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第二章
27話 支援術士、追跡される
しおりを挟む「「はぁ、はぁ……」」
【なんでも屋】を休止した俺とアルシュが今向かっているのは、テリーゼとジレードの住む屋敷だ。そこでしばらく匿ってもらい、噂が落ち着いた頃に真犯人を捜索するという作戦を実行するつもりだった。
例の貼り紙の件もあって、俺の悪評が広まっているギルドに近い場所、すなわち【なんでも屋】周辺にいたら危険だし、下手したら暴徒化した冒険者たちに店ごと破壊される可能性だってあると考えたんだ。人は正義に燃えたときが一番恐ろしいし、その熱が一旦収まるのを待つしかない。
「――グ、グレイス、後ろ見て。私たち兵士に追われてるみたい……!」
「ああ、おそらくずっと監視されてたっぽい。アルシュ、こっちだ!」
「あっ……!」
俺はアルシュを引っ張るようにして一気に走り、アパートの玄関口に続く階段脇に隠れ込んだ。
「――お、おい、あいつらどこ行きやがった!?」
「畜生っ! なんとしても見つけ出せ! グレイスは手首切断事件の犯人に一番近いと目される男だからな!」
「「……」」
息を潜めるようにして、屈強な体つきの兵士たちが走り去るのを待つ。
「……行ったみたいだな」
「う、うん……」
とはいうものの、あそこまで疑いの目を向けられている状況で、テリーゼの屋敷に行けるかというと疑問だった。アルシュも浮かない顔だし、きっとそういう思いがあるんだろう。このままじゃ、あの二人に大いに迷惑をかけてしまう。テリーゼたちが手首切断事件の真犯人を匿っているという噂が流れかねないからだ。
「ねえ、グレイス……いっそ、逃げちゃう?」
「アルシュ……?」
「どこか、誰も知らないようなところで、ひっそりと二人だけで暮らすのはどうかなって……」
「……で、でも、アルシュ、それだとダンジョンワールドには――」
「――私はいいよ。グレイスと一緒なら、それだけでも……」
「アルシュ……」
彼女の気持ちは本当に嬉しい。それだけに、即答できないのが悔しかった。アルシュの期待に応えてやれない優柔不断な自分が。
「ごめんね、無理言っちゃって」
「アルシュ、俺は……」
「いいの。グレイスはオールラウンダーだし、やりたいことが沢山あるんだもんね」
「……いや、俺だって――」
俺だって、アルシュと一緒ならこの際夢をあきらめても構わない……覚悟を決めてそう言おうとしたときだった。
「……」
例の、記憶を少ししか保てない少女ライファの顔や、連れの爺さんの顔、さらにはいつもの顔馴染みの客たちの悲しそうな面々が脳裏に浮かんできた。ダメだ……アルシュはもちろん俺にとって大事だけど、やっぱりみんなの望みを消してしまうわけにはいかない……。
「ごめん……」
「ううん、いいの。私が我儘を言ってるだけだから。グレイス、気にしないで……」
俺が我慢するだけならいいが、このままじゃ側にいてくれるアルシュにもダメージが蓄積されていくし、なるべく早くなんとかしないといけない。
「なんとか、兵士たちに見つからないように屋敷へ行こうか」
「うん!」
俺はアルシュとうなずき合い、周りに兵士がいないことを確認してからスピード上昇魔法を使って走り始めたが、まもなく異変に気付いた。
「――くっ……ダメだ、また誰かにつけられてる……!」
「そ、そんなっ……!」
まるでここに俺たちがいることがわかっていたかのような、それでいて無駄のない迅速な動き方で、相当な手練れであることがわかる。どう考えてもまともに立ち向かったらまずい相手だし、なんとか撒かなければ。
「こっちだ……!」
「うん……」
アルシュとともに狭い路地に入り込む。この辺は特に複雑に入り組んでるから俺たちも迷ってしまう危険性はあるが、なんとかここで追手の追跡を回避し、テリーゼの屋敷へ行かなければ……。
「「――はっ……!」」
ダメだ、足音が迫ってきて、追手が来たのがわかる。土地勘もあるのか、ここに逃げ込んだのもバレバレらしい。俺たちはさらに奥へと入り込んでいったが、見事に袋小路だった。もう逃げられそうにないな……。
「アルシュ……俺が追手をここで食い止めておくから、屋敷へ一人で向かってくれ」
「で、でもっ……!」
「相手は強い。下手に戦うより、一人ずつ逃げたほうが得策だ。必ず追いついてみせるから――」
「――その必要はない」
「「はっ……」」
俺たちの希望を切り裂くような鋭い声が響き渡った。この異様なオーラ、間違いなく桁違いに強い。これが兵士だとしたら、その中でもトップ級じゃないか。こんな手強そうな敵を相手にして、アルシュを逃したあと俺だけで切り抜けることができるのか不安になってきたが、やるしかない……。
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