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第27話
しおりを挟む治癒使いのラウルたち――『聖域の守護者』パーティーが、エレイド山へと出発した頃のこと。
「ふわぁ……みなさん、どもども~」
町の中心部にて、いかにも眠そうな一人の男が『神々の申し子』パーティーの宿舎を訪れていた。
「フンッ。ようやく来たか。待ちわびたぞ……」
「ようこそ……って、あ、あなたはっ……!」
「……あ、あんたはっ……」
その人物こそ、彼らのライバルパーティー『聖域の守護者』に在籍していたサポート役であり、事情を知らないシェリーとエミルが声を上擦らせる。
「シェリー、エミル、どうだ、驚いたか? この男こそ、僕があの連中から引き抜いた治癒使いのウッドだ!」
「これが、バルドの言っていた作戦なのですね」
「……ライバルパーティーから引き抜き……いいね……」
「へへっ……。おいら、引き抜かれなくてもあんなクソパーティー、すぐ抜けるつもりだったけどねえ。まあ、そういうわけなのでよろしく~……うぇっぷ……」
「フン、よろしく……って、ウッド、酒臭いな。まさか朝から飲んでいるのか?」
「ん? 昨晩からだけども? ひっく……。まあいいじゃん。こんなのいつものことだし、大目に見てちょ~だい。イヒッ!」
「「「……」」」
その軽すぎる反応に対し、若干不安そうにお互いを見やるバルドたち。特にシェリーは露骨に不快そうな顔でバルドに耳打ちしてみせた。
「バルド。あなたの考え出した案というのが、ライバルパーティーから彼を引き抜くことだったのはわかりましたが、あの態度を見ていると凄く不安なのですが……」
「た、確かに、思ったよりむかつく男ではあるが……我慢しろ、シェリー。例のクエストをこなしてSS級に復帰したらすぐに追放すればいいだけだ。それに、無能のラウルなんかよりずっと使えるはずだしな」
「……そうですね。それまで我慢するしかありませんか……」
「ふいー。てか、ここまで歩いてきて喉乾いたから酒でも飲ませてくれね? あと、ちょっと飯も食いたいから適当になんか貰うよ」
「「「えっ……?」」」
返答も待たず、口笛を吹きながら勝手に台所を物色し始める治癒使いのウッド。新人のあまりの厚かましさにバルドたちはしばらく唖然としていた。
「……お、おい、ウッド、僕たちは顔見知りとはいえ、お前は新人なんだから少しは遠慮したらどうなんだ?」
「そうですよ。嫉妬した冒険者の罠にはまり、私たちは格が下がってしまったばかりとはいえ、元はSS級パーティーなのですよ……?」
「……そうよ、いくらなんでも無礼よ……」
「へ? いいじゃん。もう仲間になったんだからそんな堅苦しいこと言わなくても。てか、クエストしないなら昼寝してもいい? おいら、夜遊びしすぎてろくに寝てなくてさあ。ふわぁ――」
「――こいつ……! 誰が寝かせるものか! これからクエストだからとっとと行くぞ!」
「あ、ちょっと、タンマッ。おいらマジ眠いって~」
バルドに引き摺られて宿舎の外へ連れていかれるウッドを見て、シェリーが頭を抱える。
「ず、頭痛が……で、ですが、これでも能力的にはあの汚物使いのラウルよりは遥かにマシでしょうから少しは期待するしかありません。エミルもそう思いますよね?」
「……え、汚物……? 汚物は醜い……。醜いのはあたしの顔……。酷い。シェリーの意地悪……」
「……はあ……」
まもなく、外から『早く来い』というバルドの怒鳴り声が聞こえ、シェリーとエミルはその場をあとにするのだった。
「――ぐが~……!」
「「「……」」」
エレイド山へと向かう馬車内、爆睡するウッドのいびきがいつまでも響き渡り、バルドが肩をプルプルと震わせる。
「こ、この野郎……もう我慢ならん。叩き起こしてやる――!」
「――や、やめてください、バルド! もしここで乱暴に起こすとして、機嫌を損ねて帰られたらどうするのですか……!?」
「いや、別に拷問するわけでもないし、叩き起こす程度ならいいだろうが!」
「バルドはもう忘れたのですか? このウッドという男が『聖域の守護者』にいた頃のことを。素行が悪く、不機嫌になるとすぐ役目を放り出すことで有名だったじゃないですか!」
「……そ、それはそうだったな。しかし、これほどとは思わなかった。畜生……」
「ここまで来たんだから我慢しましょう。クエストが終わるまでの我慢ですから……」
「ぐが~! グヒヒッ。みんなブサイクだな~! もっとおいら好みの美人連れてこい~!」
「こ、こいつ、今度は意味不明な寝言まで吐きやがって……」
「さぞかし良い夢を見てらっしゃるんでしょう。もう放っておきましょうよ」
「う、うるさい……。ブサイクだなんて、あたしの顔のこと言うのやめて……ひっく……えぐっ……」
「まーたエミルの発作が始まった。クソが……。どいつもこいつも……!」
「はあ……。なんだかどっと疲れました……」
『神々の申し子』パーティーは、出発したばかりで早くも最悪の雰囲気に包まれていた。
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