転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ

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旅立ち

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最後の箱がテーブルの上に積まれる。もう向こう側にいるはずのアレク様が見えないんだけど。これ全部で何個あるんだよ。

「遠慮は要らない。全て君たちにあげるものだ」
「ありがとうございます」

目の前にある箱を見てため息が漏れる。さすが公爵様だな。これでどのくらいするんだろ…。
しかしこのままだとさすがに会話し難い。ネルの方を見ると分かってくれたようでアイテムボックスに次々と収納してくれる。

これを後で全部開封しないといけないんだよな。結構な重労働だ。まだ前回貰ったやつ開けてすらいないんだけど。

「今回はソラたちのおかげで助かった。これで命を助けてもらったのは2度目だな。しかしなんでスパイがいることがわかったんだ」
「えーっと…なんとなくと言いますか…キメラが現れた時も暗殺者が来る時もこっちの情報が筒抜けなのが気になりまして…」


セトの事は秘密にしておいた方がいいよな。言う時には本人に確認しないと。それにセトは黙って欲しいって言ってたんだから。

俺の説明に納得はしていなさそうだけど、これ以上何も話さないことが分かったのかアレク様はこれ以上聞いてこなかった。

「これからソラ達はどうするんだ」
「黒幕は捕まりませんでしたけど、約束の1ヶ月経ったので街を散策したらまた旅に出ようと思います」
「そうか。引き止めても無駄か」
「はい。俺たちの夢は世界を見て回ることなので」
「わかった。引き止めんよ。黒幕のことや、スパイのことまで何もかもありがとう」
「ちょ、や、やめてください」

アレク様はそういうと椅子に座ったまま頭を下げた。身分の高い人物が低い人物に頭を下げるなんて、この世界ではありえない事だ。俺たちは慌てて頭をあげるよう伝える。

「今回私が死ねば、家族だげではなく領地内にいるもの全てが戦いに巻き込まれていただろう。それを防いでくれたんだ。頭を下げるのも当たり前だろう」

アレク様の言いたいことは分かる。けどそばにいるロイさんとクリスさんの目が怖いからはやくやめてほしい。

「アレク様。そろそろ公務の時間ですよ」
「あぁ、そうか。悪いな3人とも。本当はもっと話したかったんだがそうもいかないようだ」
「い、いえ。大丈夫です」
「まだこの街に滞在するんだろう?宿舎は好きに使っていいからな」

ロイさんの言葉にアレク様は顔をあげる。クリスさんたちの顔も元に戻ったみたいで良かった。

アレク様は言いたいことだけ言うとすぐに部屋から出ていってしまった。やっぱり忙しい人なんだな。部屋には俺たちとクリスさんが残っている。さて、このまま部屋に戻っていいものなんだろうか。

「3人はこれからどうするっすか?」
「まだ時間も早いし、街を見て部屋に戻る予定です」
「ならとっておきの場所、案内するっす」

そう言って部屋を出ていくクリスさん。俺達もクリスさんについて行く。

「それにしてもリークがスパイなんて思わなかったっすね。俺よりも後に入ってきたんすけど、周りと仲良かったし」
「俺としてはクリスさんが怪しいと思ってたんだけどな」
「な、ライド!?」

ライドの言葉に慌ててクリスさんを見る。しかしクリスさんは嫌な顔しておらず、むしろ笑っている。

「そういう風にしてたんすよ。俺は公爵様の直属の部下なんっす。こんなこと誰にも話せないでしょ?だから何聞かれても答えなかったす。それに護衛隊が休みの日は公爵様の命令を遂行してたから常にいなかったっす」
「でもそれじゃばれるんじゃ…」
「もちろん周りにはバレないように普段は仮面をつけてるっすよ。

俺が護衛隊に入った時も色々と面倒事があって、それを内部から収めるために公爵様の命令で護衛隊に入ったっす。ようやく落ち着いて護衛隊を辞めようと思ったら今回の事件。なかなか辞めれずにここまで来たっす」

そんなことがあったのか。クリスさんは自分のことを一切話さない謎の人だと思ってたけど、こんなことがあったらそりゃあ話せないよな。

「もう少しっすよ」

クリスさんと話しながら今歩いているのは屋敷の中にある螺旋階段だ。どこかの塔に入っていき今はひたすら登っている。なかなかに重労働だ。

「着いたっすよ」

扉を開けると外から勢いよく風が入ってくる。汗をかいた体が冷やされて気持ち良い。クリスさんについて行き扉の外に出ると、足場があった。

「うわぁ…。すごい……」
「これは圧巻だな」
「はい。綺麗です」
「でしょ。俺のお気に入りの場所っす」

目の前にはイダイの街と遠くに海が見える。公爵家を中心に大きな一本道があり、その両端に店や家がある。家も乱雑にではなく等間隔に綺麗に建てられて美しい景観だ。

しかもその街並みの奥に見える海は陽の光を浴びてキラキラと輝いている。ここまで潮の匂いがしそうだ。

「ソラ君たちはあっちの山に登る予定だったんすよね?あっちもいいけど、ここはこの屋敷で働いてる人でもごく一部の人しか入れない特別な場所っす。だから知ってる人も少ないんすよ」
「クリスさん!とてもいい場所ですね」
「でしょ」

俺の言葉に嬉しそうに笑うクリスさん。初めてクリスさんの好きなものを聞いた気がする。ちょっとは近づけたのかな。

「俺はもう降りるっすけど、3人はどうします?」
「もう少しここに居ても良いですか?」


もう少しだけこの景色を眺めていたい。

「いいっすよ。気がすんだら降りてきてくれっす。鍵とかは気にしないでくれっす」
「ありがとうございます」

そういうとクリスさんは階段を降りていった。俺たちは壁を背もたれにしてそのまま座る。

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