44 / 78
新しい街
22
しおりを挟む俺とライドはソファに座っているが、ネルはキースさんが出ていったあとも立ったままだ。キツくないんだろうか。
「あの……」
静かな空間の中でネルの声が響く。俺とライドがネルの方を見ると、何か考えているように見えた。
「不躾なお願いだとは分かっています。私をおふたりのチームに入れて貰えませんか」
「え?」
「やっぱり元奴隷の私では嫌ですか?それともこの幼い見た目ですか?見た目なら魔法で変えることが出来ます。体力も魔力も人よりもたくさんあるしおふたりの邪魔にはならないと思います。それにマジックボックスを持っているので荷物持ちも出来ます。なんなら最低限の生活さえ出来るならお金もほとんどいりません。だからお願いします。おふたりの」
「ストップストップ!!」
暴走しているネルの口を慌てて塞ぐ。あのままではまともに話が出来ないと思ったからだ。口を塞がれたネルは自分が暴走したことに気づき顔を赤くしながら俺から離れていった。
「すみません。熱がはいりすぎました」
「いやいいよ。ちょっとビックリしたけど。それよりさっきの事は…」
「本気です。私をおふたりのチームに入れてください」
「チームって言われても…」
「ダメですか?」
「そもそも俺たちチームなんてつくってないからな」
「え?」
チームってあれだろ?白銀の獅子みたいに名前を付けて数人で依頼を受けるってことだろ?俺たちは2人で依頼を受けることもあるけど、それぞれ個人で依頼を受けることもある。チームと言われるとなんか違う気がするんだけどな。
「でも、ネルさえ良ければ一緒に依頼を受けようよ。ね?ライドも良いだろ?」
「あぁ。ネルも強いしな。3人になるともっと楽に依頼を達成出来るかもしれないしな」
「いいんですか?私は元奴隷ですよ」
「関係ないよ。俺は気にしてないし」
「見た目がこんなに小さいんですよ」
「それはちょっと困るけど…魔法で変えれるんだったら変えて欲しいかな」
「ふふっ…わかりました。これからよろしくお願いします」
目に涙を浮かべながらネルが深々と頭を下げる。俺達もつられて頭を下げる。
そうしていると扉をノックする音が聞こえキースさんが入ってくる。纏めた報告書を俺たちに確認して欲しいとの事だった。
俺たちは報告書を読みながらネルと一緒に依頼を受けることを伝えた。
「それならチームを作るといいよ」
「チームってみんなで依頼を受けなきゃいけないんじゃないですか?」
「そんなことないよ。個々で依頼を受けても良いし、チームで受けてもいいんだ。今のソラ君たちと変わらないけどチームを作るメリットもあるよ。今勢いがあるソラくん達を勧誘したいチームが沢山あるんだ。それを断れる」
「そんなのあるんですか?」
俺たちを勧誘したいチームがあるなんて初耳なんだけど。最近ギルドにいくと色んな人に見られていると思っていたけど原因はこれか?
「なんてったってたった2ヶ月でギルドランクを上げているし、もうすぐDランクだ。皆自分のチームに入れたいけど互いに牽制し合ってるから動けないみたいなんだ」
「知らなかった…」
「ソラくん達もだけどネルさんもだ。ハイエルフだと分かればどのチームも欲しいとなるだろうね。中にはどんな手を使ってでも君たちを自分たちのチームに入れようと躍起になる輩もいるかもしれない。そんな君たちがチームを作るとなると誰も君たちを勧誘出来なくなる。
あとこれは絶対ではないけど、チーム同士お互いの場所が分かるような魔道具がある。チームにその魔道具を渡しているんだけど、もしハイエルフのネルさんが攫われても見つけることが出来るんだ」
そんな魔道具があるんだな。それは便利な気がする。互いの場所が分かると連携をとるのにも便利そうだ。
別にチームを作ることに抵抗はないし、作ることにするか。
「俺はチームを作ってもいいと思うけど、2人はどう?」
「俺もいいぞ。今までもチームのようなものだったしな」
「私はおふたりの意見に従います」
「じゃあチームを作ります」
「では書類を持ってくるのでまたこちらでお待ちください」
キースさんは俺たちが確認した書類を持って部屋から出ていく。チームになるってことはリーダーとかチームの名前を考えないといけないよな。どうしよ。リーダーはやっぱり1番年上のネルかな。でも絶対に嫌がるよな。それならライドに任せようかな。
ライドにリーダーを任せることを伝えたが
「俺の専門は冒険者じゃなくて鍛治職人なんだ。そんなめんどくさいのはお前らに任せる」
と言われてしまった。ネルに関しても
「私も辞退します」
と拒否されてしまったので、俺がすることになった。俺が1番年下なんだけどいいんだろうか。
「お待たせしました。この紙にチームの名前と所属する人の名前を書いてください」
キースさんに渡された紙に自分たちの名前を書いていく。チームの名前は考えてなかった。何にしよう。
「名前に悩んでるんですね。そうですね。ソラ君が冒険者になった理由は?」
「俺?俺はこの世界を見るためだよ。綺麗な世界を実際にこの目で見たくて」
「それなら【風光の空】なんてどうですか?風光とは自然の美しい眺めのことを表す言葉なんです」
「自分の名前が入るのはちょっと…」
「俺はいいと思うけどな」
「うーん。そのまま【風光】にします。俺の目標にも合ってるし。2人はこれでいい」
俺の問いかけに2人とも頷く。俺はチーム名を紙に書くとキースさんに渡す。
「はい。では3人ともギルド証を一時預かっても構いませんか?」
3人がギルド証をキースさんに渡すとキースさんはまた部屋から出ていった。数分後に戻ってくるとギルド証の裏にチームの名前が書いてある。
「ギルド証の表面には名前と現在のランク、裏にはチームの名前を刻むようになっています。これで3人はチームになった事の証明になります。無くさないでくださいね」
俺は新しく刻まれた文字を見る。冒険者になった時と同じようにワクワクする。2人を見ると目を輝かせているから俺と同じ気持ちなんだろう。むしろそうだったら嬉しい。
71
あなたにおすすめの小説
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
魔法学校の落ちこぼれ
梨香
ファンタジー
昔、偉大な魔法使いがいた。シラス王国の危機に突然現れて、強力な魔法で国を救った。アシュレイという青年は国王の懇願で十数年を首都で過ごしたが、忽然と姿を消した。数人の弟子が、残された魔法書を基にアシュレイ魔法学校を創立した。それから300年後、貧しい農村の少年フィンは、税金が払えず家を追い出されそうになる。フィンはアシュレイ魔法学校の入学試験の巡回が来るのを知る。「魔法学校に入学できたら、家族は家を追い出されない」魔法使いの素質のある子供を発掘しようと、マキシム王は魔法学校に入学した生徒の家族には免税特権を与えていたのだ。フィンは一か八かで受験する。ギリギリの成績で合格したフィンは「落ちこぼれ」と一部の貴族から馬鹿にされる。
しかし、何人か友人もできて、頑張って魔法学校で勉強に励む。
『落ちこぼれ』と馬鹿にされていたフィンの成長物語です。
司書ですが、何か?
みつまめ つぼみ
ファンタジー
16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。
ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる