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旅立ち
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しおりを挟む次の日、俺たちは朝一で冒険者ギルドに来ていた。試験のことが気になりすぎて3人とも早起きだったのだ。
「あー緊張しすぎて吐きそうだ」
「私も…こんなに緊張するのは久々です」
「ほら2人とも。シャキッとして」
キースさんに連れられ応接間に案内されたので、今はソファに座って休んでいる。1年前は立っていたネルだったが、今は俺の目の前に座っている。
2人はとても緊張してるみたいだけど俺はそうでもなかった。地球にいた頃の高校や大学の試験の方がプレッシャーが凄かったからな。有名校に行く兄とせめて同じところに行こうと頑張ってたもんな。あの頃は死に物狂いで勉強してたな…
「ソラって時々遠い目するよな」
「はい。歳をとった方のような目をしています」
「な、何を言ってるんだよ」
危ない危ない。気をつけないと。こっちでは13歳だけど、中身はアラフォーなんだよな。
「お待たせ。皆さんの試験内容が決まったよ。ライド君は魔物に関する試験、ネルさんは一般教養に関する試験です」
それぞれ違う試験なんだな。みんな同じものを受けると思っていた。2人ともそう思っていたようで互いに顔を合わせている。今聞いた感じでは2人とも筆記試験なのかな。魔物に関する試験なんてライドの試験は大変そうだ。もしかしてオレも筆記試験なのかな。
「ソラ君は実技試験です。このあと地下の修練場に行ってください。10分後に試験を始めます。おふたりはここに残ってくださいね。なにか質問はありますか?」
3人とも首を横に振る。質問がないことを確認したキースさんは部屋を出ていった。
「まさか3人とも違う内容だとは…」
「俺なんて魔物に関する試験だぞ!!絶対に落ちる気がする。ネルはいいよな。一般教養で」
「でもエルフの里と人間の街では少し違いますから…少し不安です。ソラさんこそ実技試験なら簡単なんじゃないですか?」
「いや、そんなに簡単ならみんなBランクに上がれてるよ」
「そうだよなぁー」
3人同時にため息がでてしまう。まぁ筆記試験じゃないだけマシなのかもしれない。俺は2人に別れを告げ地下の修練場に行った。
「お邪魔します」
ギルドの地下に修練場があることは知っていたが初めて来た。地下の全てを修練場にしているのか結構広い。
「よぉ来たか」
「本日はお願いします」
後ろから声をかけられ振り向くと、ライオンの顔をした獣人が立っていた。ここまで獣寄りの獣人は初めて見た。
ライドみたいに獣人でも普段は人間と変わらないタイプもいれば、目の前にいる人みたいに見た目から獣人とわかる人もいる。
この街ではライドみたいな人間寄りの獣人が多く、たまに耳やしっぽが生えた獣人を見るくらいだ。
「おぅ。試験官のカイトだ。よろしくな」
カイトと名乗った獣人をマジマジとみる。身長はライドよりも大きく200cmはありそうだ。立派なたてがみに鋭い牙、それに鋭い目。さすが百獣の王だな。
「なんだ。そんなに獣人が珍しいか?」
「すみません。俺のチームにも獣人はいますが、普段は人寄りなので。カイトさんみたいな方は初めて見たのでつい…」
やはりジロジロみるのは不躾だったのだろうか。俺は慌てて謝る。
「ガッハッハッ。気にしねぇよ。さて、試験内容についてはキースからきいてるか?」
「いえ…実技試験としか」
「そうか。なら俺との手合わせが今回の試験だ」
「手合わせですか?」
「あぁ。時間は10分。相手を殺さなければ何をしてもOKだ」
「分かりました。お願いします」
手合わせか…この1年手合わせ出来てないんだよな。戦いの相手は専ら魔物だったし。目の前の相手に対してどこまで出来るんだろうか。
俺はカイトさんの目の前に立ち、1度礼をする。確か柔道になかったっけ?礼に始まり礼に終わるって言葉。
「へぇなるほどな」
礼をする俺を面白そうにみるカイトさん。こっちにはないんだろうか。でもそのまま始めるのも違う感じがするんだよな。
「先手は譲ってやるよ。どこからでもかかってこい」
「では行きます。“風よ”」
俺は剣を鞘から抜き構える。まず風魔法で風刃をだし相手へと投げつける。最近は魔法と剣を合わせて戦うようにしている。
風刃を避けられたら避けた先で切りかかるが、攻撃がそのまま当たればラッキーだ。俺は風刃をだした直後に走り出しカイトさんがどちらに避けてもいいよう目を配る。
「なまっちょろいな」
「っーー!!」
カイトさんが手を横に払うと風刃は消えてしまった。初めてのことに戸惑い一瞬動きが止まってしまった。
その隙を逃さないかのようにカイトさんが斬りかかってくる。
「“風よ”…危なかった」
風を自分に当て体を後ろに吹き飛ばす。多少のダメージは受けるが致し方ない。
風魔法をメインに使ってきたため、少しは自信があった。なのに手を払うだけで風刃が消されるなんて…。この人は確実に強い。それも俺よりも何倍もだ。
「面白い魔法の使い方をするな。やっぱりおもしれぇ」
たった一撃の攻撃なのに身体の震えが止まらない。本能でこの人には勝てないと思ってしまった。
「なんだこないのか。ならこっちから行くぞ」
そう言うとカイトさんは1歩で俺の目の前まで来た。身体強化や速度強化でもこんなことは不可能だ。
「うだうだ考えてると負けるぞ」
「おっも…!」
またカイトさんが斬りかかってくる。今度は避けないで剣で受け止める。それはいままで受けたどの魔物の攻撃よりも重く体勢を崩してしまう。
「ほらほら、早く攻撃しないとこのままじゃ受け身の一方だぞ」
カイトさんが次々と攻撃してくるが、俺はそれを受け流すだけで精一杯だった。けれどこのままではジリ貧だ。なんとかしないと。
「これならっ…どうだ!!」
身体強化、速度強化を使いカイトさんの周りを全速力で走る。これなら俺を捉えることは難しいはずだ。走りながら風刃をだすがカイトさんはどこから攻撃が来るのか分かってるかのように全て消していく。
けれど計算通りだ。俺の方ばかりを見ていたせいか足元にまで気を配っていなかった。風刃をだしながらも土魔法でカイトさんの足元の土を盛り、何時でも捕まえられるようにしていたのだ。
「今だ!!“土よ!!”」
俺の合図とともに土魔法でカイトさんの膝下まで土を盛る。いきなりのことでカイトさんの動きが一瞬止まったが今の速度の俺なら一瞬で十分だ。
直ぐにカイトさんに近づき喉元に剣をあてる。
「OKOK。10分経ってないが試験は終了だ」
「ありがとうございました」
剣を鞘に戻しカイトさんに礼をする。たった数分の手合わせだったが汗がすごい。魔物と戦うよりも緊張感が凄かった。
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