90 / 91
第90回 思い出
しおりを挟む繭、魚、少女、芋虫、蝶、椅子、鏡、時計ときて、さあ、次はどんな形態になるのか? 今度はテレビや車でも来るのか、そう思った俺の予想を、ボスは早くも裏切ってきた。
なんと、時計の形態はまったく変わらないまま、新たなカウントダウンが始まったからだ。
しかも前回と同じく残り5分で、カウントダウンとともに逆方向に針が進み始めたのがわかる。
今まで、頻繁に姿を変えてきたはずのミュータントが、同じ姿を維持している。思えば椅子形態になったときからその傾向はあったとはいえ、これが意味するのは一体なんなのか……。
ちなみに、前回老化攻撃をしてきたとき、ボスは一切光ってはいなかった。フラッシュの時間が短いがゆえに見逃した可能性も少しはあるかもしれないが、対象が大きくて目立っているだけにそうだとは思えない。
同じ形態であることの意味だけでなく、反撃できるチャンスが全然ないことの意味も知りたいものの、だからといってこのまま手を出さない状態をキープするのはまずい。
なので俺はじっと様子を窺いつつ、ここだといわんばかりのはっとした顔で攻撃してやった。声を出し忘れたが、そのほうが却って自然だったと思う。
俺が攻撃したタイミングから少し遅れて野球帽や原沢も続いたわけだが、俺が叩こうとする前に強い圧力を感じたので、羽田が念力を使ってきたのが見て取れた。恐ろしいほどの反応速度だから、こっちの様子をよく観察しているのがわかる。
「クソオォッ……」
俺が羽田のほうを見たくないのにいちいち視線をやるのは、そのほうが自然に苛立った顔を作れるからだ。実際、あいつの邪悪な笑顔を目にすると腸が煮えくり返るからな。やつはやはり、これでもかと愉快そうな笑みを浮かべていたが、学校ダンジョンのときみたいに騙されてるだけだ、間抜けな虐殺者め。
「…………」
残り5分もあったカウントダウンが、気が付けばもう残り3分だ。ただの錯覚だとは思うが、焦燥感が加わったことで針が動くスピードがぐっと増したようにさえ感じる。
とにかく、落ち着いて対処法を考えるんだ。時計の針は反対方向に回っている。ってことは、ボスの攻撃方法が過去と関係しているのは間違いない。
そうだ、やつはただの時計ではなく、生き物なのだから過去というものがちゃんと存在し、それを確かめるように思い返すときがあるはずなんだ。
だとすると、俺たちもそうすることでボスの攻撃を防げるかもしれない。試しに、以前の出来事を思い浮かべてみたら、やはり足元がウォーニングゾーンからセーフゾーンに切り替わるのがわかった。
だが、過去について考えるのをやめるとすぐに赤くなってしまうことから、常に過去を振り返っていないといけないってわけだ。これは、簡単そうに見えて意外と難しいように思う。
しかも、だ。同じ思い出を想像してもセーフゾーンにならなかったことから、今顧みたことは過去ではないと判定されているのがわかる。
つまり、カウントダウンまで残り1分もあるが、ボスの攻撃が始まるギリギリまで、思い出の引き出しを開けるのは一旦やめにして、過去を振り返る行為は温存したほうがいいってことか。
そういうわけで、俺は野球帽と原沢に、対処法を説明することに。
「野球帽、原沢。俺が合図を出したら、なんでもいいから過去の出来事について振り返ってくれ。そうすればボスの攻撃から身を守ることができる。今思い出したものは無効だから、それまで温存しておくように」
「わ、わかった。過去、だな……」
「よし、任せろ。私が医師になるまでの、栄光に満ちた過去を思い出してみせる」
「…………」
とても苦い顔をした野球帽と、自信に満ちた表情を浮かべる原沢の反応は対照的だった。
「野球帽、どうした、どこか痛むのか?」
「な、なんでもない。気にするな」
「そうか……」
もしかしたら、野球帽にはあまり思い出したくない過去が多いのかもしれないな。思えば、コンビニで見かけたときから不思議な感覚を抱かせるやつだった。あのとき、妙に落ち着かない様子を見せてたんだよな。それも、彼女の過去と何か関係があるんだろうか……。
12
あなたにおすすめの小説
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる