12 / 37
12話 幼馴染
しおりを挟む「……」
【深紅の絆】パーティーがベグリムの都を去ってからというもの、俺はなんだか心にぽっかりと穴が開いてしまったような、そんな虚しい気分に包まれていた。
グロリアたちと一緒にいたのはあんなに短い間だけだったというのに、元所属パーティー【風の紋章】から追放されたときよりもずっとショックというか喪失感が大きかったんだ。
それでも、いつまでも落ち込んでる暇はないということで、俺はコカトリスの爪を届けるために、友人が経営する道具屋まで向かってるところだった。
入り組んだ路地の奥、薄暗くて人の気配もほとんどない場所で俺は周囲を見渡す。確かこの辺だったはずだ、あいつのやってる店は。
――あった。黒い頭蓋骨のアイアン飾りが目印の、鮮血を浴びたかのような真っ赤な建物が。わかっていたことだが、本当に変わっているやつだと思う。こんな不気味な外観じゃ客なんてろくに来ないだろうに……。
「いらっしゃ……って、モンドじゃないかあ!」
目の下にくぼみのあるエプロン姿の男が俺を出迎えてきた。道具屋の店主イフだ。日々、怪しい薬や魔道具の開発にいそしんでいる天才錬金術師で、俺の幼馴染でもある。例の便利なテントも彼が発明したものだ。
故郷のアリエスの村から一緒にこのベグリムの都へとやってきたわけだが、冒険者になろうと言った俺の誘いをきっぱりと断り、子供の頃から夢だった店を開くことになったんだ。
「イフ、元気にしてたか?」
「まあまあってところだね。元気ではあるんだけど、微妙に元気じゃない」
「……相変わらずだな、イフは」
「あははっ……それにしても、一体どうしたんだい? まさか、冒険者を辞めて僕の店を手伝ってくれるとか?」
「いや、確かにパーティーを追放された身だけどな、まだまだあきらめてない」
「そっか……。でも、奇妙すぎる話だね。モンドみたいになんでもできるような天才黒魔導士が追放されちゃうなんて……」
「イフ……お世辞はやめろって。俺の魔力が滅茶苦茶低いのは知ってるだろ」
「そういえばそうだったね。でもその分、強すぎる戦闘勘があるからいいじゃないか。ま、モンドの素質は凡人にはわかりにくいのかもしれないけど。ククッ……」
以前と変わらずイフの笑い方は不気味だが、彼は俺のことを一番評価してくれた人間でもある。俺が戦闘勘に優れているなら、この男は創作や日常における勘の鋭さを持っている。
「さあ、立ち話もなんだから中に入りなよ、モンド。ここに来たってことは、何か珍しいものでも持ってきてくれたんだろう?」
「お、さすがイフ。よくわかったな」
「そりゃね。君が来るとしたらそれしかないと思っていた」
さすがはイフ。読みが鋭い。
店内は色んな物で溢れていて、歩くスペースがあまりないくらいだった。昔から物を大事にする性格だからこうなったんだろうが、あまり長居はしたくないと思える。
「その椅子に座っておくれ」
「あ、あぁ、わかった……って!」
俺が座った椅子のすぐ前に、珍種らしきモンスター群のはく製があって、目が合ってしまった。どれもこれも見た目がグロテスクだから、早く帰りたくなってくるな……。
「こ、これを持ってきたんだが……」
「おぉっ、それは……!」
イフが俺の取り出した爪を見てこれでもかと目を輝かせてる。
「素晴らしい、素晴らしいよ、これは、あのコカトリスの爪じゃないか!」
「そ、そんなにいいものだったのか? 銅貨10枚くらいの価値しかないって言われたし、俺もそうだと思ったが」
「確かに、普通に考えればそうだね。でも、コカトリスの爪はほかの素材との組み合わせによって化けるんだ。モンド、ちょっと待ってて」
「あ、ああ……」
イフがカウンターの奥に行ってからしばらくして、妙な香りが立ちこみ始めた。独特の匂いだな、こりゃ……。
「――できた! モンド、爪をくれたお礼にこれをあげるよ!」
「これは……?」
イフから、灰色の液体が入った小瓶を受け取る。
「肌がとっても綺麗になる薬さ。もしガールフレンドとかいたら、プレゼントしたら喜ばれるはずだよ」
「おいおい……」
「いないなら、そのうち現れるかもねえ?」
「……」
イフから目配せされてしまった。なんか意味ありげだったな。ガールフレンドなんていないし遠慮しようかと思ったんだが、一応貰っておくか。
「てか、本当にいいのか? そんなに凄い薬なら高く売れそうだが」
「それなら大丈夫。爪から抽出できる成分をほんの少し混ぜるだけで作れるし、それにこれにはもっと良い薬が作れる可能性があるからね」
「もっと良い薬だって?」
「それは……内緒さ。クククッ……」
「……」
「それでも、知りたいなら教えるけど……?」
「いや、やっぱり遠慮しとく」
もしかしたら知らないほうがいいのかもしれない。イフが作る薬は本当にやばいのが多いからな。何度か実験に付き合わされて酷い目に遭ったもんだ。
というわけで、妙に嫌な予感がしたので、とっとと帰ることにした。その際、舌打ちされたので多分当たってたんだろう……。
69
あなたにおすすめの小説
追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します
すもも太郎
ファンタジー
伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。
その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。
出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。
そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。
大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。
今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。
※ハッピーエンドです
追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。
あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」
長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。
だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。
困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。
長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。
それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。
その活躍は、まさに万能!
死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。
一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。
大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。
その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。
かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。
目次
連載中 全21話
2021年2月17日 23:39 更新
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。
そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる