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第一階 不遇ソーサラー、こうして誕生する
しおりを挟むダンジョン前にある、煉瓦の壁に囲まれた冒険者登録所。
「え?【空欄】って、どういうことなんですか?」
「えっと、クアゼル様……未知のスキルにつきましては、発現するまではわからないというのが私どものお答えでして、それ以上は……」
受付嬢の声が遠く聞こえた。冒険者に登録すると、必ず貰える一つしかない大事な能力。それが固有スキル。俺にもあるはずだったのに、それが【空欄】になっていたのだ。俺はマジックフォンを取り出し、自分の簡易ステータスを再度確認する。
名前:クアゼル
年齢:37
性別:男
ジョブ:冒険者
レベル:10
LEP32/32
MEP0/0
ATK3
DEF2
MATK0
MDEF0
キャパシティ2
固有スキル
【?】
パッシブスキル
無し
アクティブスキル
無し
ない……やっぱり固有スキルは【空欄】だ。何度ステータス欄を見返してみても事実が覆ることはなかった。
冒険者になるには、まず職業訓練所で雑魚モンスターを倒してレベルを10まで上げないといけないんだ。せっかく、凄いスキルが貰えるかもしれないって思って回復ポーションがぶ飲みしながら訓練所に通い詰めたのに。この短期間で一気に10まで上げた俺の頑張りを返してくれよ。畜生……。
「あの……固有スキルを代えることはできないんですかね?」
握りしめたマジックフォンが軋む。貧乏だからこれが壊れたらまずいのに、無意識に。
「それはもちろんです。その人の独自の才覚を元に与えられた特別なスキルですから」
何が特別なスキルだよ……。ショックでしばらく操作しなかったもんだから、マジックフォンの画面上の魔法陣が消えて真っ黒になった。俺もそんな気分だ。暗黒状態。
テレビや新聞でもよく見かける、164レベルのナイトのアルフォードみたいに固有スキル【二刀流】を持つヒーローになりたかった。そうすればさえない人生を逆転できると思ったのに。モンスターと戦って死ぬのが怖いからって、今まで配達とか別の仕事ばかりしてたのが悪かったのかな。
「ねー、クアゼル。あなたのスキルどうだったの?」
「ソフィア、これなんだけど……」
俺の相方ソフィアに仕方なく見せる。
彼女は一年くらい前に相方募集掲示板で意気投合した21歳の女の子だ。年は離れてるけど、初心者同士だから話は合った。一緒になんの職業にするか話し合ったり、あんまり深い階層は遠慮したいねとか言い合ったり。
この世界は15歳から冒険者になることができるが、ソフィアは20歳になってダンジョンに潜る決心がついたそうだ。親に相当反対されたようだけど、ちゃんと1年かけて準備期間を作るってことでようやく納得してもらえたって言ってた。それでも死はつきものだし、俺も37歳になってようやく決心がついたことだった。臆病者だとバカにしてきたやつらを見返したかったっていうのもあるけど。
「えー、何これ? なんで【空欄】なわけ?」
「さあ……」
ソフィアの引き攣ったような顔を見るのが辛い。彼女も期待してたと思うし。【二刀流】とかあれば、絶対ナイトになろうねって笑いかけてくれたはずなのに。
「なんか怖くなってきた。私はどーかな?」
「ソフィアなら大丈夫」
なんとなくそんな気がする。俺のがダメだった分、彼女には良い固有スキルがついていてほしい。
「――見て、クアゼル!」
ソフィアのポニーテールが小動物みたいに跳ねた。どうやら結構良い固有スキルがついたようだ。
名前:ソフィア
年齢:21
性別:女
ジョブ:冒険者
レベル:10
LEP25/25
MEP0/0
ATK5
DEF4
MATK0
MDEF0
キャパシティ2
固有スキル
【効果2倍】
パッシブスキル
無し
アクティブスキル
無し
「【効果2倍】って……」
指先で触れて説明を見てみる。
【効果2倍】――自分を含めた味方に付与される効果、敵に与える効果、全てが2倍になる。
「ねー、凄いでしょ!」
「そうだね」
とんでもない効果だ。さすが固有スキル。俺のはダメでもソフィアがこれなら納得できる。嫉妬がまったくないわけじゃないけど、俺の運を相方の彼女が吸い取ってくれたと思えば気が楽だ。
「何がいいと思う? ナイトかなあ、それとも……ウィザード?」
俺が【二刀流】を覚えていたら、迷わずナイトになって彼女にはプリーストを薦めていたことだろう。心身の疲労を癒してくれる相方なんて夢みたいだ。でもこうして相方がいる分、いささか贅沢な願いだったかもしれない。
「ジョブは後からでも変更できるんだし、好きなのにしたら?」
「そーねえ、ナイトとかもいいけど、訓練所でちまちま剣使って飽きたってのもあるし魔法使いやっちゃおーかな」
「そっか。なら俺はプリーストになるよ」
「うん、お願いね!」
早速ジョブ申請してプリーストになる。レベルが10になった冒険者はなんにでもなることができるしいつでも変更が可能だ。まずは見た目からということで、ソフィアのためにウィザード一式の衣装を買ってあげた。
「わあ……クアゼル、ありがとうっ」
つばの広いとんがり帽子にへそ出しボディースーツ、お尻が少し見えてしまう腰布……若干派手だが今時のウィザードっぽい。支給品のロッド以外は俺の金――ジェム――を出した。残り少ないし俺の衣装は買わないことにするか。正直ずっとプリーストでいるつもりはなく、色んなことをやりたいって思ってたから。
名前:クアゼル
年齢:37
性別:男
ジョブ:プリースト
レベル:10
LEP30/30
MEP20/20
ATK2
DEF1
MATK5
MDEF7
キャパシティ2
固有スキル
【?】
パッシブスキル
無し
アクティブスキル
ヒール1
ヘイスト1
転職しただけでステータスが結構上がった。こうしたステータスは、詳細のほうを見ればわかるがジョブだけでなく、現在の装備や、腕力、素早さ、器用さ、体力、知力といった様々な数値を総合して判断されたものだ。
キャパシティが2ということでどんなスキルを入れようか悩んだ結果、初期レベルのヒールとヘイストにした。ヒールは必須だろうし、ヘイストは詠唱も含めて動作が速くなるから危ないときは離脱しやすいだろうと思って。
でもモンスター耐性っていうパッシブスキルも入れたかったな。これはパーティーにも適用されるらしいし。そうなるとソフィアの【効果2倍】も生きてくる。レベルが5ごとに1つキャパシティが増える仕組みだから、上がったら入れるとしよう。
◆◆◆
「もうっ、なんとかして!」
「ヒ……ヒール!」
俺は今、猛烈に混乱していた。ダンジョンの一階層で蝙蝠の群れに襲われ、ソフィアが詠唱を開始したわけだが、いわゆる詠唱妨害を受けて魔法が出ない状況になりボコボコにされているのだ。
当然そうなれば俺としてはヒールをするしかなくなる。まだ大したダメージは受けていないが、このままだと俺のマジック――MEP――か、ソフィアのライフ――LEP――のどっちかが尽きて終わる。
「ソフィア、ロッドで一匹ずつ殴ろう! ヘイスト!」
「うん!」
結局こういう結論になった。通りがかりのパーティーに笑われながらも、俺たちはなんとかその場を乗り越えることができた。どっちも職業柄、物理で殴るには力が弱すぎるんだよな。
「ふう。死んじゃうかと思った……」
「そうだね」
ソフィアは将来的に大魔法を使いたいということで、それに繋がるための四色のボルト系のうち、水と風のスキルを選んでいた。もっとこう、詠唱も短いシンプルなものがいいと思うんだが。マジックエナジーストライクとかフレイムピラーとか。大魔法には繋がらないし地味だけど。
「早く大魔法使いたいなー。詠唱妨害されなかったらいいのに」
「あ、ああ」
詠唱妨害されないアイテムは高価すぎて買えない。俺が持ってるお金が180ジェム、ソフィアが320ジェム。少し詠唱が遅くなるとはいえ魔眼の帽子とか買えればいいが、ダンジョンの深い階層でボスを倒したときに稀にしか出ないアイテムだから、どれだけ低く見積もっても30000ジェムはいるだろう。買いチャットで60000ジェムで購入していたやつもいる。俺たちには夢の世界だ。
「――もう回復剤ない……帰ろっか、クアゼル」
「そ、そうだね……」
