72 / 93
72話 火
しおりを挟む「――あっ……!」
早速、『鬼哭の森』を目指して《跳躍・大》で高く跳び上がったときだった。向こうのほうで黒煙と炎が上がっているのが見えた。か、火事……!? しかも王城がある方向だ。
よーし、水属性の魔法系スキル【アイススマッシュ】で火消ししてやろう。僕は【擦り抜け】も駆使して一直線に王城へと向かう。やがて城の全体像が見えてきて、野次馬たちや兵士たちが慌てふためく中、彼らの指差す城の天辺あたりが激しく燃え盛っているのがわかった。
このままじゃ目立つので【偽装】で自分の姿を隠しつつ回り込み、【混合】+《跳躍・大》+《裁縫・大》によって、出火している箇所を目指して縫うように跳び上がっていく。こうなったらもう時間との戦いだ。煙を吸い込まないよう、息を大きく吸ってから【アイススマッシュ】と【維持】で一気に――って、あれ……?
スキルが発動しない。一体どういうことなんだ……?
「あっ……」
よく見ると、城の外壁には見覚えのある幾何学模様が刻まれていて、僕はそこでソフィアと手合わせしたときのことを思い出していた。そうか、これがあるところではスキルが使えないようになってるんだ。じゃあ僕にはもうどうしようも――
「――えっ……?」
まもなく火は跡形もなく消えてしまった。あれだけ燃え盛っていたはずなのに、何故……。その答えは、煙が風で流されたときにわかった。何か黒い石のようなものが屋根の上に幾つか置かれていて、それが小さくなったことで火が弱まり、こうして消えたように思う。
その周りの外壁は熱で変色してるけど一向に燃え広がるような気配はなかった。よく考えてみると、こんな幾何学模様があるような場所だから特殊な仕掛けが施されてるのは間違いないし、簡単に燃え広がるはずがないんだ。
つまり、誰かがここに石を置いて城を燃やそうとしたけど、特殊な仕掛けがあることを知らなかったので失敗した……?
「「「「「そこまでだっ!」」」」」
「っ!?」
気が付けば僕は弓を構えた兵士たちに囲まれてしまっていた。まずい、このままじゃ僕が火をつけて失敗したみたいに思われるし早く逃げなきゃ――って、あれ? 全然動けない。両足が屋根にくっついてる。鳥類を捕まえるためのとりもちの強化版みたいなものか、これは……。
「「「「「大人しくしろ!」」」」」
「ぼっ、僕は何もやってないっ……!」
「「「「「黙れっ!」」」」」
「くっ……!?」
じたばたともがいているうちに、僕は近付いてきた兵士たちによってあっという間にロープで縛り上げられ、さらに首の辺りに打撃を加えられて意識を手放すことになった……。
「――うっ……? こ、ここは……」
気が付くとそこは暗くて冷たい窮屈な空間だった。しかも唯一の扉が鉄格子なことから、自分が牢屋の中に閉じ込められていることがわかる。僕はきっと、あれから城に放火した容疑で捕まったんだ。早く逃げなきゃ……って、やっぱりスキルが使えない。【鑑定士】スキルで自己開示すらもできないんだ。
よく見ると壁に例の幾何学模様があるのがわかった。武器や鎧も全部取り上げられてるし、これはもう完全に希望を断たれてしまったんじゃ……? ん、コツコツと乾いた足音が徐々に近づいてくる。一体誰なんだろう。このまま僕は処刑場へと連れられていっちゃうんだろうか……。
「ククッ。カインよ、今の気分はどうだ……?」
「あっ……」
まもなく鉄格子越しに僕の前に現れたのは、忘れたくても忘れられないあの仮面の男だった。
「殺され屋……」
「ほう、吾輩のことを覚えておいてくれたか。フハハッ……」
「そりゃ……あなたにはあの一件で苦しめられたからね。今回も罠にかかって牢獄に入れられちゃったし……」
「ククッ。吾輩もお前には随分と苦労させられたのだからお互い様だ……っと、時間があまりないゆえ手短に話させてもらう。カインよ、吾輩とともにダリア様の元へ来てもらうぞ。その理由は賢いお前のことだからもう知っているだろう?」
「……そうか、あなたは第一王女のダリア一派なのか。でも、残念だけど僕はどの派閥であっても協力なんてできない……」
「ふむ……しかし、吾輩の誘いを容易く断れるような状況なのかね……?」
「……」
やっぱりそうなっちゃうよね。そのためにああして巧妙な罠を張ってまで僕を捕まえたんだろうし……。
「吾輩はこう見えて非情に徹することができない男なのだが、カインがどうしても協力を拒むというのなら、やむを得ず契約してもらうだけの話……」
「契約……?」
「そうだ。吾輩に逆らえば気絶するような痛みを覚える契約……お前が意識を消失している間にそれをしなかったのは、お前と信頼関係を築きたいからであり、あくまでも自分の意思で協力すると言ってもらいたいのだ。カイン、どうか力を貸してほしい……」
「……」
この男、そこまで悪い人じゃないんだろうな。僕と信頼関係を築きたいから、そういう契約ができるのにあえてしなかったとか、そういう話を聞かされると心が揺れてしまう……。
「まあ、簡単には決められぬことだろう。しかし、残された時間も少ない。短い時間だが一人にしてやるからよく考えることだ。できれば、カイン、お前とは従属関係よりも仲間同士の関係になりたいと吾輩は心の底から願っている……っと、そうだ、自己紹介がまだであったな。吾輩はシュナイダーという者だ。よく覚えていておいてほしい……」
仮面の男は口元をひん曲げて笑うと、マントを翻して立ち去っていった。シュナイダー、か。はあ。これほど早く忘れたいって思った名前は初めてだ……。
