30 / 31
第三十階 不遇ソーサラー、夢を見ているのかと思う
しおりを挟む俺とエリナは、例の女子トイレまで来ていた。あのときも天使の髪飾りはここでプレゼントしたんだ。俺には魔眼の帽子があるからって。あの光景は今でも昨日のことのように鮮明に覚えている。
「――エリナ、もう目を開けていいよ」
「はい……」
彼女にはここまで目を瞑ってもらっていた。ダンジョンで天使の髪飾りを手元に戻し、マジックフォンに収納したものをここで見せるためだった。そのほうが過去にあげたやり方に一層忠実だし、思い出す確率も上がると思ったんだ。
「これやるよ」
「え?」
「俺は魔眼あるしな」
俺が手渡した天使の髪飾りを驚いた顔で見つめるエリナ。無意識のうちに出た言葉なのにあのときとあまりにもよく似ていて、現実感が乏しくて夢を見ているかのような錯覚にとらわれた。まるで過去にあったことをもう一度やり直してるみたいだったんだ。
「……あれ、私何やって……」
「……エリナ?」
妙だ。彼女は明らかに雰囲気が変わっていた。
「私、死んだはずじゃ……」
「お、おいエリナ、お前……まさか……」
「……って、お兄さん……!? なっ、なんなのこれ、夢……だよね……?」
「エリナ!」
前のめりに倒れようとしたエリナを受け止める。あまりの出来事にショックを受けたらしく、意識を失ってしまったようだ。
「――キャー!」
「あ……」
誰かが入ってきて悲鳴を上げたので、俺は慌ててエリナを抱きかかえ、女子トイレから飛び出した。そうだった、ここに入る前に女装するのをすっかり忘れてた……。
◆◆◆
「うっ……」
「エリナ? 目が覚めたのか……?」
ボロアパートの自室にて、俺は何度も目を擦ってからエリナの元へ近付く。折角彼女の記憶が戻って喜ばなきゃいけないってときに泣いてるところを見られたくなかったんだ。
「こ、ここは……」
「よかった、エリナ――」
「――バカッ!」
「いだっ!?」
いきなりエリナにビンタされて星が幾つも出た。なんてやつだ……。
「なんでだよ、エリナ……」
「あ、あのときは気が動転しちゃってたけど、私のお兄さんが生きてるわけないしすぐにクアゼルだってわかるわよ!」
「そ、そりゃそうだよな……」
改めて、あのエリナが戻ってきたんだと感じる。それと同時に寂しさもあるのは確かだ。もちろん嬉しいんだが、今までのエリナが消えてしまった形だから、喜びと悲しみが入り混じっているという複雑な心境だった。
「てか、クアゼルのこと信じてたのにいなくなってたから、凄く頭に来たんだから……!」
「……ごめんな。逃げちゃって……」
「……クアゼル、泣いてるの?」
「え……いや、そりゃエリナのビンタが痛かったから……」
どうやらごまかせなかったらしい。涙は拭ってるが、目が赤かったからかな。
「嘘ばっかり」
「あ、あはは……バレちゃったか」
今度はなんて言おう? 嬉し泣きってことにしとこうか。半分は本当だしな。
「もう一度言うわ。なんで泣いてたの?」
「そりゃ、エリナが目覚めたから、嬉し泣きだよ」
「嬉し泣きだなんて、酷いです。今までの私はどうなるのですか……」
「え……?」
「全部覚えてますよ、クアゼル」
「……エ、エリナ……?」
この抑揚のない喋り方……まさか……。
「私、思い出したんです。自分のまま。その時点で人格が変わるなんて思い込んでましたけれど……そうはならなかったわよ!」
「……エリナ……」
涙がとめどなく溢れてきて、俺は止めることがどうしてもできなかった。夢を見ているのかと思うくらいまだ完全には信じられない。
「頼む、エリナ。もう一回ビンタしてくれ」
「ま、マゾなの?」
「いいから早く!」
「わかったわよ!」
「いだっ……」
夢じゃない、本当に夢なんかじゃないんだこれは……。
「もう、クアゼルったら泣き虫なんだから……。でも、前よりずっとずっと好きになっちゃいました」
「……だ、騙しやがって……」
「うふふ……」
「じー……」
「「はっ……!?」」
気が付くと、俺たちのすぐ側に大家が座っていた。おいおい、いつの間にそこにいたんだよ。心臓が止まるかと……。
「クアゼル、とうとう例の彼女と仲直りできたんだね! はあ、若いもんはいいねえ。あたしの若い頃を思い出すよ……」
「大家さん……このアパートの住人にプライベートはないんですかね……?」
「あたしの前では断じてないっ!」
「「……」」
はっきり断言されてしまって、俺とエリナは苦い笑顔を見合わせた。それならもう隠す必要もないかな。
「エリナは生きてるけど……早速これから仇を討ちにいこうか」
「そうね、行きましょ……あ、そうだ」
「ん?」
「ねえ、クアゼル。私の喋り方、丁寧な今風のと以前のほう、どっちがいい?」
「んー……どちらでも?」
「どっちか決めなさいよね! バカッ、浮気者っ!」
「……おいおい……」
「ふふっ……」
「じー……」
「「ひっ……」」
大家のねっとりとした視線を浴びて、俺はエリナに向かって目配せした。
「逃げるぞ!」
「うん!」
「――うおぉぉぉぉっ、待ちなあああぁっ! このアパートの住人にプライベートなんて欠片もありゃしないんだよおおぉぉっ!」
恐る恐る振り返ると、赤鬼と化した大家が箒を振り上げながら追いかけてくるのがわかった。しかも無限ヘイストがかかってるんじゃないかと思えるほどまったくスピードが落ちない。一体なんのスイッチを押してしまったんだか、俺たちは……。
22
あなたにおすすめの小説
異世界での異生活
なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。
異世界をスキルブックと共に生きていく
大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる