ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

文字の大きさ
55 / 91

第55回 違和感

しおりを挟む

 あくる日の朝、俺と風間が向かっていたのは、野球帽の藤賀がいる病室だ。

「え……それじゃ風間さんって、コンビニダンジョンのときから、一度もあいつと会ってないんですか?」

「うむ、実はそうなのだ。というかだな、わしらの立場を考えればわかるだろう」

「あー……」

 警備員と高校生じゃ、確かに接点はないか。下手すりゃ風間が不審者扱いされそうだしな。

 三つ目のマーカーが近づいてくる。いよいよ野球帽との再会ってことでドキドキしてきて、それが妙に腹立たしかった。なんであんな生意気なやつと会うのに緊張なんてするんだか。

 こんなことなら、サプライズ訪問なんて余計なことは考えずパーティー通信のみで済ませておけばよかったな……っと、着いたみたいで、マーカーが三つ重なるのがわかった。この病室か。

「「……」」

 風間とともに中へ入ると、俺は周囲からの視線をカーテン越しに感じつつ野球帽の姿を探したが、見つからなかった。んー、それらしいのがいないな。でも、マーカーはここにあるし、確かにいるはずなんだが……。

「佐嶋よ、あの子、可愛いと思わんか?」

「えっ?」

 鼻の下を伸ばした風間の視線を辿ってみると、そこには短い髪の少女がぼんやりとベッドの上に座っているところだった。

 いわゆる、ボーイッシュな女の子ってところか。確かに見た目は可愛いし、モテそうだな……あ、こっちと目が合ったと思ったら、笑顔で会釈されてしまったのでこっちもつい頭を下げてしまった。おいおい、風間がデレデレしながら手を振ってるし、なんか腹立つなあ。

 それにしても、あんなにいい子が野球帽ならどれだけいいか。あいつは真逆だからな……って、どこか顔が似ているような……? い、いや、まさかな――

「――すみませんが、藤賀さんのご家族の方ですか?」

「「あっ……」」

 後ろから看護婦に声をかけられた。え、今、藤賀って言ったよな。ってことは、この子が野球帽だったのか……。

「違うのでしょうか?」

「あ、いや、俺は野球帽――じゃなくて、藤賀の友達みたいなもんです」

「わ、わしは、こやつの親みたいなもんでなっ」

「なるほど……。実は彼女、記憶喪失なんです」

「「記憶喪失っ!?」」

「はい。ただ、正確に言うと一過性健忘症なので、回復するまでそう時間はかからないそうですよ。なので、不安かもしれませんがどうかご安心ください。それでは」

「「……」」

 看護婦が立ち去るところを、俺と風間はしばらく呆然と眺めていた。なるほど、記憶喪失ならこれだけ野球帽の雰囲気が変わるのも仕方のない話か。っていうか、あいつが男じゃなくて女だったとは。立て続けに驚かされたので眩暈がしそうだ。

「――あの、そこの方々、私のお友達ということでしたけど、ごめんなさい。記憶がなくって……」

「あ、あぁ……」

「いやいや、いいのだよ、しっかり休みなさい」

「はいっ」

「…………」

 風間がキリッとした顔でぽんぽんと野球帽の肩を叩いている。おいおい、友達の親って設定なのに随分と馴れ馴れしいなあ。

 それにしても、記憶がないってだけでこんなにも変わるものなんだな。

 野球帽が記憶のない女子高生だとわかって風間はいかにも嬉しそうだが、俺は複雑な心境だった。

 むしろ、久しぶりにあいつと口論でもしたい気分だから、なんとも奇妙な話だ。あんな生意気なやつよりこっちのほうが断然いいんだけどな。礼儀正しい素直な女子高生に対して、本来の意味での野球帽が勝ってるところなんて何もないはずなのに、妙に寂しさみたいなのを覚えていた。どうかしている。

「あの、そこのお方、元気がないように見えますけど、大丈夫ですか?」

「え、俺?」

「ですよー」

「べ、別に、大丈夫だよ。なんともない」

「でも、私にはそうは見えません……」

「えぇ?」

「きっと、本来の私というのは、あなたに愛されていたんですね――」

「――ブハッ!」

 野球帽の衝撃的な台詞とともに、お茶を噴き出す風間。俺もなんか飲んでたら零してたかもしれない。愛されてるって……逆だろ、逆逆……。

「ど、どうしたんですか?」

「い、いや、なんでもないのだっ、プププッ……。そ、そりゃ、もう、ラブラブだったぞ?」

「か、風間さん、なんてことを……」

「そ、そうだったんですね。まさか、私の彼氏さんだったとは。早く思い出さなきゃいけません……」

「…………」

 おいおい、おいおい……一体、何が始まろうとしているんだ、これは……。

「風間さん、さっきからやたらと面白がってますけど、野球帽が過去を思い出したら、頭をバットでフルスイングされますよ。もしスレイヤーだったら、タダじゃすまないでしょうね」

「ひっ、ひいいっ」

 野球帽の本来の姿を思い出したらしくて、風間が見る見る青ざめてていい気味だ。

「あのぉ、野球帽ってなんのことですか?」

「あ、あぁ、藤賀、あんたは野球帽をいつも被ってたから、俺たちはそう呼んでるんだ」

「それじゃあ、私って野球が好きだったんでしょうか」

「……かもなあ? ねえ、風間さん」

「う、うむっ」

「俺もよく知らないけど、ユニフォーム姿でバットも持ってたからな。その可能性は高いんじゃ?」

「へぇ。自分のことなのに、不思議な感じですね。早く思い出したいです」

 遠い目で窓の外を見やる野球帽。こうして横顔を見ていると、顔が同じなのにまったくの別人に見えるんだから不思議なものだな。

「あ、そうだ、あのさ――」

「はい?」

「――いや、なんでもない。もう帰るよ」

「はいっ」

 俺が足早に病室を出ると、少し経って後ろから慌しい足音が近づいてきた。

「さ、佐嶋よ、わしを置いていくなっ」

「二人でラブラブしてたらいいんじゃないですか?」

「佐嶋が余計なことを言うから、恐ろしくてかなわんわ! それより、何を言おうとしてたんだ? まさか、本当に野球帽に惚れたのかあ?」

「……いえ、あんたは野球帽を被ってるほうが似合うって言おうとしたんです。でも思い出したら、また野球帽って言うなって文句を言われそうな気がしたんで」

「確かに、違和感バリバリだったのー。ただ、野球帽なんか被ってない藤賀ちゃんのほうがわしは好みだが……」

「……風間さん、あいつの記憶が戻ったら告げ口しますよ」

「ちょっ!? それだけはやめてぇん!」

 風間の素っ頓狂な声が病院の廊下に響き渡った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...