勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し

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第二章

24話 支援術士、気力を振り絞る

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(――ふう。ようやく着いたか。この香水のような甘ったるいお上品な空気、久々だぜ……)

 都に突如現れた、キザっぽく長髪を風に靡かせる男。その風貌は野性的、かつ黒々とした邪悪さを醸し出していたため際立ち、町を歩く者たちとは一線を画していた。

「あ、あの人、なんなのかしら?」
「山賊かな?」
「凄く怖そう……」
「フッ……」

 道行く者たちから訝し気に噂され、男は頬傷の目立つ浅黒い顔に似つかわしくない涼し気な笑みを浮かべる。

(ククッ、ビビッてやがる。俺が希少なる【勇者】の一人、ガゼルだって気付くやつはもう誰もいねえだろうが、却ってやりやすいぜ。グレイス、これからお前に俺の修行の成果を……生き地獄を見せてやるってんだよ。ぶっ壊してやる。お前の積み上げてきたものを一瞬にして、な……)

「なんだなんだ?」
「あいつ、さっきからずっと一人でニヤニヤしてるぞ。薄気味の悪い男だな」
「ママー、何あれー?」
「見ちゃダメッ」

(さあ、最初は何を壊してやるか。やつが大事にしてるフレットの形見の杖か、あるいは最近建てたっていう店か……。何をぶっ壊してやろうかなあ? そしていずれはアルシュを俺のものに……)

「ククク……ハハハッ!」

 人々の好奇な視線が集まる中、腰に両手を置いた【勇者】ガゼルの豪快な高笑いが周囲に響き渡った。



 ◇◇◇



「――はぁ、はぁ……グ……グレイス先生……治療、お願いします……」
「こ、これは……」

 またか、またなのか……。今日で五人目の、手首が切断された患者が俺の前に来ていた。包帯で応急処置はしてあるものの既に真っ赤で、顔面蒼白な上に表情にも力がなく、意識に至っては朦朧としている様子だった。

「酷い……」

 アルシュが口を押さえるのもわかる。町を歩く者の手首を無差別に切り落とすという、なんともえげつないやり方だ。一体なんのためにこんなことをするのか、怒りが込み上げてくる……。

「誰にやられたのかはわかるかな? ゆっくりでいいから」
「い、いえ……いつも通り、自宅から仕事場に向かってたら、いつの間にか……こうなってて……」
「やっぱりか……」

 やられたほうはみんな口を揃えてそう言う。通り魔の仕業だとは思うんだが、いずれも被害者は犯人の姿を見てないというから、相当な剣の手練れであることが窺えた。よっぽど修行を積んでないとここまで見事に右の手首だけ狙ってすっぱり切り落とした上、姿も見られないなんてことはできないだろう。

「大丈夫だから、なるべく心を平静に」
「ぐぐっ……は、はい……」

 まず回復術で止血するとともに痛みや吐き気を緩和してやり、それから再生術を施す。

 この再生術というのは切断された箇所を治す術で、技術的には相殺術や記憶回復術より易しいが、それでも並みの【回復職】では難しいとされる術の一つだ。さらに、切断されたものがないと、消耗度という意味で難易度はさらに上がる。それこそ、【治癒術士】並みの治癒エネルギーがないと厳しい。

「切断された手首はある?」
「……い、いえ……」
「そうか……」

 切断された手首さえあれば、消耗もかなり押さえることができるんだがしょうがない。難易度的には相殺術とかよりはマシだからいけるとは思うが、問題はそれにかかる治癒エネルギーだ。これまで何度も手首が切断された患者を治してきたというのもあって、俺は常時視界が回って見える程度には精神力を消耗してしまっていた。

「グレイス、少し休んでからのほうが……」
「いや、それだとさらに治療が難しくなってしまう」

 回復術は時間との戦いでもある。早く処置すればするほど治せる確率は上がるんだ。しかしアルシュの言うことも一理あるのは確かで、俺はオールラウンダーだがその分苦手な分野もあり、それは治癒力や補助力の量なんだ。

 この疲弊した状態で回復術を行使した場合、前向きな気持ちだけでは持ち堪えられるか不安になるが、とにかくやるしかない。

「グ、グレイス先生、治るんでしょうか……」
「大丈夫、治せるから、もうしばらくの我慢だ……」
「は、はい……」

 出血量が限りなく小さくなった頃を見計らい、俺は男の手首に巻かれた包帯を取り、傷口に回復術を丹念に流し込んでいく。その際、イメージするのはそこに本来あるはずだった男の手だ。人間の手にはほとんど差異はないことからそれ自体は簡単で、治したいという気持ちを彼と共有しながら、新たな手を構築していく。

 もう少し、もう少しだ。よし、治った……って、あれ? 何も見えなくなった。おかしいな……。

「――うっ……」
「グ、グレイス……!?」

 アルシュの悲痛な叫び声が遠くから聞こえてきたような気がした。
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