妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

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障害編

2話【after work】戸野倉 凛太郎 18歳:創作和食(戸叶編)

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 藍原先生、彼氏じゃないとかいいながら、堂々と病院の中で待ち合わせしてるじゃないの。信じらんない、やっぱり見せびらかしたいんじゃないの? それにしても……。凛太郎くんて、間近で見ると、めちゃくちゃ綺麗な顔してる。スタイルもモデルみたいだし……ああ、絵描きのモデルやってるっていってたっけ。そんなんじゃもったいない。雑誌のモデルとかに出てても全然おかしくないレベル。……藍原先生、こんな可愛い子と付き合ってるなんて。東海林のいってたとおり、しゃべっててもすごく礼儀正しいし、穏やかだし、性格まで文句なしじゃん。……なんか、ムカつく。

「梨沙ちゃん、病棟から着信あった?」

 藍原先生がスマホを取り出す。あれ、病棟から電話?

「すみません、あたし携帯の充電切れちゃってて!」
「ああ、大丈夫よ、ちょっと電話してくるわね」

 藍原先生が出ていって、凛太郎くんと二人きりになった。

「……凛太郎くんは、何歳なの?」
「18です」

 マジで。藍原先生はアラサーなはずだから、10歳以上違う。しかも未成年。もう犯罪じゃん。

「藍原先生とは、どれくらいの付き合いなの?」
「そうですねえ……もう4か月くらいでしょうか……」
「藍原先生の、どんなところが好きなの?」

 凛太郎くんは、目を細めてにっこりと笑った。

「そうですねえ……女性的な魅力の、見事な両立……でしょうか……」

 いまいち意味がわからない。

「つまり、見た目と中身のバランスってこと?」

 凛太郎くんはちょっと首を傾げた。

「それもありますが……そうではなくて……」
「どういうこと?」
「清らかな内面と、性的な魅力の、バランスということです」
「え……」

 ちょっと、綺麗な顔して、何をさらっと……。

「……藍原先生が、エロいってこと?」

 凛太郎くんはふふっと笑った。

「そういう表現だと、誤解を生むかもしれませんね。清純な内面の魅力。性的な魅力と感じやすい体。その両者が共存しているという奇跡……といったところでしょうか」
「……」

 何それ。ノロケのつもり? カッコつけていってるけどさ、つまり、性格がよくて、しかもエロいってことでしょ? ……先生、感じやすいんだ? 清純なエロ女なんているわけない。やっぱり凛太郎くんも、騙されてるんだ、あのぶりっ子に。清純なふりして近づいて、体で凛太郎くんをモノにしたに違いない。……体なら、あたしだって負けてない。胸は小さいけど、男を悦ばせるテクニックならある。

「……ちょっと、失礼しますね」

 凛太郎くんがトイレへ向かった。入れ替わりで藍原先生が戻ってくる。

「あれ、凛太郎くんは?」
「トイレに行きましたよ。……先生。凛太郎くんて、可愛いですね」
「そうね、素直だし真面目だし。女子にモテそうだけど、年齢のわりに地に足ついてるというか」

 何それ、私の彼氏はモテるんですよ~、っていいたいの?

「先生。本当に彼氏じゃないんですか?」
「違うわよ」

 先生が否定したって、凛太郎くんは、彼氏だって認めてるんだから。

「じゃあ……あたし、凛太郎くんのこと、好きになっちゃってもいいですか?」
「え。えーと、それは……あたしは構わないけど……何ていうか……お勧めはしないというか……」

 ほら、途端に歯切れ悪くなっちゃって。やっぱりあたしに盗られたくないんじゃない。素直に彼氏だって認めればまだ可愛げあるのに。

「どうしてお勧めしないんですか? 先生も好きだから?」
「え? いえ、そうじゃなくて……別にあたしは、凛太郎くんを男性として好きなわけじゃないけど……」
「じゃあ、いいですよね」
「えーと……そ、そうねえ……でも凛太郎くん、もう好きな人がいるみたいよ?」

 ふん、凛太郎くんは私のことを好きなのよ、っていいたいわけ? 自分の彼氏じゃないなら何も止める理由なんてないはずなのに、あたしに本気でちょっかい出されたらイヤなの、見え見え。

「……ちょっと、あたしもトイレ」

 ブツブツいってる先生を置いて、席を立つ。このお店のトイレは、奥まったところにあって、人目に付きにくい。そろそろ凛太郎くんが出てくるはずだ。
 女子トイレの前で張ってると、凛太郎くんが歩いてきた。すれ違いざまに、よろけて凛太郎くんに寄り掛かる。

