勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し

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第二章

28話 支援術士、藁にすがる

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 マントを着込み、白い仮面をつけた正体不明の人物が現れる。

 やはり、思った通り隙が見当たらない。テリーゼの屋敷で特訓をしたとはいえ、実戦となるとまた話は別だから緊張する。

「……」

 俺は亡き親友の残した杖を握りしめる。フレット、頼む、力を貸してくれ……って、あれ? やつは一定の距離まで近寄ってきたと思うと、立ち止まって周囲を見回し、仮面を脱いだ。

「「あっ……!」」

 見覚えのある顔だと思ったら、あの人だ。【闇騎士】の女性。

「ジレードか……」
「ジレードさんだ……」
「うむ、グレイスどの、アルシュ、驚かせてすまなかった。手首切断事件で疑われていると聞き、お二人の身を案じて駆けつけて参った次第。ゆっくり話している時間がないので、どうぞこちらへ」

 道理で、只者じゃない気配をこれでもかと発してたわけだ。変装するのは、俺たちが疑われてるとわかってるわけでしょうがないことだろう。俺はアルシュと安堵した顔を見合わせ、ジレードについていくことにした。

「――もうすぐ到着するので、ご安心を」
「あ、ああ」
「うん」

 しかしおかしいな。俺たちが進んでいるこの道は、テリーゼの屋敷とは反対方向だ。まさかな……。

「ジレード、こっちは屋敷の方向ではないんじゃ?」
「……屋敷の方向は、色々とまずいので隠れ家へ行こうかと」
「なるほど……」

 隠れ家、か。果たして本当だろうか? 濡れ衣を着せられ、最低階級の《罪人》になることだってある《庶民》を庇うことのリスクを考えると、《高級貴族》のテリーゼと《騎士》である彼女自身の立場を考えて裏切る可能性は充分にある。

 だが、俺としてはジレードを信じたかったし、都で頼れるのは最早彼女たち以外になかったので、藁にもすがる思いだった。一度都から離れるという手もあるが、それよりもここで一旦悪い噂が収まるのを待ち、それから密かに内部調査するほうが最もスピーディーで情報も入りやすく理想的だからだ。

「ジレード、ありがとう」

 それでも、《高級貴族》に付き従う彼女の立場上、裏切るのは仕方ないし恨んではいけない。むしろ感謝するべきだ。どうなるかは別として、俺は気持ちを込めてお礼を言った。

「えっ……あ、その、なんというか……嬉しいというかっ……」
「……」

 ジレードは普通に照れている様子だった。これは……安心していいんだろうか?

「私からもありがとう!」
「いえいえ。自分は恩人とその知人に対し、当然のことをしたまで」
「……」

 アルシュから感謝されると、ジレードの態度はさっきとはあからさまに違っていた。ちと複雑だが、これで本当の意味で安心したかもしれない……。

「――さ、到着したのでお二人とも中へ」
「「ええっ……」」

 俺とアルシュの素っ頓狂な声が被るのも仕方のない話で、そこは郊外にある囲いもない小さな墓地だった。隠れ家だっていうのに、こんな開けた墓場なのか……。

「よくいらっしゃいましたね、グレイスさん、それにアルシュ」
「「あ……」」

 墓地には車椅子に乗った少女、テリーゼの姿もあった。

「驚かれましたか? ここは、わたくしの隠れ家であり、お父様のお墓でもあるのです……」
「「ここが……」」

 意外だった。隠れ家という点についてもだが、《高級貴族》の墓にしては質素すぎるからだ。しかも郊外にあるなんて。

「きっと意外だと思われるでしょうけど、お父様はそういう方でした。かつては《庶民》だった立場から成り上がったので、亡くなったら《高級貴族》としてでなく《庶民》としてここに埋葬してほしいと頼まれたのです……」
「「なるほど……」」

《庶民》から《高級貴族》というのは、相当に成り上がらないと無理だろうから大変だっただろうけど、息苦しさみたいなものを内心では覚えてたのかもしれないな。

「――グ、グレイス、見て、あそこに兵士が……」
「あっ……」

 まずい。アルシュの指差す方向には、少数だったが確かに兵士の姿があった。

「「隠れないと――」」
「――大丈夫ですわ、グレイスさん、アルシュ、ここは絶対に見つかりませんから」
「大丈夫だ、お二人とも」
「「えっ……?」」

 いかにも自信ありげなテリーゼとジレードの様子に、俺はアルシュと驚いた顔を見合わせる。

「見ていてくださいまし。彼らはここをスルーするでしょう」
「うむ」
「「……」」

 まさにその通りだった。兵士たちは近付いてきたものの、まるでここが見えていないかのように素通りしていったのだ。

「ここはそもそも怪しまれるような場所ではない上、わたくしが結界を張っているので、バレる心配は一切ありません。姿が見えないどころか、音すら漏れていないと思いますわ……」
「なるほど。だから隠れ家でもあるってわけか。さすが【賢者】……」
「だね……」
「おほほ、そんなに褒めても、何も出ませんわよ……?」

 ここはテリーゼの屋敷に隣接する庭のように広くはないが、それでも誰にも見られない上、話も聞かれないなら安心だな。しばらくここを拠点として静かに活動させてもらうとするか。一連の騒動がある程度落ち着くまで、今できることを真剣にやるのみだ……。
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