ナイトになってみたものの、お互いに消耗が激しく回復剤の消耗や宿代もバカにならない事態になった。蝙蝠をいくら倒しても経験値が少ない上、牙や羽は安値でしか売れないので赤字になる一方だし捨てるやつさえ見かける始末。それでもソフィアは歯を食いしばって拾ってたから、俺が弱いせいで苦労させちゃってるなと罪悪感で胸が軋みそうだった。
「またジョブ変更するの、クアゼル」
「ああ」
このままじゃダメだ。最近俺はソフィアが笑ってるところを見ないから焦っている。俺の金が残り15ジェムで彼女が170ジェム。レベルもお互いに15止まりで先が見えない状況。
色々試した結果、俺はソーサラーというジョブを選んだ。ダンジョンで戦ってる姿をちらほら見かけて、これはと思ったんだ。研究してわかったんだが、ソーサラーには四種類ある。
一つ目は、自他ともに重要なライフとマジックのエナジーポイント供給源、強力な妨害スキル。
二つ目は、敵に対する魔法攻撃を媒介に己の魔力を物理攻撃力に変換、杖に充填しひたすら殴る。
三つ目は、大魔法のウィザードにはかなわないが中魔法で範囲魔法攻撃。
四つ目は、精霊を呼び出して一緒に戦うタイプ。
俺はこのうち、最初のタイプを選択することにした。最も補佐に適していると思ったからだ。LEP、MEPともに回復できるし、敵に妨害スキルを行使することでソフィアの詠唱を手伝うこともできる。
名前:クアゼル
年齢:37
ジョブ:ソーサラー
レベル:15
LEP74/74
MEP150/150
ATK4
DEF3
MATK10
MDEF13
キャパシティ3
固有スキル
【?】
パッシブスキル
無し
アクティブスキル
ライフエナジーチェンジ1
マジックエナジーチェンジ1
ベナムウェーブ1
ライフエナジーチェンジは、LEPの50%をMEPに変換。ディレイ6秒。スキルレベルを上げるごとにディレイ減少。マジックエナジーチェンジはMEPの50%をLEPに交換。ディレイ6秒。スキルレベル上昇とともにディレイ減少。
ベナムウェーブはパーティー外に毒の霧を放射して範囲攻撃する。生物系の敵には一定時間ごとにダメージを与え、すべての敵の命中率を下げる。スキルレベルUPで毒の濃度、範囲、保持時間上昇。
「ベナムウェーブ!」
薄い毒霧が辺りに漂い始める。7匹に囲まれているのに蝙蝠たちの攻撃が嘘のように当たらない。もちろんたまに当たるときはあるがあまり気にならないレベルだ。【効果2倍】のおかげでもあるだろうがここまで便利とは思わなかった。一人で黙々と戦うソーサラーが最初によくこれを使っていたんだ。
「コールドボルト!」
ソフィアの詠唱が完成し蝙蝠たちが次々と落ちていく。あれだけ詠唱を妨害されていたのが嘘のように、ソフィアは霧の中でお喋りになって敵をさくさく倒していった。毒が効いたってのもあるんだろうけどさすがに魔法の威力はウィザードのほうがずっと上だ。ただ、魔法を使いすぎたのかソフィアが逃げ腰になっている。
「あー、MEP切れちゃいそう」
「ライフエナジーチェンジ!」
俺の30ほどのLEPがソフィアのMEPに60になって追加される。【効果2倍】はここでも大きな恩恵をもたらしてくれた。
「凄い。ありがとう、クアゼル!」
「どういたしまして、ソフィア」
久々にソフィアの笑顔が見られて嬉しい。とはいえ、このままじゃ自分が死ぬのでなけなしのLEPを放っておくわけにはいかない。
「マジックエナジーチェンジ!」
70ほどのMEPが俺のLEPとして140になって生まれ変わる。有り余るほどの回復力だ。しかも俺のMEPは職業柄回復しやすいのであまり困ることがない。だからここでは無尽蔵に戦えそうだ。
もっとも、階層が深くなくても誰かに目をつけられることがあるからあまり無理はできない。最近は浅い階層でも通り魔に殺された冒険者だっている。しかも目撃者がいないという異常な事態。ダンジョン内での冒険者同士のいざこざは珍しくないと聞いた。特にギルドが関わってくることが多いらしい。正直ギルドには興味がないし入るつもりもないが。
……さて、そろそろ休憩するか。
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