「あっ……ごめん凛太郎くん、ちょっとお酒飲みすぎちゃったみたいで、頭がくらくらして」

 凛太郎くんは優しい手つきであたしを支えてくれた。

「大丈夫ですか? 立てます?」
「ん……ちょっと、待って……」

 背の高い凛太郎くんの胸に縋りついて、さりげなく体を密着させる。左足を彼の足の間に割り込ませて、そっと膝を上げる。太ももが、凛太郎くんの股間に当たった。そこで足をゆっくり動かして、ズボン越しに股間を擦る。これで、意識しない男がいるわけない。酔ったふうな目で凛太郎くんを見上げて、わざと呼吸を乱す。

「はあ……ごめんね、もうちょっとで……歩けそう……」

 胸に当てた手を撫でるように動かして、凛太郎くんの肩を掴む。凛太郎くんは、困ったような笑顔であたしの腰を支えた。

「席まで、お連れしましょうか?」
「もうちょっと、このままがいいな……凛太郎くんの体、あったかくてキモチいいから……」

 太ももで股間をまさぐりながら、さりげなく凛太郎くんの首に手を回す。エロい女が好きなら、これで絶対勃起して、あたしとヤリたくなるはず。

「このまま……ですか……?」

 凛太郎くんは、あたしを引き離すでもなく抱き寄せるでもなく、困ったような笑顔のまま固まってる。……もう一押し、必要かな。

「凛太郎くん……」

 首に回した手の一方を凛太郎くんの股間に伸ばし、背伸びをして綺麗な薄い唇にキスをした。唇同士が触れ合った瞬間――

「梨沙さん……っ! それは、ちょっと」

 凛太郎くんがぱっと顔を離し、同時に腰を支えていた右手がさっとあたしの手首を掴んだ。あたしの手は、凛太郎くんの股間に触れるか触れないかのところで捕らえられてしまった。

「……すみません、僕は、そういうつもりはないので……」

 あくまでも穏やかな笑顔だ。……信じらんない。どうして引っかからないの。

「……藍原先生を、裏切れないから?」

 凛太郎くんがきょとんとした。

「藍原先生ですか? ……それは、関係ないですが」
「凛太郎くん、藍原先生の彼氏なんでしょ? だからダメなんじゃないの?」

 凛太郎くんは目を真ん丸にした。

「彼氏、ですか? 僕が? 違いますよ、誰がそんなことを……」
「え?」

 違うの? 誰がって、だって、だって……! いわれてみれば、誰もそんなこといってはいなかったかもしれないけど……! でも、だって!

「朝も一緒の電車に乗って寄り添ってたし、今日も病院で待ち合わせして、しかも凛太郎くん、藍原先生のエロいとこが好きだっていったじゃない!」
「ああ、それは……別に、付き合っているからではないですよ。藍原先生の性的な魅力は、恋人じゃなくてもわかります。……ひょっとしたら僕が、そういうのに敏感だからかもしれないですね。僕がお世話になっている画家の先生がね、ぜひとも藍原先生をモデルに描きたいとおっしゃっていて。エロスをテーマにしている方なので……」

 ……何それ。何それ、何それ! まったく理解できない、そんなの本気にしろっての!?

「でも、じゃあ! 藍原先生の恋人じゃないんなら、なおさらどうしてダメなの」
「あれ、藍原先生から聞いていませんか? ……僕、ゲイなんです」
「ゲ――!?」

 思わず飛びずさる。嘘でしょ……嘘でしょ、そんなのあり!? あたし、ゲイに向かって色仕掛けしてたってこと!? ふざけないでよっ、何よこの状況!? 怒りと恥ずかしさのあまり、体が震えてくる!

「……ということは、梨沙さん……」

 凛太郎くんが冷静な笑顔でいう。

「僕のこと、香織さんの恋人だと勘違いしていたんですか? それなのに、僕にキスしようとしたんですか?」
「……!」

 ……こいつ、のほほんとしてるふりして、イヤな感じ!

「大丈夫ですよ、香織さんにはいいませんから」

 凛太郎くんはそう微笑んで席に戻っていった。

「……っ」

 ムカつく! 何もかもムカつく! 何よ、この、小馬鹿にされた感じ! すっごい気分悪い!

「あたし! お先に失礼しますっ!」

 席に戻るなり、荷物を掴んで店を出た。もう一秒たりとも、あのふたりと一緒にいたくない。こんな屈辱、初めて! 絶対許さない。覚えてろよ、藍原!!
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