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36話 手合わせ
しおりを挟む「――ここは……?」
僕がソフィア様とお供の兵士たちに案内されたのは、複雑な幾何学模様が床に満遍なく施された大きな空間だった。
「ここはスキルを使用できないようになっている場所でな、普段は兵士の戦闘試験等で使われている部屋だ。造りも至って丈夫で壁や床に傷やへこみがつく心配もないため、手合わせする場所として相応しい」
「そ、そうなんですね……」
「スキルを積極的に活用できない点については物足りないかもしれないが、受動的効果は残る。我はこういう立場なのでな……理解してほしい」
「あ、う、うん……」
むしろほっとしたんだけどね。これなら【瞬殺】スキルを間違って使うとかで殺しちゃう心配もしなくて済むわけだし。
「ちなみに、我のスキルは【騎士】といってな、使用すると防御力、攻撃力、スピード、命中率、味方の士気……何より勇気の部分が大きく上昇する。ただ、使用しなくてもこれらの要素を少々上乗せすることができるのだ」
「なるほど……」
「ほー、驚かんのか。カインは一体どんな凄いスキルを持っているのであろうな?」
「あっ……」
しまった、これはある意味誘導尋問みたいなもんで、第四王女の立場の人が先にスキルを打ち明けたことで、僕も言わなきゃいけないような空気にされてしまった。どうしよう……。
「え、えっと……【鑑定眼】スキルみたいなもんなんです……」
「なっ……それは誠か……?」
ん、ソフィア様がびっくりした顔をしてる。そんなに凄いのかな?
「なんていうか、使うと相手の情報を結構詳しく知ることができて、使わなくても相手の弱点が朧気に見える、みたいなスキルですね……」
「ほほお……つまり、カインはそれを使ってあの化け物の弱点を的確に突き、見事に勝利したというわけだなっ」
「そ、そんな感じです……」
まあ【鑑定眼】と【鑑定士】じゃスキル名はちょっと違うけど、効果について嘘はついてないわけだしね。
それから僕たちは空間の中央付近で対峙することになった。僕はルーズダガーでソフィア様は小剣だ。
「それと、この幾何学模様には自然治癒効果もあり、ある程度の怪我を負っても大丈夫だから思いっ切りかかってきてほしい」
「う、うん……」
離れた場所にいる兵士たちから負けろっていう圧をこれでもかと感じるけど、手加減するとソフィア様が怒りそうだからなあ。とにかく勝つつもりで精一杯やらないと。
「――では、我のほうからゆくぞっ!」
「うっ……!?」
掛け声とともに繰り出してきたソフィア様の攻撃は想像以上のもので、僕は早くも押されっぱなしになってしまった。
「どうした、カインッ、あの化け物を倒すほどの腕前はどうした! その程度ではあるまいっ……!?」
「……」
ただ、想像以上といっても予想よりは上というだけで、慣れてきたことで今の僕は余裕で彼女の攻撃を受け流すことができていた。【騎士】スキルを使ったらきっとこんなもんじゃないんだろうけどね。
「我をがっかりさせるなっ!」
「じゃ、じゃあ……遠慮なく行かせてもらいますよ、ソフィア様……はあぁっ!」
「はっ……!?」
僕はまず《跳躍・中》で距離を取ると、【偽装】は使えないので幻惑させるために小刻みに跳び、最後に一気に相手の懐まで入って弱点を突いてみせた。
「ぬわああぁっ……!」
「ひっ……姫様あああぁぁっ!」
「あ……」
ソフィア様が派手に壁に叩きつけられたかと思うと倒れ込んでしまった。うわ……やっちゃったよ。どうしよう……。
「「「曲者っ……!」」」
しかも兵士たちに槍を突きつけられちゃったし、最悪の展開だ――
「――み、見事、だ、カイン……」
「「「姫様っ!」」」
おお、ソフィア様がもう立ち上がった。本気で彼女の急所に攻撃したのに、凄い……。
「ゴホッ、ゴホッ……カイン、貴殿には本当に驚かされる……」
「えっ……?」
ソフィア様がよろよろとした足取りでこっちに近付いてきたかと思うと、僕に向かって手を差し出してきた。
「……大体の者は我に媚びへつらってわざと負けるか、そもそも実力のない者たちばかりであったが……貴殿は違う。本気で我にぶつかってきてくれた……」
「ソフィア様……」
なるほど、これだけ鍛えてる上に意識の高い彼女からしてみたら、手合わせするにも相手が本気じゃないと物足りないし相当悔しかったんだろうね。握手に応じると、彼女は一層柔らかい笑顔を見せてくれた。なんか頬が赤いけど風邪かな……?
「カイン……また機会があれば、是非我と手合わせを頼む」
「う、うん」
「それと……と、友になってほしい……」
「えっ……」
僕が王女様と友達に……? 信じられない……。
「い、嫌か……?」
「そ、そんなことはないですよ、ソフィア様っ……!」
「よかった……それからもう一つ、友なら敬語をやめてもらいたい。様呼びもな」
「わ、わかりました――じゃなくて、わかったよ、ソフィア!」
「そうだ、それでいい。ふふっ……」
「あははっ……」
僕たちはしばらく笑い合っていた。なんだかとっても幸せな気分だ。何故かダストボックスのほうから舌打ちのようなものが聞こえてきたような気はするけど……。
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