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第20回 呆然自失
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「――う……」
ぼんやりとした天井らしきものが、少しずつ鮮明になっていくのを俺はじっと見ているだけだったが、まもなく薬品の刺激的な匂いが鼻腔をくすぐってきて我に返った。
「……こ……ここ……は……?」
そこは病室で、俺はベッドの上にいるようだった。
俺はあのとき死んだと思ったが、助かったのか……ん、近くに誰かがいるな。白い服を着ている女の人みたいだ。看護婦だろうか。
「か、患者さんが目覚めましたっ!」
「…………」
そうか、やはりそうだったか。彼女は慌てた様子で部屋を飛び出していったし、これから誰かを呼んでくるみたいだな……。
「――そのまま、楽にしてください。意識ははっきりしていますか?」
「……は、い……」
それから、俺は病室にやってきた医者から思わぬことを知らされることになった。
俺は頭部に重傷を負った影響で、なんと一年もの間眠っていたというのだ。普通の人ならとっくに死んでいてもおかしくないほどの重体で、病院に運び込まれてから今日までずっと植物状態だったらしい。
こっちも色々と聞きたいことがあるが、声すらまともに出ないので医者や看護婦の話に耳を傾けることしかできなかった。
家族にも連絡しておいたとのこと。毎日のように来ていたらしいし、母さんと妹には本当に迷惑かけちゃったな。
裏切者の黒坂優菜、虐殺者の羽田京志郎に対してはふつふつと怒りが湧いてくるが、野球帽の藤賀真優や、爺さんの風間昇のことも気になる。あのあと死んでなければいいんだがな。今頃どこで何をしてるんだろうか……?
「……う……」
考えすぎて疲れたせいか、俺はいつの間にか眠ってたみたいだ。
ん、テレビからニュースが流れ始めた。ちょっと聞いてみるか……。
『えー、本日、インタビューを受けるのは、一般人の身でありながらダンジョンをクリアし、そこから一気に人気スレイヤーへと成り上がった、黒坂優菜さんです!』
「っ!?」
な、なんだって……?
『自分に自信がなくてもさ、怖がらずにちゃんとワクチンを打てってことだね。それがあったから、現役女子高生のあたしでもこうしてダンジョンをクリアできたし、念願のスレイヤーにもなれたんだからさ!』
「…………」
パチパチとスタジオだけでなく、この病室からも拍手が上がるのがわかる。どうやら、俺は植物状態から目覚めたってことで、個室から大部屋に移されたみたいだな。
そうか、あのコンビニダンジョンを一般人の立場でクリアしたことで、黒坂はスレイヤーの中でもアイドル的な存在に成り上がったってわけだ……。
ってことは、一年前に報酬としてステータスポイントを得たことが大きかったんだろうな。あいつのやったことは最低な行為だが、それで人生を変えることができたのは確かってわけだ。
汚いやつほど出世するのはこの世の常識でもあるものの、考えれば考えるほどはらわたが煮えくり返ってくる。それでも、こうして植物状態から脱却したってことは、やり返せるチャンスが生まれたってことだ。
俺は頑張ってベッドで上体を起こした。この際だから、あの女の憎い顔をじっくり見てやろうって思ったんだ。
見てろ、あのとき俺を裏切った選択を必ずや後悔させてやる……って、なんだ? 視界にウィンドウが出てきたと思ったら、レベルアップクエストのやつだった。そうか、一度でも腹筋した格好になったので解放されたんだな。
こんなの一回やったくらいじゃほとんど意味なんてないが……って、こ、これは……。俺はクエストの内容を見て、しばらく呆然自失となってしまった。
クエスト【レベルアップ】が解放されました。
クエストランク:F
クリア条件:腕立て伏せ1回 腹筋1回 1メートルランニング OR 1文字読む 瞑想1秒
制限時間:一週間
成功報酬:全回復 レベルアップ
注意事項:失敗した場合、回数は全てリセットされ、最初からやり直しとなります。
「…………」
な、なんだこりゃ。たったこれだけでいいのか? 試しにやってみるか。もちろん、一文字読むのと、瞑想一秒のほうにしようとしたが、これだとあまりにも簡単すぎると思ったので、腕立て伏せと腹筋を一回ずつやったあと、壁伝いに1メートルランニングをやってみることに。
お、レベル1だからなのか意外と体が動くし、いけるぞこれ……と思ったらあっさりとレベルが2になり、ステータスポイントを10も獲得した上、体中に力が漲ってきて、さらには失った左足まで元に戻っていた。
「っ!?」
二度見どころか三度見ても左足は完全に治っていた。おいおい……全回復って、欠損まで回復してくれるのか……。
しばらくの間、俺は驚きのあまりフリーズしてしまっていた。これも【クエスト簡略化】スキルの影響なんだろうな。いくらなんでも簡略化しすぎだとは思うが。それにしても、スレイヤーの中に腕や足を欠損した者がいない理由が今回の件でよくわかった気がする。
さらに、次にレベルアップクエストが解放されるのは、深夜の零時を過ぎてからというメッセージが出てきた。
これなら1日に一回レベル上げが可能なわけで、近いうちに念願のダンジョンスレイヤーになれるし、いずれはあいつらにもやり返せるぞ。俺の本当の戦いはこれから始まるってわけだ……。
ぼんやりとした天井らしきものが、少しずつ鮮明になっていくのを俺はじっと見ているだけだったが、まもなく薬品の刺激的な匂いが鼻腔をくすぐってきて我に返った。
「……こ……ここ……は……?」
そこは病室で、俺はベッドの上にいるようだった。
俺はあのとき死んだと思ったが、助かったのか……ん、近くに誰かがいるな。白い服を着ている女の人みたいだ。看護婦だろうか。
「か、患者さんが目覚めましたっ!」
「…………」
そうか、やはりそうだったか。彼女は慌てた様子で部屋を飛び出していったし、これから誰かを呼んでくるみたいだな……。
「――そのまま、楽にしてください。意識ははっきりしていますか?」
「……は、い……」
それから、俺は病室にやってきた医者から思わぬことを知らされることになった。
俺は頭部に重傷を負った影響で、なんと一年もの間眠っていたというのだ。普通の人ならとっくに死んでいてもおかしくないほどの重体で、病院に運び込まれてから今日までずっと植物状態だったらしい。
こっちも色々と聞きたいことがあるが、声すらまともに出ないので医者や看護婦の話に耳を傾けることしかできなかった。
家族にも連絡しておいたとのこと。毎日のように来ていたらしいし、母さんと妹には本当に迷惑かけちゃったな。
裏切者の黒坂優菜、虐殺者の羽田京志郎に対してはふつふつと怒りが湧いてくるが、野球帽の藤賀真優や、爺さんの風間昇のことも気になる。あのあと死んでなければいいんだがな。今頃どこで何をしてるんだろうか……?
「……う……」
考えすぎて疲れたせいか、俺はいつの間にか眠ってたみたいだ。
ん、テレビからニュースが流れ始めた。ちょっと聞いてみるか……。
『えー、本日、インタビューを受けるのは、一般人の身でありながらダンジョンをクリアし、そこから一気に人気スレイヤーへと成り上がった、黒坂優菜さんです!』
「っ!?」
な、なんだって……?
『自分に自信がなくてもさ、怖がらずにちゃんとワクチンを打てってことだね。それがあったから、現役女子高生のあたしでもこうしてダンジョンをクリアできたし、念願のスレイヤーにもなれたんだからさ!』
「…………」
パチパチとスタジオだけでなく、この病室からも拍手が上がるのがわかる。どうやら、俺は植物状態から目覚めたってことで、個室から大部屋に移されたみたいだな。
そうか、あのコンビニダンジョンを一般人の立場でクリアしたことで、黒坂はスレイヤーの中でもアイドル的な存在に成り上がったってわけだ……。
ってことは、一年前に報酬としてステータスポイントを得たことが大きかったんだろうな。あいつのやったことは最低な行為だが、それで人生を変えることができたのは確かってわけだ。
汚いやつほど出世するのはこの世の常識でもあるものの、考えれば考えるほどはらわたが煮えくり返ってくる。それでも、こうして植物状態から脱却したってことは、やり返せるチャンスが生まれたってことだ。
俺は頑張ってベッドで上体を起こした。この際だから、あの女の憎い顔をじっくり見てやろうって思ったんだ。
見てろ、あのとき俺を裏切った選択を必ずや後悔させてやる……って、なんだ? 視界にウィンドウが出てきたと思ったら、レベルアップクエストのやつだった。そうか、一度でも腹筋した格好になったので解放されたんだな。
こんなの一回やったくらいじゃほとんど意味なんてないが……って、こ、これは……。俺はクエストの内容を見て、しばらく呆然自失となってしまった。
クエスト【レベルアップ】が解放されました。
クエストランク:F
クリア条件:腕立て伏せ1回 腹筋1回 1メートルランニング OR 1文字読む 瞑想1秒
制限時間:一週間
成功報酬:全回復 レベルアップ
注意事項:失敗した場合、回数は全てリセットされ、最初からやり直しとなります。
「…………」
な、なんだこりゃ。たったこれだけでいいのか? 試しにやってみるか。もちろん、一文字読むのと、瞑想一秒のほうにしようとしたが、これだとあまりにも簡単すぎると思ったので、腕立て伏せと腹筋を一回ずつやったあと、壁伝いに1メートルランニングをやってみることに。
お、レベル1だからなのか意外と体が動くし、いけるぞこれ……と思ったらあっさりとレベルが2になり、ステータスポイントを10も獲得した上、体中に力が漲ってきて、さらには失った左足まで元に戻っていた。
「っ!?」
二度見どころか三度見ても左足は完全に治っていた。おいおい……全回復って、欠損まで回復してくれるのか……。
しばらくの間、俺は驚きのあまりフリーズしてしまっていた。これも【クエスト簡略化】スキルの影響なんだろうな。いくらなんでも簡略化しすぎだとは思うが。それにしても、スレイヤーの中に腕や足を欠損した者がいない理由が今回の件でよくわかった気がする。
さらに、次にレベルアップクエストが解放されるのは、深夜の零時を過ぎてからというメッセージが出てきた。
これなら1日に一回レベル上げが可能なわけで、近いうちに念願のダンジョンスレイヤーになれるし、いずれはあいつらにもやり返せるぞ。俺の本当の戦いはこれから始まるってわけだ……。
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