29 / 91
第29回 使命感
しおりを挟む「…………」
廊下に戻った俺は、そこでしばらく耳を澄ましてみたわけだが、微かに荒い息遣いを感じた。間違いない。この近くに、あの怪我をした女子生徒のいる階段へのワープゾーンがあるはず。
気になるのは、その子の状態だ。正直もう助からないような出血量に見えた。それでも、最期を看取る意味でも、なるべく急がないといけないと感じたんだ。
思えば、俺がスピードにここまで極端に振るのは、片足を失ったことといい、風間を追いかけたことといい、そして野球帽や女子生徒を助けるためといい、極めて運命的なものだったのかもしれない。俺の理想のスレイヤー像が少しずつ見えてきたな……。
「っ!?」
近くにあった、職員室の扉に触れた瞬間だった。景色が変わり、目の前には階段があって途中の踊り場には例の女子生徒がうずくまっていた。
「おい、大丈夫か!?」
「……はぁ、はぁぁ……た、助けて……かはっ……!」
「…………」
少女が大量の血を吐き出すのがわかる。もう助かるまい。その直後、階段を駆け上がって来る音がして心臓に悪かったが、風間だった。
「さ、佐嶋よ、わしを置いていくなとあれほど言っただろう!」
「爺さん……いや、風間さん、今はこういう状況なんですから、静かにしててくださいよ……」
「む、むうぅ……」
「大丈夫だ、もう、心配するな」
「……コホッ、コホォッ……ほ、ほん、とう……? スレイヤーさんです、か……?」
「……あ、あぁ、そうだ。だから安心しろ」
俺は一瞬ためらったものの、この子を安心させるために、あえて嘘をつくことにした。
「……そっか。よかった……あ、ありがと、です……」
少女はそうつぶやいたあとまもなく息を引き取ったが、とても安らかな顔つきをしていた。これでよかったとはいわないが、少しでも安心してあの世へ逝ってもらったほうが後味はいいからな。
「佐嶋よ、せめて合掌してやるかの」
「ですね……」
俺たちはその場で風間とともにしばらく手を合わせたあと、階段を慎重に上がっていくことにした。この子を殺したのが一体誰なのか、その正体を絶対に突き止めなければいけないという、使命感めいたものが生まれていたからだ。
「な、なあ、佐嶋よ……」
「……なんですか?」
「なんか危険な臭いがするし、やっぱりやめといたほうが――」
「――風間さん、それじゃここでお別れってことで……」
「わ、わかったからわしを一人置いていかないでぇっ!」
確かに風間の言うように危険かもしれないが、こっちはボスがいる方向ではないし、スピード自体は既に下級スレイヤー並みにあると思うから、いざとなれば逃げ切ることもできるはず。
「「――なっ……!?」」
階段を上がったと思ったら、ワープゾーンがあったらしく俺たちは教室の中へ飛ばされていて、そこには想像を絶する光景が広がっていた。
机や椅子の上には人間の歯や眼球、頭皮のついた髪の毛が分離した状態で無造作に置かれ、窓、壁、黒板、床に至るまで、真っ赤な手形がこれでもかと散乱していたのだ。
「……うぐっ……」
「お、おげええぇっ!」
俺は思わず口元を押さえる。鼻だけではなく、口からも侵入してくるかのような酷い悪臭が漂っていて、おぞましい光景も相俟って風間が嘔吐するのもわかる。さらに、あのコンビニダンジョンを思い出すとともに、例の虐殺者のことが脳裏に浮かんだ。
「う、うぷっ……さ、佐嶋よ、早くここから出るぞいっ! はぁ、はぁ……こ、これは、やつの仕業だ。は……羽田とかいう異常者だっ、やつがやったことに違いないっ……おえっ……!」
「…………」
風間も俺と同じ考えだったらしい。もしかして、羽田京志郎もこの学校ダンジョンに来ているというのか……? これをやったのがあいつであるという証拠はないが、モンスターがこんなことをするとは思えないし、なんせやつには死体クリエイターなんていう肩書もあるからな……。
「そ、そういや、佐嶋もネクロフィリアだったな。や……やはり、興奮するのか……? お、おええぇっ!」
「……吐きながら妙なことを言わないでくださいよ、風間さん……」
この際だから否定してやろうかとも思ったが、どこで誰か話を聞いてるかわかったもんじゃないのでやめておくことにした。特にこういうダンジョン内だと、どんなやつが身を潜めているかわかったもんじゃないからな……。
階段の踊り場で亡くなったあの女子生徒も、おそらくこの教室で何者かに襲われて瀕死の重傷を負い、混乱の中で命からがら逃げ出したんだろう。
そう考えると、この生徒たちが殺されてからそう時間は経過していないのかもしれない。
「ふうぅ……さ、佐嶋よ、早くここから逃げるぞ……」
「風間さん、少しは落ち着いてくださいよ……。それでもスレイヤーなんですか……?」
「そ、そんなこと言うがの、羽田がこっちへ来たらどうするつもりだ……!」
「…………」
確かに、今度あの男と鉢合わせしたら命はないのかもしれない。普通に考えれば、これはスレイヤーがやったことだろうとは思うしな。
「けど、俺たちがダンジョン内にいる以上、どこへ行っても羽田と遭遇してしまう可能性はあるわけで、生徒たちが皆殺しになってるここのほうがまだ安全じゃ?」
「うっ……」
これには、しきりに逃げ出したがってる風間も反論できなかったらしい。まあ状況が状況なだけに早くここから出たい気持ちは痛いほどわかる。
「それじゃ、そろそろ行きますか。まずは野球帽を探し出しましょう。スレイヤーが二人いれば、それだけボスを倒すのも楽になるでしょうし」
「そ、そそ、そうだなっ。とはいえ、まだわしは心臓がドキドキしとるから、ちょっとここで休憩してからでもぉ……」
「…………」
風間は本当にブレないなあ。ってことは、野球帽のやつも相変わらずなのかもしれない……。
24
あなたにおすすめの小説
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる