだ。
っていうか、体の損傷もすっかり治っている。ま、まさか、これは……。
「みなさん、お邪魔したようですね。それでは、急ぎますので」
なんとも冷たい感じの声を残して、腰まである長い髪の女性は足早に立ち去ってしまった。
「あれは……ダンジョンスレイヤー、なのか……」
俺は思わず震え声を発した。スレイヤーの中でも、あれはヒーラーと呼ばれる部類のはず。憧れのスレイヤーのことだから割りと詳しい自信があるんだ。
「おいあんちゃん、あれがスレイヤーだって?」
班長の玄さんが声をかけてきた。リーダーなのに堅苦しいからと名前で呼んでほしいと言ってくれる気さくなおっちゃんだ。
「はい、間違いないですよ、玄さん」
「信じらんねえ。ただの細い女じゃねえか。スレイヤーっていうのはもっと筋肉隆々だとばかり思ってたのに」
「それが、スレイヤーがレベルアップで得られる筋力は、普通の筋肉とはまったく別物らしいですよ」
「へえ、だから見た目があんななのか……」
それにしても凄い回復能力だし、あの女は並みのヒーラーじゃないはず。というか、最高峰といえるんじゃないか? あれじゃ医者も真っ青だな……。
この世界で勝ち組といわれるのは、高給取りの医者でも政治家でもなく、ダンジョンスレイヤーなんだ。
俺が産まれるずっと前、ダンジョン菌って呼ばれる異次元のウィルスが流行して、人や物がダンジョン化するという摩訶不思議な現象が起こった。
それに罹患しないよう、対抗してワクチンを打った人間の中に、エリート種と呼ばれる者たちが出てきた。それがダンジョンスレイヤーの卵だ。
彼らはステータスという、潜在的な能力の数値が最初から高い状態なので、普通の人は達成が難しいレベルアップクエストをクリアすることができ、レベル10になれば晴れてダンジョンスレイヤーになることができる。
これが俺たち一般人の場合だと、ワクチンを打つとダンジョン化する確率は減るものの、ステータスもレベルも最初からゼロなのでスレイヤーになりたくてもなれないんだ。
それでも、ダンジョンスレイヤーに憧れていた俺は地道に訓練を積み、一週間以内に腕立て伏せ、腹筋1万回等をこなすというレベルアップクエストのクリア条件を死に物狂いでこなし、念願のレベル1になった。
ただそれで変わったことというのは無駄に筋肉がついただけで、潜在能力が上がるステータスポイントを貰えるのはレベル2からだっていうからなんとも虚しい。レベル2からはレベルアップの条件も倍になるから無理ゲーなんだ。
これがエリート種だと軽々とこなせるっていうんだから驚かされる。彼らは腕立てや腹筋に必要なエネルギーをオーラとして放出するだけで回数が自動的にカウントされるらしい。それでもかなり気力を消耗するので、レベルアップまで最低でも三日はかかるそうだが。
「とにかくお前たち、さっきのは見なかったことにして、仕事の続きをやるぞっ!」
「「「「「ういっす!」」」」」
玄さんの声で俺は我に返る。ま、エリートはエリート、雑草は雑草だしな。世界が違うんだし、俺たちは自分たちのやるべきことをやるだけだ。こういう地味なことを黙々とやる人間も世の中には必要なはずだから。
「…………」
それでも、俺は気付くとあのスレイヤーが消えた方向に視線がいってしまっていた。自分の中で燻っていたものが目覚めたみたいだ。あんなものを見せられたんだから、今日ばっかりはしょうがないよな……。
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