16
あなたにおすすめの小説
チートツール×フールライフ!~女神から貰った能力で勇者選抜されたので頑張ってラスダン前まで来たら勇者にパーティ追放されたので復讐します~
黒片大豆
ファンタジー
「お前、追放な。田舎に帰ってゆっくりしてろ」
女神の信託を受け、勇者のひとりとして迎えられた『アイサック=ベルキッド』。
この日、勇者リーダーにより追放が宣告され、そのゴシップニュースは箝口令解除を待って、世界中にバラまかれることとなった。
『勇者道化師ベルキッド、追放される』
『サック』は田舎への帰り道、野党に襲われる少女『二オーレ』を助け、お礼に施しを受ける。しかしその家族には大きな秘密があり、サックの今後の運命を左右することとなった。二オーレとの出会いにより、新たに『女神への復讐』の選択肢が生まれたサックは、女神へのコンタクト方法を探る旅に目的を変更し、その道中、ゴシップ記事を飛ばした記者や、暗殺者の少女、元勇者の同僚との出会いを重ね、魔王との決戦時に女神が現れることを知る。そして一度は追放された身でありながら、彼は元仲間たちの元へむかう。本気で女神を一発ぶん殴る──ただそれだけのために。
【完結】勇者PTから追放された空手家の俺、可愛い弟子たちと空手無双する。俺が抜けたあとの勇者たちが暴走? じゃあ、最後に俺が息の根をとめる
ともボン
ファンタジー
「ケンシン、てめえは今日限りでクビだ! このパーティーから出て行け!」
ある日、サポーターのケンシンは勇者のキースにそう言われて勇者パーティーをクビになってしまう。
そんなケンシンをクビにした理由は魔力が0の魔抜けだったことと、パーティーに何の恩恵も与えない意味不明なスキル持ちだったこと。
そしてケンシンが戦闘をしない空手家で無能だったからという理由だった。
ケンシンは理不尽だと思いながらも、勇者パーティーになってから人格が変わってしまったメンバーのことを哀れに思い、余計な言い訳をせずに大人しく追放された。
しかし、勇者であるキースたちは知らなかった。
自分たちがSランクの冒険者となり、国王から勇者パーティーとして認定された裏には、人知れずメンバーたちのために尽力していたケンシンの努力があったことに。
それだけではなく、実は縁の下の力持ち的存在だったケンシンを強引に追放したことで、キースたち勇者パーティーはこれまで味わったことのない屈辱と挫折、そして没落どころか究極の破滅にいたる。
一方のケンシンは勇者パーティーから追放されたことで自由の身になり、国の歴史を変えるほどの戦いで真の実力を発揮することにより英雄として成り上がっていく。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる
六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。
強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。
死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。
再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。
※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。
※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!
追放王子の気ままなクラフト旅
九頭七尾
ファンタジー
前世の記憶を持って生まれたロデス王国の第五王子、セリウス。赤子時代から魔法にのめり込んだ彼は、前世の知識を活かしながら便利な魔道具を次々と作り出していた。しかしそんな彼の存在を脅威に感じた兄の謀略で、僅か十歳のときに王宮から追放されてしまう。「むしろありがたい。世界中をのんびり旅しよう」お陰で自由の身になったセリウスは、様々な魔道具をクラフトしながら気ままな旅を満喫するのだった。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
追放された最弱ハンター、最強を目指して本気出す〜実は【伝説の魔獣王】と魔法で【融合】してるので無双はじめたら、元仲間が落ちぶれていきました〜
里海慧
ファンタジー
「カイト、お前さぁ、もういらないわ」
魔力がほぼない最低ランクの最弱ハンターと罵られ、パーティーから追放されてしまったカイト。
実は、唯一使えた魔法で伝説の魔獣王リュカオンと融合していた。カイトの実力はSSSランクだったが、魔獣王と融合してると言っても信じてもらえなくて、サポートに徹していたのだ。
追放の際のあまりにもひどい仕打ちに吹っ切れたカイトは、これからは誰にも何も奪われないように、最強のハンターになると決意する。
魔獣を討伐しまくり、様々な人たちから認められていくカイト。
途中で追放されたり、裏切られたり、そんな同じ境遇の者が仲間になって、ハンターライフをより満喫していた。
一方、カイトを追放したミリオンたちは、Sランクパーティーの座からあっという間に転げ落ちていき、最後には盛大に自滅してゆくのだった。
※ヒロインの登場は遅めです。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる