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第十六階 不遇ソーサラー、筋肉と対話する
しおりを挟む『マスター、一体どうされたんですか?』
『マスター、またボス狩りー?』
『忙しいのか、マスター』
マジックフォンから三馬鹿の耳障りな声が聞こえてくる。
ギルドに入っていると会話モードの画面に切り替えるだけでこうしていつでもどこでも多人数との同時会話が可能だ。映像も見ようと思えば見られるんだが目が腐るからやめておく。今でさえ耳が汚染されているがそれはもうしばらくの我慢だ。
「ちょっとな。俺……僕も忙しいんだ。ソフィアのことだが、あれから反省の意味も込めて、少し休養したいということでギルドを離れた」
『そうなのですか。ソフィアさんはそこまで気にしておられたのですね。あのゴミクズと相方だったときの心労もあったのでしょうけれど』
『うんうん、実はそれが一番大きいかも? ストレス溜まってたんだろうしー。私ならあんな間抜けのレベル上げに利用されるとかぜえーったい耐えられないもん!』
『まったくだ。あんな愚図と一緒に狩りなど考えられん。一日どころか一時間も我慢できずにモンスターごと愚図の頭を粉砕しそうだ』
「……」
勝手なことを言って笑い合ってるが、俺は驚くほど冷静に聞くことができた。もうゴミを二匹も甚振った上で殺してるしな。こいつらの中じゃ俺は今でも笑いの種なんだろうがそこから芽が出て自分たちを苦しめることになるとは夢にも思わないだろう。
「もしかしてその相方ってクアゼルなの!?」
「おい……」
「だ、だって、腹立つじゃない!」
エリナのほうが怒ってどうする。そんなに興奮したらコーヒー零れるぞ。
『マスター、誰かと一緒なのです?』
『なんか女の子の声がした! またナンパー?』
『マスターはモテるからな。誰にも相手にされず惨めに死んだ愚図と違って』
またゲラゲラ笑ってる。本当にしつこいやつらだ。そんなに残虐ショーを楽しみたいのか。
さて。目的の恨みのエネルギーは充填完了した。やつらの醜い声を聞くだけで充分だと思っていたが、まさかのおまけも貰えた。ソフィアとルーサを殺したことでちょっと萎えてたからな。
ギルド会話から一対一モードに切り替える。誰からにしよう。別に誰でもいいんだが相手の姿に転生する以上、違和感が少ないほうがいい。ギルド情報で三馬鹿のレベルを確認する。当たり屋のジュナが49、天然畜生のエルミスが47、脳みそ筋肉のローザが46か。というわけで俺と同レベルのローザからだ。
「ローザ、話がある」
『マスター……何か話でもあるのか』
一対一モードということで意識したのか急に小声で喋り出した。思い上がるな。誰がこんな性悪筋肉少女相手にするんだよ。
「ペア狩りしたい。やっぱり僕にはローザが一番だ」
『わ、わかった。是非』
「30分後に来てくれ」
『嬉しい。マスター』
教祖のお誘いに感動している様子。一番の愚図は誰なのか思い知らせてやる。
「ウプッ……」
なんか隣でエリナが口を押さえて笑いを堪えてるんだが。怒ったり笑ったりと忙しいな。
「マスター、お待たせ」
「おう、よく来たな」
「今日はどこで狩りをするんだ。マスター」
「狩り? 浅い階層でデートに決まってるだろ」
「で、デート……」
ローザの顔が見る見る赤くなっていく。鈍臭いこいつでも意図が理解できたようだ。ただあんまり表情が変わらないのが気色悪い。
「じゃあ、鎧を脱いでいく」
「いやいや、ローザはそのいかにも戦士って格好が可愛いんだよ」
「はあ。ではこれで」
可愛いにはまったく反応しないのかよ。鈍臭いとかいうレベルじゃないな。あまりにも可愛いとはかけ離れてるから筋肉化した脳みそがついてこないのかもしれない。
ダンジョンに潜る際に振り返ると、エリナが陽射しを浴びながらこっちに駆け戻ってくる様子が窓から見えた。よしよし、もうあれを買ってきたか。準備完了だな。
「――この階でデート?」
「そうだよ、ローザ。薄暗いしムード出てるだろう?」
「薄暗いならどこでもそうだが」
「ここなら敵も弱いし色々やれるだろ!」
「ふむ」
今更だがイライラするほど淡白なやつだ。愚図の癖に他人を愚図呼ばわりするなっての。浅い階層といっても、まさかそれが地下一階層だとは思わなかったらしい。筋肉に支配されてそうだし物足りなささえ感じてそうだ。だがそれでいいんだ。さすがにこの状況でスキル構成を確認しようとは思うまい。
「ヒール!」
よし来た。幾重にも重なったやかましい羽音をエリナが引き連れてくる。まるで黒いマントを被ってるみたいでエリナの上半身が見えなくなってるレベルだ。蝙蝠を集めてくれとは言ったが集めすぎだろう、さすがに。
「誰か助けなさいよ! ヒール!」
そこはしおらしく助けて―だろうに。
「愚図めが。マスターはここでお待ちを」
ローザが蝙蝠に向かっていく。さて。そろそろだな。ギルドを抜けてもらうか。マスターには追放の権限があるんだ。エンブレムを探して外す手もあるがこっちのほうが早い。後は俺がパーティを抜けてジョブを変更するだけ。
「ベナムウェーブ――マジックエナジーロッド!」
【先行入力】でエリナの前に軌道を作ると、ローザはあっさり引っ掛かって両足を失った。さらに後ろから駆け寄り、両腕をもぎ取って筋肉達磨の完成だ。
「ヒール!」
エリナがローザの意識を覚醒させ、ついでに蝙蝠たちを押し付ける。手慣れてきたなあ。やつらは雑魚だが血の匂いに反応して少々凶暴化する。でもファイターって無駄に体力あるから簡単には死ねないだろうな。今のヒールで相当回復しただろうし。
「ぐおぉ……?」
このままだとローザの顔すら見えないので少し殴って蝙蝠を減らす。
「マスター? これは一体……」
よしよし、十匹くらい落としたら顔が見えてきた。ローザのやつ真っ青だが全然表情変わってなくてちょっとがっかりだな。まさかそこまで鈍臭いとは。俺はちょっと焦っている。早速ネタバラシをして反応を見てみよう。
「俺はマスターじゃないぞ、ローザ」
「マスター、何を言っている」
ダメだこいつ。脳みそ筋肉に遠回しな言い方は通じないか。
「俺はクアゼルだよ。思い出したか?」
「その愚図がどうしたのか」
「それが俺なんだよ。ほら、これ見たらわかるだろ?」
マジックフォンを顔に擦りつけてやる。
「【転生】……?」
「そう。俺の姿はマスターだが、中身はクアゼルだよ」
「愚図……?」
反応する前に白目剥きやがった。やばいな。
「エリナ、ヒールはダメだ。ポーションを、早く!」
「わかってるわよ!」
エリナのマジックフォンからポーション瓶が出てくる。それをローザに飲ませるとすぐに目を覚ました。よかった。ヒールじゃこいつの体だと回復しすぎるからな。少しくらい弱らせたほうが筋肉も委縮して良い反応が見られそうだし、こんな愚図で長く楽しみたいとも思ってない。
「許してほしい」
「は?」
「悪かった、クアゼルさん」
こいつ、謝り方も淡白すぎるだろ……。
「愚図って言わないのか? お前の口癖だろ?」
「愚図は……私だ」
「私?」
「ローザ」
「うん。お前ほどの愚図はどこ探したっていないよな」
「ぐ……」
お、今ちょっと口元が引き攣ったな。ほんの少しは効いたらしい。
「ここでだけは」
「は?」
「ここでだけは、死にたくない」
涙を流し始めた。あれか、涙の説得ってやつか? こいつの涙って、感動の成分が途轍もなく薄そうだが。あー、そうか。レベル46で蝙蝠にやられるなんて恥だもんな。それならこの路線で行こうか。まず鎧を脱がし、中の服と下着を破いて全裸にするとアソコはモジャモジャだったが結構胸が大きくて驚いた。
「お前はここで蝙蝠に食われて惨めに死ぬんだよ」
「嫌だ……そんなの愚図すぎる……」
「愚図らしい死に方だろうが」
「ひぐっ……」
股間のジャングルにポーションを掛けてやる。
「お前は全裸で男と行為中に蝙蝠たちに絡まれて失禁しながらくだばるんだよな?」
「違う、違う……」
「何が違うってんだよ。ほら、早く飲めよ。死ぬぞ」
ポーションを垂らしてやると、なんの疑いもせずに飲むローゼ。本当にバカだな。ただのわずかな延命に過ぎないのに。余計に苦しむだけってことさえわからないのか。
「愚図がどれだけ惨めに死んでいったか、詳しくみんなに教えないとな」
「やめて、やめてぇ……えうっ……」
ローザが子供みたいに顔をしかめて泣いてる。最高傑作だ。こういうのを見たかったんだ。まもなく白目を出してニヤニヤ笑いだしたところで顔面を潰した。愚図にこれ以上の面白い反応は期待できそうにない。
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