29 / 31
第二九階 不遇ソーサラー、危機感を抱く
しおりを挟む「楽しかったな」
「そうですね」
登録所の横にある休憩所でエリナと向き合い、食事をする。周りで騒々しく会話するパーティーがあまり気にならないくらい充実していた。それにしても、ダンジョンから戻る際に感じたあの違和感はなんだったんだろう? まあいいや。
「もうすぐだ、もうすぐエリナの仇が討てるぞ……」
小声でエリナに話しかけたつもりが、興奮のあまりか少し声量が大きくなってしまっていた。
「でも、クアゼルが狩りしているところを犯人が見ていたなら、怖くて襲えないでしょうね」
「ああ。だからまずは怪しまれないように俺がダンジョンで自決して、違う姿で【転生】してソロ狩りするつもりだ。それから例のトイレで待ち合わせ――」
「――クアゼル」
「ん? なんだ? エリナ……」
「その体は私の兄なのでしょう?」
「あ、ああ。でもどうせ兄だっていう記憶もないし……」
「クアゼル……」
エリナが呆れた様子で俺を見ている。なんでそんな目で俺を見るんだろう?
「どうしたんだ?」
「クアゼルの目的は仇討ちだけですか?」
「え……」
「私の記憶を呼び覚ますことも含まれているのでは?」
「……」
そうだった……。俺はエリナの記憶を戻したいと思っていたはずなんだ。そんなのわかっていたはずなのにはっとしてしまう。今までそのことを見ないようにしてたからなんだろうか。きっと無意識のうちに都合の悪いことから逃げていたんだ。今の状態が当たり前になってて、自然に受け入れてしまっていた。だからあのとき、猛烈な違和感に襲われたんだろう……。
「もし戻らなくても、今のままでも――」
「――それはダメです、クアゼル」
「エリナ……無理するなよ。エリナだってそのほうがいいはずだろ?」
「もう一人の……本当の私のことはどうするおつもりですか……?」
「そ、それは……」
「こういう状態が続けば、私は消えてしまうのでわからなくなるでしょうけれど……クアゼルは違うはずです。もっと辛くなるでしょう。あなたが私といたがるのは、こっちのほうが好きだからというのではなく思い出せば消えてしまうという罪悪感からではないですか? 逃げてはいけません」
「エリナ……」
反論できなかった。そうだ、別人格のエリナと仲良くなるうちに、彼女が消えてしまうことのほうが怖いと思ってしまっていた。正直な話、既に罪悪感というレベルでは片づけられないところまで来てしまってる感じはするけど……。
「逃げれば逃げるほどあなたは辛くなっていくはずで、それを私はとても心配しているのです。だから……あなたのことだけでなく、私のためにも本当の自分を呼び戻す努力をするべきではないでしょうか」
「……」
そうだよな。このまま膠着状態が続けば、本当に今のエリナのほうを好きになってしまうかもしれない。そんな彼女を失えば俺はもっと深く傷つくだろう。それを憂慮してくれてるってわけだ。
確かに別れるのは辛いけど、これ以上好きになるのは危険だし思い出すならなるべく早いほうがいい。彼女自身も記憶を失くしているとはいえあのエリナと同じだから危機感を持っているに違いないんだ。本当の彼女と一緒になることこそが誠意。綺麗事かもしれないが今はそう思うしかなかった。
「でも、どうやって……」
今までだって、俺はエリナの記憶を呼び戻そうと努力してきた。だから以前彼女と行った階層全てに潜ったし、例の女子トイレにだって通った。現在は男の姿なので一応女装したが。これ以上どうしろと……。
「何か良い方法はないでしょうかね。たとえば思い出の品とか……」
「思い出の品……?」
「そうです。大切な人から貰った贈り物であれば、たとえそれがどんなものでも記憶を呼び覚ますトリガーになると思います」
「……あ……」
そういや、天使の髪飾りをプレゼントした覚えがあるな。ただ、棺の中で遺体を見たときはなかったから、事件の際に誰かに盗られてしまったんだろう。なんせあれは滅多に手に入らない高級品だし……。
「覚えがあるみたいですね」
「ああ。でもエリナが襲撃されたときに誰かに盗られちゃったみたいだ」
「あら……取り戻せないものでしょうか」
「厳しいだろうな。なんかそういうスキルでもあればいいんだけど……」
ジョブに関する知識をある程度持ってる俺でも、そういう紛失したアイテムを取り戻すみたいなスキルは聞いたことがないからな。【転生】を続けていれば固有スキルをどんどん覚えていくからそれに期待する手もあるが、さすがにそんなに都合よく……って、待てよ?
「クアゼル、どうしたの?」
「もしかしたら取り戻せるかもしれない」
「……え?」
俺は慌ててマジックフォンを取り出し、自身の覚えている固有スキルの一つを調べてみた。
【呼び戻し】
一度触れたことのあるものに限り、紛失したアイテム、または行方不明になった人物を手元に戻すことができる。この効果はパーティーメンバーにも適用される。
俺は固有スキルの説明文を見て、全身に鳥肌が立つような感覚がした。思った通りだった。既に持っていたんだ。それもエリナの兄の固有スキルだったとは、なんという運命の悪戯か……。
23
あなたにおすすめの小説
【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……
ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。
そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。
※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。
※残酷描写は保険です。
※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
異世界での異生活
なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる