19 / 78
第19話
しおりを挟む「な、なんだ貴様は……!?」
「はい? あなたはどこのどなたですかね……?」
「だ、誰なのよ……ぐすっ……」
異議を唱えてきた一人の青年を前にして、揃って怪訝そうな反応を見せるバルドたちだったが、受付嬢のイザベラだけは違っていた。
「あなたは……確か、時間切れによってクエストを失敗したA級パーティー『迷宮の番人』のリーダーの方でしたか」
「そそ。イザベラさん、俺のこと覚えてくれてて嬉しいよ。俺たちさ、その件で失敗したのはこいつらが溜め込んだ大量の古代ミイラに襲われて、怪我してしばらく動けなかったからなんだ。『聖域の守護者』っていう親切なパーティーに助けてもらったけど」
「は、はあ!? おい貴様っ、どうしようもない雑魚で僕たちが羨ましいからといって出鱈目を吐くな!」
「そうですよ。あなたね、妄想癖でもあるのですか? それとも、何か証拠でもあるのでしょうかね?」
「そうよ……あるなら出しなさいよ、証拠……」
鼻息を荒くして食ってかかるバルドたちに対し、その男は首を横に振りつつも余裕の表情を見せる。
「残念ながら、その件について明確な証拠はない。けど、あんたらがさっき言ってた変異種がどうのってのいうのは真っ赤な嘘だし、それについてはちゃんと証拠品だってある」
「「「なっ……!?」」」
信じられないといった様子のバルドたちを尻目に、受付嬢のイザベラが男から証拠品を受け取る。
「はて……これはなんなのでございましょう?」
「俺ら『迷宮の番人』がこいつらを尾行してたら、確かに一体のエンシェントマジシャンと戦ってたけど、体力を削り切れずに無様に退散してたよ。そのあと俺らでもすぐに倒せたけど。んで、この証拠品は現場に落ちていたイヤリングさ。やたらと高級品だからか無傷だったんでね。これと同じものを、そこにいる魔術使いがつけてるはず」
「うぇっ……!?」
素っ頓狂な声を上げて片方の耳を隠すエミル。
「エミルさん、今隠したものを私に提出してください。火傷を負っているとはいえ、それくらいはできますよね?」
「……う、うぅ……」
エミルがいかにも渋々といった様子でイヤリングをイザベラに渡す。
「なるほど……確かに一致しています。つまり、SS級パーティーの『神々の申し子』はA級パーティーでも倒せる相手を変異種と偽り、さらに古代ミイラを大量に溜め込んでほかのパーティーに迷惑をかけたということでございますね」
「ちょっ、ちょっと待て! さっきから黙って聞いていれば、その見方はいくらなんでも都合がよすぎるというものだろう!」
「はて……。都合がよすぎるとは、むしろあなた方の言い分を表しているように思えますが、一体なんのことでございましょう?」
「いいか、貴様らよく聞けっ! 確かにそのイヤリングは同じ種類のものだが、エミルだけがそれをつけていたという証拠はないし、僕たちが変異種の体力を削ったからこそ雑魚でも倒せたというだけの話だろうがっ!」
「バルドの言う通りです。嫉妬心を抱く気持ちはわかりますが、雲の上にいる私たちを陥れたいがために濡れ衣を着せようとするのはやめてもらえませんかね?」
「ホント……バッカみたい……」
「それなら、何故隠そうとする必要があったのです?」
「「「うっ……」」」
イザベラの鋭い指摘に対して気まずそうに黙り込むバルドたち。
「さすがイザベラさん、キレッキレだ。てか、本当に変異種ならタフなだけだとは思えない。それに、やたらと雑魚とか嫉妬とか言うけど……正直、なんでこんな嘘つき連中がSS級までいったのか不思議でしかないね」
「こ、こいつ! 雑魚の分際で僕たちがSS級パーティーまで上り詰めた事実さえも否定するつもりか!? おいイザベラ、たかがA級パーティーとSS級パーティー。どっちを信用するべきかはわかるはずだな!?」
「ん-、そうでございますね……。ギルドマスターによれば、議論が起きた場合は注意マークがついてないパーティーのほうを信頼するべきとのことですので、よってあなた方『神々の申し子』はSS級からS級に降格し、さらに続けて虚偽の発言をした罰金として、次回受付の際には銀貨2枚をいただきます」
「「「……」」」
周囲から拍手と歓声が上がる中、崩れ落ちるように膝をつくバルドたち。
この町の冒険者ギルドの歴史において、最も不名誉な形でS級パーティーが誕生した瞬間でもあった。
352
あなたにおすすめの小説
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる