転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ

文字の大きさ
72 / 78
旅立ち

21

しおりを挟む


数時間ほど寝ると少しだが体の疲れが取れた気がした。ベットから降りるとゆっくりと体を伸ばす。
ライドは今日は待機組らしく、部屋には俺一人だ。最初は勤務日が一緒だったが、最近ではまったく合わない。少し寂しい。

「まだ昼すぎだし行くかな」

アイテムボックスからサンドイッチを取り出し、食べながら宿舎をでる。以前リークさんに書いてもらった地図を頼りにナナバ亭を探す。

「地図だとこの辺りっぽいんだよなぁ」

大通りから1本外れた道に入る。前回ネルといた時には探さなかった場所だ。そのまま探すこと数分、ようやくナナバ亭をみつけたのだが…

「本当にここか…?」

目の前に見える店は入口がオープンになっており、たくさんの本が見えている。どうみても本屋だ。

何度確かめても看板にはナナバ亭と書かれている。ゆっくりと中に入る。別になんの仕掛けもないただの本屋だ。
前世で見たような中古の本屋みたいな古めかしさがある。

カウンターには若い男が座っている。話しかけるか迷ったが、声をかけることにした。

「すみません」
「どうした坊主。何を探してるんだ?」
「えっと…【アイスを1つ。たっぷりのハチミツをかけて】」
「了解。ちょっと待ってな」


お婆さんに聞いた言葉をそのまま伝えると、男の人は奥に言ってしまった。待ってるように言われた俺は本を読みながら男の人が来るのを待つ。

「アンタが合言葉を…ってソラじゃねえか」

奥から出てきたのは赤い髪に緑目の目の20歳ぐらいの男の人だ。どこかで見たことある気がするんだよな。どこだっけ。確か……

「え?あ、確か…クアールの街の入口で出会ったお兄さん」
「セトだよ。名乗っただろう」
「そうだそうだ。セトだ。久しぶり!!」
「おう久しぶりだな」

旅に出た日クアールの門前であったセトだ。確か商人で情報を売っていると言っていた。ということはここは情報屋のお店なんだな。

「それよりこんなとこに何しに来た…って、情報を買いに来たんだよな。確か今は公爵様のところで護衛をやってるんだよな」
「うん。なんで知ってるの?」
「情報屋を舐めない方がいいぞ。お前が仲間とこの街に来たことも、2週間前にエルフの姉ちゃんとデートした事までわかってるんだからな」

え、何それ。俺のプライベート筒抜けじゃん。恐すぎるんだけど。

「まぁ、話が早くて助かるけど。今回の俺が知りたいことは」
「おっと、ソラが欲しがってる情報は確かに持っている。が、情報を貰うには金が発生する。お前に払えるか?」
「……いくら?」

1年間依頼を受けて来たんだ。ほとんど使うこともなかったし結構貯まっているはず。そんなに高くなければ払えるだろう。

「そうだな……金貨20枚でどうだ?」

金貨20枚…それなら払えなくもない。俺は鞄の中から金貨を取り出すとセトに渡す。セトは金貨を受け取るとそのままカウンターにいた男に手渡した。

「あれ?確認しないの?」
「ソラを信用しているからな。ついてこい」

そう言い奥へと歩き出すセト。俺はカウンターの男の人に頭を下げ、セトを追いかけた。

カウンターの奥は普通の民家みたいになっていた。セトについて行くと赤い絨毯のひかれた応接間についた。なんか入口の古本屋と雰囲気が合ってなさすぎる。

「さて、ソラが欲しい情報は公爵家を襲う奴らのバックだろ?」

セトの言葉に頷く。本当に全部筒抜けなんだな。今日俺が履いてる下着の色まで知られてそうだ。

「公爵家を襲っているのは知っての通り、公爵に追い出された元貴族達だ」

そういえばクリスさんが言ってたな。賄賂や密売、横領をしていてアレク様に権力を奪われたって。まぁ自業自得だと思うけどな。

「で、そいつらが助けを求めたのが帝国ってわけ」
「帝国?」

この辺りで帝国っていったら1つしかないはずだ。このイダイの街の海を挟んだ向こう側の大陸にある大きな都市だ。でもなんで帝国がイダイの街を狙ってるんだ?

「そうだ。そして直接手を貸してるのはノーヴァン公爵だ。帝国の現国王の弟だ」
「なんでそんな人が!?」
「そこまでは分からねぇ。けど気をつけな。護衛隊の中にスパイがいるぞ」
「そんなわけ」
「ないと言いきれるのか?」

俺の知っている護衛隊の人達は、見た目が幼い俺の事もバカにせず対等に接してくれるいい人たちだ。そのうちの誰かがスパイだなんて考えたくはないけど。

「わからない。でも悪い人には見えない」
「ソラはお子ちゃまだな。悪いやつが悪人です!って顔してるわけないだろう」
「そりゃそうだけど…」
「まぁこっちでも探りを入れてみるさ。何か分かったら連絡してやるよ。それとここで知った情報は誰にも言うなよ。いいな?」
「アレク様は?」
「公爵か?公爵は……他言無用なら言ってもいい。ただしこの場所のことは誰にも言うな」
「分かった」

セトの言葉に頷く。そりゃあ隠れてやってる情報屋のことを教えて隠れなくなったら意味が無いもんな。

帰ろうとしたらセトに1冊本を渡された。表向きは古本屋なので本を買ったとこにするらしい。徹底してるなと思いながら俺は古本屋を後にした。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

魔法学校の落ちこぼれ

梨香
ファンタジー
昔、偉大な魔法使いがいた。シラス王国の危機に突然現れて、強力な魔法で国を救った。アシュレイという青年は国王の懇願で十数年を首都で過ごしたが、忽然と姿を消した。数人の弟子が、残された魔法書を基にアシュレイ魔法学校を創立した。それから300年後、貧しい農村の少年フィンは、税金が払えず家を追い出されそうになる。フィンはアシュレイ魔法学校の入学試験の巡回が来るのを知る。「魔法学校に入学できたら、家族は家を追い出されない」魔法使いの素質のある子供を発掘しようと、マキシム王は魔法学校に入学した生徒の家族には免税特権を与えていたのだ。フィンは一か八かで受験する。ギリギリの成績で合格したフィンは「落ちこぼれ」と一部の貴族から馬鹿にされる。  しかし、何人か友人もできて、頑張って魔法学校で勉強に励む。 『落ちこぼれ』と馬鹿にされていたフィンの成長物語です。  

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

処理中です...