36 / 37
36話 苦し紛れ
しおりを挟む「「「――はぁ、はぁ……」」」
四つん這い状態の三人――剣士ゴート、戦士ロナ、白魔導士カリン――の荒い呼吸が響き渡る。
そこはベグリムの都からやや離れた場所にあるエルネスの沼地であり、デビルワームという巨大なミミズたちの住処として知られていた。
デビルワームはDランクモンスターではあるものの、しぶといだけでなく俊敏で、さらに高頻度で出現するため、腕自慢の上級パーティーにとっては恰好の狩場でもあった。
そこで、【風の紋章】パーティーが前回の件で失った名誉を挽回しようと、デビルワームの心臓を集めるというB級の依頼を受けてここへ向かったわけだが、やはり今回も些細なミスがきっかけとなり、戦闘を中断せざるを得なくなったのだ。
一つのミスがさらなるミスを生み出すという悪循環を断ち切れず、その結果体力を激しく消耗する羽目となり、18匹目を倒したところで日も暮れ始めたため、今日中にデビルワームを50匹全部倒し終わるのは極めて難しい状況となった。
「チッキショウ、なんなんだよもう……。ちょっと手が滑って一匹倒しそびれるまでは、滅茶苦茶順調だったってのによおぉっ……!」
「ほ、本当だねえ……でも、これくらいのミスは今までだってあったのに、どうしてここまで上手くいかないんだろ……」
「た、確かに。おかしいですね……」
三人はしばらく考え込んだ表情をしていたものの、何もわからなかったのか揃って首を左右に振った。
「ってか、これからどうしよう、ゴート様、カリン……今日はもう疲れすぎてこれ以上戦うのは無理っぽいよ。さっきから回復魔法を受けてるのに疲れが全然取れないし、腕だって痺れて上がり辛くなってるし……」
「わ、私ももう、これ以上は限界です……。油断すると目眩がして倒れそうになりますし、討伐の続きは明日にしませんか……? 朝早く起きれば、なんとか夕方までには間に合いそうですけど……」
「いや、ロナ、カリン、何弱気なことを言ってるんだ……!? 俺たちはなあ、低級の依頼をこなしてるわけじゃねえんだぞ? 明日だとクオリティ的にB級の依頼を達成したとみなされるかは微妙だから、絶対に今日中に終わらせるんだ! お前ら、A級パーティーの誇りを持って戦えーっ……!」
「「はあ……」」
それからゴートたちは執拗にモンスターに向かっていったが、全身泥まみれになりながら3匹倒すのがやっとで、やがて諦めたのか項垂れつつ都へと帰り始めた。
「――ぜぇ、ぜぇ……。な、なんなんだよ……なんなんだよこの状況はよ……! 俺たちには間違いなくA級の実力があるっていうのに、もどかしすぎるぜ。焦りが焦りを産む負の連鎖ってこのことだな!? はあ……あと29匹も残ってやがる……クソクソクソクソッ……!」
鬼の形相で何度も剣を振り回すゴート。
「ゴ、ゴート様ぁ、気持ちはわかるけど、そんなに焦らないでっ」
「はあ? ロナ、これが焦らずにいられるかってんだよ!」
「ほ、ほら、あたしたちって運が悪すぎると思うし、もしかしたら【時の回廊】パーティーじゃなくてこっちが呪われてるのかも……」
「……お祓いが必要かもしれないですねぇ……というか、正直、この調子だと……明日中に達成するのは絶対無理だと思います……あ、ごめんなさい……」
「「「……」」」
カリンがあまりにも厳しい現実を口にしてしまい、これでもかと顔を歪める三人だったが、まもなくリーダーのゴートがはっとした様子になった。
「そ、そうだっ、いいこと思いついたぜ。証明用のデビルワームの心臓なら、解毒剤や高級ポーションの材料だから売ってるところもある! それを微妙に混ぜて、数をごまかせばいい!」
「ゴ、ゴート様、そんなことしちゃって本当に大丈夫なの? 確か、証明用だと新鮮なものじゃないとダメなんじゃ……」
「リ、リーダー様……? もしバレたらかなりまずいことになるかと思いますけど……」
「大丈夫だって、ロナ、カリン! 心配すんな。なんせ本物の心臓もそこそこ混じってんだからバレやしねえ。さー、そうと決まったらとっとと買いにいこうぜ! もちろん、とびっきり新鮮なやつをな!」
「「……」」
ロナとカリンがいかにも不安そうな顔を見合わせたものの、まもなく黙ってうなずき合い、ゴートの背中を追いかけるのであった……。
58
あなたにおすすめの小説
追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します
すもも太郎
ファンタジー
伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。
その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。
出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。
そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。
大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。
今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。
※ハッピーエンドです
追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました
竹桜
ファンタジー
誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。
その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。
男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。
自らの憧れを叶える為に。
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる