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第19回 別離
しおりを挟む「お、お前は……」
俺が呆然と見上げていた人物……それは、どす黒い笑みを浮かべる少女、黒坂優菜だった。
「へへっ、わりーな。佐嶋……」
「く、黒坂……お前、まさか俺たちを裏切るつもりなのか……」
「なんだよ、ここまでやってんのに、本気じゃなくて冗談だとでも思ってるのか? 佐嶋ぁ、あんたのことは別に嫌いじゃないけど、それはそれ、これはこれなんだよ。わかるか?」
「…………」
「お、お前さん、正気なのか……!?」
「ん? なんであたしが狂ってると思うんだよ、爺さん、耄碌したのか?」
「こ、こやつ……」
「チッ……! だから仲間なんて信用ならないんだ。正気も何も、これがこいつの本性だろ!」
「野球帽の藤賀、ご明察。あんたの言う通りだよ。あたしは初めっから、こういうチャンスがあれば裏切ってやろうって思ってたからねぇ」
「…………」
そういえば、最初にパーティーメンバーを募集したのが黒坂だったか。不良風とはいえやけに勇気のある女子高生だとは思っていた。もうあの時点でそういうことを考えていたとは、本当に大したもんだ……。
だが、命運は尽きたようだな。赤いウォーニングゾーンが裏切者の足元に浮かんでいる。カウントダウンも既に始まっていて、あと3秒で終わりだ。
「――ブオオオォォッ!」
「はっ!?」
黒坂の足元からデッドリーゼリーが飛び出してきたと思ったとき、彼女は信じられない速度でかわしていた。な、なんだって……?
「クククッ、危ないところだったなあ、お前……」
黒坂の背後に立っていたのは、虐殺者の羽田京志郎だった。そうか、やつが間一髪のところで助けたのか……。
「あ、ありがとう、羽田、助かったぜ。あんた滅茶苦茶ヤベーやつだけど、結構いいやつだな!」
「はあぁ? この私がいいやつだと? ハハハッ……まあ、そこそこ面白い。気に入ったぞ、黒坂とやら……」
凄みのある笑みを浮かべる羽田。どうやら裏切者の黒坂とすっかり共鳴したみたいだな。
「く、黒坂よ、お前さん、こんな簡単にわしらを裏切って、しかもそんな男の味方になるなんて、それでも人間なのか……!?」
「あぁ? うるせえんだよ、このクソジジイッ!」
「ぐあっ!?」
黒坂に頭をバットで殴られて倒れる風間。頭から血を流しているのでまずいと思ったが、しきりにまばたきを繰り返していることから、意識が朦朧としている状態ではあるもののまだ生きているのがわかる。
「チッ……バカが、余計なことを言うから……」
「そうそう、野球帽の言う通り、雑魚どもは黙ってりゃいいだけなんだよ。死にたくなきゃなあ」
「…………」
俺たちは一体どうしたらいいんだ。黒坂には虐殺者の羽田という味方がいるし、このままじゃボスを倒されてしまうだけでなく、自分たちも皆殺しにされるかもしれない。ここまで頑張ってきたのに最後の最後に裏切者に全部奪われるなんて無念すぎる……。
「黒坂ぁ、甘いぞ」
「あ、甘いって? あたしが?」
「そうだぁ……。爺と野球帽はどうでもいいが、そこの佐嶋という男は有能すぎる。後々、厄介な存在になるだろうから、お前の手で殺せ……」
「……あ、そういやこいつ、ボスの攻撃位置とか予測できるし、めっちゃ勘が鋭いやつだったよな。確かに今のうちに殺したほうがいいかも……」
「どうした、私の言っていることが理解できたなら早くやれ」
「わ、わかってるさ。殺す……ぶっ殺してやる……! 佐嶋、悪く思うなよ……」
「……悪く思うなだって? 本気で言ってるのか?」
「あぁ? 何か文句あんのか、佐嶋ぁ?」
「こんな、人間として最低なことをしておいて、悪く思わない人間がこの世にいるとでも思うのか、お前は……」
「な、なんだよ、その目は……」
俺は黒坂を睨みつけるのではなく、やつの目を真っすぐに見つめてやった。
いくら悪党でも良心がまったくない人間のほうが珍しいし、このほうが効き目があると思ったからだ。たとえこのまま死んだとしても、俺の残像はしばらく残るはず。
「さあ、やり直すなら今のうちだぞ、黒坂……」
「う……うるせえぇっ! あたしはこれを機会に人生を変えてやるんだ。その邪魔をするやつらは誰だろうと、みんなぶっ殺してやるってんだよおおぉぉっ!」
「っ!?」
黒坂の叫び声とともにバットが振り下ろされ、自分の頭部に強い衝撃が走るのがわかる。何度も何度も。その際、もう少しでお前の欲しいものが手に入るという羽田の囁くような声が聞こえた気がした。
「…………」
やがて、意識が段々と朧気になってきて、肉体と魂が分離していくような感覚を味わうことになった。これが、死か……。
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