35 / 78
第35話
しおりを挟む「「「「「なっ……!?」」」」」
舞い上がる粉塵の中、取り囲んでいたゴーレム群が倒れ、驚きを隠せない『暗黒の戦士』のダリアたちと受付嬢のイリス。
この上なく濁った視界がほんの少しずつ鮮明になっていくと、そこには大鎌を持った長身の影――死神のようなシルエットが浮かび上がっていた。
「そ、そこにいるのは死神か……? ってことは……も、もしかして、私たちはもう死んじまうっていうのか……!?」
「あ、あれは……ダリア姉さんの言う通り、魂を狩りにきた死神に見えるっす……。あの世って、あっしらには住みやすいものなんっすかねえ……?」
「……む、むうぅ。セイン、そんなこと言うなぁ……。自分、まだあの世なんて逝きたくないのに……」
「わ、わしもじゃ、リシャールよ。こう見えて、わしはまだピチピチの60代じゃというのに……」
「し、死神が参られたんですか? それなら、私たちは死んでしまうということですよね? ラ……ラウル様、ごめんなさい。もうお側で支えてあげられそうにないです。ぐすっ――」
「――こらこら。お前ら。妙な勘違いをするな」
「「「「「えっ……?」」」」」
周囲の視界が完全にクリアになったとき、そこにいたのはリシャールに負けず劣らずの大鎌を持った一人の男だった。
「俺が死神じゃないのは理解できたようだな? まあそう呼ばれてた時期もあるが。しっかし、情けないねえ。パーティーで残ってるのはお前たちだけなんだろう?」
「な、なんなんだよ、あんたは……!?」
「あ、あんた、何者なんすか?」
「……誰……?」
「お、お前さんは、どこのどいつじゃ!?」
「……あ、あ、あなたは……」
「お、ようやく俺のことを知ってる人がいたかと思ったら……なーんだ、イリス嬢じゃねーか。久々だな」
「大鎌使いのクレス様……お久しぶりです! というか、もう引退されたのでは……!?」
「そのつもりだったんだけどなぁ。町がこんな状態になってるって聞いたから、仕方なく様子を見に来たってわけよ」
「それは凄く助かります!」
「っていうか、ほかの連中が話についていけねえみたいだから、軽く説明してやってくれ。俺はそういうの苦手なのよ」
「「「「……」」」」
「あっ……」
呆然としているダリアたちに気付いたイリスは、我に返った様子で経緯を説明するものの、彼女たちは納得するどころか口をあんぐりと開けたままであった。
「――あれ? イリス嬢が折角説明してやったっていうのに、なんでこいつらはこうもぼんやりとしたままなんだ?」
「そ、そりゃそうですよ、クレス様。むしろもっと驚かれたかもしれません。だって、ラウル様のかつての相方《パートナー》だって知ったわけですから……」
「そうか……。ラウルのことを知ってるからなんだな。この分だと、またあいつが無自覚でとんでもねえことをやらかしてんだろ?」
「はい。化け物扱いされちゃってます……」
「そうだろうなあ。まあそういう俺もあいつの凄さを間近で嫌っていうほど見せられて、引退の遠因にもなったもんよ。俺はこう見えて、大の負けず嫌いなんでね……」
「……自分と、同じ……?」
「ん、お前もか。さすが、俺と同じ大鎌使いなだけあるね」
「……てか、あんたのこと、知らない……」
「おいおい、大先輩だぞ? ま、俺が暴れ回ってたのはかなり短い期間だったし、知られなくても当然か」
「そ、そんなことないですよ、クレス様っ。というか、リシャールさん。この方はですね、当時ラウル様とペアのパーティー『灰色の翼』でAランクまで昇格していたのですよ?」
「「「「ええぇっ……!?」」」」
ダリアたちが目を見開くのも当然の話で、ペアでA級というのはギルド史上、その一組しか存在しないほどに珍しいことだったのだ。
「あの頃は、俺もラウルに負けまいとして、それで一気に成長できたってのもあるけどな……って、またしても湧いてきやがったか……」
『『『『『ウゴオォォォッ……』』』』』
クレスが忌々し気に視線をやる先には、周囲を埋め尽くさんばかりのゴーレムの群れがあった。
「チキショー、また湧いてきたぜ! なあ、ラウルの相棒のクレスとやらに訊きたいんだけどよ、変異種ってこんなにも湧くもんなのか?」
「ん、お前たち。何か勘違いしてないか?」
「「「「「え……?」」」」」
「こいつらは、変異種は変異種でも、紛いもんだろうがよ……!」
『『『『『グゴォッ……』』』』』
クレスの大鎌が不規則に煌めいた直後、同時に倒れるゴーレムたち。
「ふう。おそらく、この町のどこかに本物の変異種ゴーレムがいるはず――」
「――フフフッ。よくわかったねぇ」
「「「「「はっ……!?」」」」」
そこに新たに出現したのは、ゴーレムではなく薄笑いを浮かべた一人の青年であった……。
292
あなたにおすすめの小説
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる