転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ

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旅立ち

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「それにしても風と聖魔法しか登録してないお前が土魔法ねぇ」
「あっ…」

集中しすぎて登録以外の魔法を使ってた。どうやって誤魔化そうかと考えていたらカイトさんの大きな手が俺の頭に乗せられる。

「別に追求しねぇよ。何かしら理由があるんだろ」
「カイトさん…」

なんて優しいんだ!!俺の試験管がカイトさんで良かった。他の2人はまだ試験中だろうということで俺は修練場で2人が終わるのを待つことにした。
カイトさんはキースさんに今回のことを話すというので俺一人だ。一応土魔法の事は口止めをお願いしている。

「まだまだだなぁ」

神様に色んな能力を貰って、この1年ランクをあげるために色んな魔物と戦ってきた。今まで苦戦することなく、むしろ楽に勝ってこれたから俺は強くなったと勘違いしていた。

「多分全属性使ってもカイトさんには勝てないんだろうな」

今回のはカイトさん自身手加減してくれていたんだろう。字を書く時は右手でペンを持っていたのに、剣は左手1本で戦っていた。多分利き手とは逆の手だったんだろう。

「あー!!まだ頑張らないと」

自惚れていた自分が恥ずかしい。このまま旅に出て勘違いしていたままだと考えると恐ろしい。今回で気づけて良かった。

「疲れた…」
「なんですかあれは。意味が分かりません。どこの一般教養なんですか」

階段の方からライドとネルの言葉が聞こえる。どうやら2人とも試験は終わったようだ。階段を見るとライドは魂の抜けたような顔をしており、ネルは何か真剣に呟いている。ちょっとあのネルに関わるのはやめておきたい。

「でもまぁ……2人ともお疲れ様」
「ソラもおつかれ」
「お疲れ様です」
「えっと、試験はどうだった?」

笑顔になった2人だったが試験のことを聞くと先程と同じ態度になってしまった。あまり良くない結果だったんだろうか。

「まぁ俺の方はこの辺りの魔物ならどうにか答えれたんだが…聞いたことの無い魔物も出て来てな」
「私の方は一般教養というので人間のかと思ったらドワーフから魚人族、獣人族など他の種族の一般教養ばかりで。わかるわけないじゃないですか」
「お、おう…」

ネルがこんなにも感情を顕にするのは珍しいな。それほど面倒な試験だったんだろう。

「ソラの方はどうだったんだ?」
「俺?俺は───





って感じで負けたんだ」

先程の手合わせのことを2人に話す。俺が勝ったとはいえ自惚れていたことを話すのは少し恥ずかしい。

「へぇ、良かったじゃん。でも鑑定は使わなかったのか?」
「あ……忘れてた」
「はぁ?」

そうだよ。なんで俺鑑定使わなかったんだ。使っていれば違う立ち回り方があったかもしれないのに。

「でも、試験なんだから使わなくて良かったのかも」

まぁ使ったとしても勝てるとは限らないしね。あれが今の俺の全力なんだ。
数分後キースさんが俺たちを呼びに来て先程の部屋に戻る。

「試験の結果が出ました」

ゴクリ。結果はどっちだろう。2人の唾を飲む音も聞こえる。やっぱり緊張するよな。握りしめている手が汗で濡れているのがわかる。

「結果としては3人とも合格です」
「へ?」

呆気ない合格発表に間抜けな声を出してしまった。え?こういうのってドラムロールがあって、発表は長引かせるものじゃないの?こんなにあっさりしてていいの?
2人を見れば2人とも呆気に取られている。けれど徐々に合格したという事実を受け止めると立ち上がりガッツポーズをする。

「やったー!!合格だ」
「よしっ」
「よかったです」

まさか1度目の試験で合格できるとは思わなかった。一応合格出来るまでは何度も昇級試験を受けるつもりだったけど。

「おめでとう。落ちなくて本当に良かったよ。落ちたら最低半年は受けられないようになってるからね。でも喜ぶのはまだ早いよ。3人とも課題があります」

喜んでいたのも束の間、キースさんの言葉に固まってじう。課題ってなんだ…?

「3人ともギリギリ合格なんだ。今回は各々に足りないものを試験内容にしてたんだ。
ライド君は鍛冶中心になっているため他2人に比べ魔物に関する知識が少ないのでそういう試験を。ネルさんはエルフという外界と関わらない種族なので、他種族についての知識を。ソラ君は2人に比べ知識はありますが、身に余る能力で天狗になっている感じがあったので手合わせだったんだ」

うっ…キースさんの言葉が胸に刺さる。案外ちゃんと見てくれたるんだよなキースさんって。でも天狗になってたのは事実だし、2人も思い当たる節はあるようだ。

「それと課題なんだけど、今日から1週間ライド君は魔物の勉強、ネルさんは他種族についての勉強、ソラ君はカイトさんと手合わせです」

そんな…すぐに旅に出ようと思ってたのに…。チラッとキースさんの方を見る。笑顔を浮かべているが、これは有無を言わさないというような顔だ。これは頷くしかない。

「わかりました…」

まぁ1年と我慢したんだ。1週間ぐらいどうってことない。それよりカイトさんと手合わせができるなら強くなる可能性があるって事だ。そう考えると楽しみだ。ライドとネルは少し嫌そうだ。2人とも苦手分野だもんな。頑張れ。

「ではお昼過ぎから始めるよ。13の鐘がなる頃にまたここに来るように」
「はい。ありがとうございます」

俺たちは昼食を食べるために1度ギルドから出ることにした。俺の見た目のせいかギルド内でイチャモンを付けられることがあるから、長居するのは苦手なんだ。

「及第点、及第点かぁ」
「受かっただけマシだよ。あと1週間頑張ろう」
「そうですね。旅に出ることを考えると必要なことなんでしょう」

たかが1週間、されど1週間だな。
当たり前のように旅に出ること前提で話しているけど2人とも着いてきてくれるんだろうか。前も聞いたとは思うけど心変わりはしてないんだろうか。

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