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13話 連鎖反応
しおりを挟むイフの道具屋をあとにした俺が次に向かったのは、冒険者ギルドだ。
依頼の報酬で銀貨を3枚も獲得したとはいえ、さぼっていたら食費や宿代ですぐになくなってしまうし、今のうちから新たなパーティーを募っておきたい。
「あ……」
ギルドへ到着して、いつものように受付嬢のイリスの元へと行こうとしたときだった。
イフから貰った、肌が綺麗になるっていう薬の活用法をひらめいたんだ。これならそばかすだって消える可能性が高い。一応自分の体についた痣や切り傷で試してみたら消えたし、効果は実証済みだから問題ないはず。
「モンド様、今日はどのようなご用件でしょうか!」
「あぁ、イリス、またパーティー募集を頼みたいんだが、その前に……」
「その前に……?」
「……」
なんだか照れるな。よく考えたら個人的な贈り物だから、もしかしたら誤解されるかもしれない。
「こ、これを……」
「これはなんでしょう……?」
「あ、えっと……肌が綺麗になる贈り物なんだが……」
「え、えぇっ……!? モンド様が、私に贈り物を……。う、嬉しいです……」
「そ、それはよかった……」
「「……」」
お互いに沈黙しちゃったからか、なんとも気まずい空気に包まれる。
「イ、イリスにはいつも世話になってるからな。ほんの気持ちってことで……」
「あ、ありがとうございます、モンド様。でも、これはいただけません」
「あ、あぁ、やっぱり、受け取ることで俺に勘違いされても困るだろうしな。でも本当に下心とかなくて――」
「――いえ、そうではないんです。こんなそばかすだらけの顔ですけど、私は気に入ってるんです!」
「な、なるほど……」
確かによく見てみると似合ってるような気はする。
「すまなかった。そばかすとイリスと笑顔はセットみたいなものなんだな」
「もちろんでございます! でも、モンド様の好みではないのなら、いっそのこと……」
「あ、い、いや、イリスが気にしてるならって思っただけでな」
「なるほどなるほど。でも、そうして気にかけてもらえて私はとっても嬉しいですよ!」
イリスはやっぱりいい子だ……って、俺は薬を渡すほかに、何をしにここまで来たんだっけ……? あ、そうか、パーティー募集だった。
「パーティー募集の件なんだが――」
「――いい加減にしろよ!」
「「っ!?」」
突然の怒号に対して、俺はイリスと驚いた顔を見合わせる。
聞き覚えのある声だと思ったら……やっぱりあいつだ。俺の元所属パーティー【風の紋章】のリーダーのゴート、それにロナ、カリンの三人で、何やら激しく言い争ってる様子だった。
なんだ、仲間割れか? ん、カリンの顔が半分溶けてるな。こりゃ酷い。どうしてあんな状態なのに回復せずに放置してるんだ。
「とっとと治せってんだよ! カリン、お前のせいでこうなったんだぞ!」
「そうよ! カリン、これ以上あたしたちに恥をかかせないでよ!」
「な、治そうとはしてますって! でも、いくらやってもできないんですよ!」
「……」
なるほど、カリンは魔導士がよく陥る罠に嵌ってるってわけか。
黒魔導士でも、突然魔法が上手くいかなくなるときがある。それも、慣れているものに限って。
魔法はそのときの精神状態に左右されるため、上手くいくときもあればダメなときもあって、ダメなときに魔法を無理に使おうとするとより力んでしまって、それでさらにダメになるっていう負の連鎖が起きるんだ。
以前カリンの身にそういうことが起こったとき、なるべくリラックスするようにアドバイスしたんだが、ここまで上手くいかないのは本人の焦りもあるだろうし、怒られることで力みがさらに生じているんだろう。
そうだな……気の毒だしちょっと話しかけてみるか。確率はかなり低いだろうが、今までのことを謝ってくれる可能性も少しはあると思うし。
「おーい、ゴート、ロナ、カリン!」
「「「あ……」」」
えらく気まずそうな顔をされてしまった。まあ追放したメンバーが声をかけてきたんだから警戒するか。こっちはなるべくフレンドリーにしてるつもりだがなあ。
「久々だな。なんか言い争ってたみたいだがどうしたんだ?」
「か、関係ねえだろ! モンド、無能だから追放されたくせによ!」
「そ、そうよ! 追い出された分際で何様のつもり? 図々しいったらありゃしない!」
「……そ、そうですよ。捨てられた身分なのに、見苦しい、です……」
「そうか、わかった。それじゃ、俺はこの辺で――」
「――ま、待ってくだ、さい……」
「ん?」
「そ、その、えっと……」
「……」
反抗的なゴートやロナと違って、カリンはしおらしいな。内心俺にアドバイスを貰いたいと思ってるのかもしれない。
けど、簡単には信用できない。実際、こいつはロナと一緒に俺を慕う振りをしながら、最後はああして罵倒してきたわけだからな。薬ならまあ、助言と違って一時的なものだし、どうしても欲しいって言うならやってもいいが。
というわけで、俺は薬の入った小瓶を掲げてみせた。
「この薬はな、そばかすも痣も切り傷も治せるんだ。いるか?」
「「「おおっ……!」」」
ゴートたちは目を輝かせたあと、すぐにはっとした顔に戻った。
「そ、そんなのあるわけねえだろ!」
「そ、そうよ、毒でも飲ませる気?」
「だ、騙されないですよ?」
「あっそう。ならいいや」
「「「あっ……!」」」
俺が薬の小瓶を開けて傾けると、液体が足元に零れ落ちた。しかもそれで床が綺麗になったもんだからきっと後悔してるだろう。
実際は俺が水と光の魔法を使って細工しただけで、液体は一滴も零れてないが。
「それじゃ、ごきげんよう」
「「「……」」」
放心した様子のゴートたちを置き去りにして、俺は受付嬢のイリスの元へと戻った。
「モンド様、私、すっきりいたしました!」
「なんのことかな?」
「ふふっ……!」
イリス、俺以上に嬉しそうだな。まあ喜んでもらえたならよかった。
「あ、パーティー募集の件ですが、モンド様をご指名の方々がいますよ」
「え……」
「モンド様がG級パーティーを成功まで導いたことは一部で話題になっているようでして、是非それにあやかりたいそうです」
「へえ……」
G級パーティー自体、かなり珍しいだろうしな。それを成功に導いたことで、自分が得られたものはかなりあるのかもしれない。
「それで、どんなパーティーなんだ?」
「【時の回廊】という、D級パーティーです。構成は、吟遊詩人、戦士、シーフ、白魔導士の四人組でして、臨時メンバーとしてモンド様を迎え入れたいそうです」
「なるほど……」
今回も臨時メンバーなんだな。【深紅の絆】みたいに何か事情がありそうだが、こっちとしても気楽だしそういう立ち位置のぼうが色んなパーティーに入り込めるから楽しそうだ。
「わかった、引き受けよう」
「はい、それでは、連絡しておきますね! あ、あの……」
「ん、なんだ?」
「あ、いえ、なんでもないです……!」
「……」
イリス、顔が赤いしもじもじしちゃってるし、一体どうしちゃったんだろうな……。
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