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第26話
しおりを挟む『……さあ、人間よ。一思いに殺すがいい……』
瀕死状態の変異種カラスが、俺を前にしてすっかり観念したのか目を閉じた。
「また死んだ振り作戦をやるかと思ったが、さすがにもうそんな余力は残ってないか」
『……うむ……。この傷の深さでは、最早死ぬのは時間の問題……。それがわかっているのなら、早くとどめを刺してくれ……』
「いや、俺はお前を殺すつもりはない。助けてやろう」
『……な、何……? 私を助ける、だと……。人間よ、その言葉が一体何を意味するのか、わかっているのか……?』
「…………」
本当に賢いカラスだ。変異種モンスターを放置し続けた場合、災害級まで進化する可能性があることをちゃんと理解しているわけだからな。
「もちろんわかってるが、助けても問題ない。何故なら、お前はもう進化することができないからだ」
『……ん? 私がもう進化できないだと? 人間よ、それはどういうことだ……?』
「治癒というのは、細胞の働きを活性化させる行為でもあるのはわかるな? つまり、それによって変異種モンスターの進化を促進させることもできるわけだが、その際に施す治癒の力が大きければ大きいほど、進化しすぎて逆に退化するってわけだ」
『なっ……。そ、そんなことが可能だというのか……って、瀕死状態だった私の傷がいつの間にか治っているだと? 俄かには信じられん……』
翼を大きく広げて驚いた様子を見せる変異種。そこでやっと自身の体が完治していることに気が付いたらしい。
「変異種モンスターが瀕死の状態なら、俺のやり方で退化させることができる。元気な状態だと抵抗を受けてしまうが」
『……うぬう。どうやら、私はとんでもない化け物と対峙していたようだ……』
「おいおい、それは変異種のお前が言う台詞じゃないだろ?」
『……ごもっともだが、お前にはそれ以上の化け物としての自覚がないようだな。面白い。モンスター同然であり命の恩人ということで、一ついいことを教えてやろう』
「いいこと?」
『そうだ。今すぐ町に戻ったほうがいい。私がお前に教えてやれることはそれくらいだ。というわけで、さらばだ、人間……いや、化け物よ!』
空間の歪みの中へと消えていく変異種。平凡な治癒使いの俺が化け物ってなあ……モンスターにまでお世辞を言われるとは思わなかった。
というか、今すぐ町に戻ったほうがいいっていう台詞がどうにも引っ掛かる。一体どういう意味だ? あいつはやたらと賢いだけに、俺が知らない何かを知っていそうだった。
「「「おーい!」」」
お、ルエスたちが揃ってびっくりした様子で駆けつけてきた。もしかしたら、俺が変異種を見逃してしまったように見えたのかもな。
その件でみんなに問い詰められるかもしれないので、今までの経緯を話すことに。
「――と、こういうわけだ」
「「「……」」」
三人とも、口を大きく開けて呆然としている様子。みんな俺がやったことに対していちいち驚いた振りをしてくれるのは嬉しいが、こういう光景、なんだか見慣れちゃったな……。
「……さ、さすがラウル君。治癒で逆に退化させるとか君しかできないと思うし、さらっと物凄いことをやってのけるね……。てか、町に戻ったほうがいいって、どういうことかな?」
「あの変異種カラスさん……また村を襲うつもりかもです……?」
「あー、それありえるね。狡賢いカラスたちのボスみたいなもんだし、ラウルを町に帰したほうがチャンスって思いそうだもん」
「いや、やつは変異種のままとはいえ、身体能力は退化してるし普通の大型カラス同然になってるから大丈夫だ。隠れる能力だけはあるから生き延びることはできると思うが」
「「「なるほど……」」」
「とにかく、もうやつに大したことはできないから心配しなくてもいい。それに、俺にはやつが嘘をついてるようには見えなかった。とりあえず、急いで町に戻ってみようか」
「「「了解っ!」」」
そういうわけで、俺たちはすぐに山奥の村をあとにするのだった。
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