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Ⅲ 誓約
10. 月明かりの下で
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「……めずらしいな。こんな所にいるとは」
夜更けに<最果ての間>を訪れた魔王は、レイの気配を辿り、いつもの寝室を抜け、内庭の東屋へと導かれた。
瀟洒なテーブルの上には、果実酒の瓶とグラスが置かれ、レイは一人で酒をたしなんでいた。傍に控えたシルファが、空になったグラスに果実酒を注いでいる。
<最果ての間>からは見えないが、外では三つの月が揃って空にかかり、辺りを明るく照らしていた。その月明かりは、内庭の天井を構成する半透明の板を通して、この内庭にも届いていた。
椅子から立ち上がり、魔王の傍へと歩み寄ってきたレイが、薄暗がりの中で神秘的な輝きを帯び、ぼんやりと浮かび上がる。
物憂げに伏せられたレイの睫毛に、青白い月明かりが宿り、頬に長い影を落としている。
なまめかしいその風情に、魔王の胸がざわざわと騒ぎ出す。
ごくりと唾を飲み込むと、魔王は逸る心を抑え付けて、ゆっくりとレイに近づき、肩を抱こうとした。しかしレイはスッと身を引くと、魔王をちらりと一瞥し、再び東屋へと引き返した。そして果実酒の瓶を持ち上げ、「飲まないか?」と誘う。
「ああ……そうだな。たまにはこういうのも、悪くないか……」
シルファから予備のグラスを受け取ると、魔王は人形に「あとは私がする。下がってよいぞ」と声をかける。
シルファは一礼すると、静かに室内へと戻って行った。
魔王のグラスに酒を注ぎながら、レイは口を開いた。
「魔王、頼んでたやつ、持って来てくれたか?」
「ああ……ここにある」
魔王は胸元のポケットから、手のひらにスッポリとおさまるほどの小瓶を取り出した。
「ありがとう」
レイはそれを受け取ると、即座に小瓶の蓋を引き抜いた。そして酒の満たされた手元のグラスに小瓶の口を傾け、とろりとした液体をニ、三滴、落としこむ。
それを見て、魔王が眉をしかめた。
「あまり酒の中に混ぜるのは感心せぬな……」
渋い顔をしている魔王を横目に、レイはグラスの中身をゆっくり飲み干した。
それは魔界産の魔力回復薬で、レイは知らなかったが最高級の代物だった。魔王はセラシャル葉を差し入れて以来、レイが「何でもいいから魔力回復薬を」と頼むと、必ずこの薬を持ってくる。
「でも、水に混ぜると、もっのすごく苦いんだ、コレ……。なんで魔力回復薬って、どれもこれも苦いんだぁ?」
レイの愚痴を聞きながら果実酒を口に含んだ魔王が、「うっ!」と呻き、危うく酒を吹き出しそうになった。
「なんだ、これは? 本当に酒なのか? まるで砂糖菓子のごとき甘さだが……」
魔王は顔をしかめながら瓶のラベルを確かめる。
レイは潤んだ瞳を魔王に向けると、蠱惑的な微笑を浮かべた。
それを見た魔王の胸に、ズキリと見えない矢が刺さる。
レイは物憂げな視線を魔王に注いだまま、口を開いた。
「魔王の口には合わないか……。一番甘いのをと言ったら、シルファが出してくれたんだ。俺は気に入ったけどなぁ……何か……他のを頼むか……? シルファを……呼んでくる」
大儀そうに立ち上がったレイが、ふらりと揺れた。
倒れそうになったその体を慌てて受け止めると、魔王はレイを抱き上げた。
「んっ……何だよ、もう飲まないのか……?」
「酒など必要ない。私はもう……おまえに酔っている」
魔王は呪文を唱えると、速攻で寝台に移動した。
夜更けに<最果ての間>を訪れた魔王は、レイの気配を辿り、いつもの寝室を抜け、内庭の東屋へと導かれた。
瀟洒なテーブルの上には、果実酒の瓶とグラスが置かれ、レイは一人で酒をたしなんでいた。傍に控えたシルファが、空になったグラスに果実酒を注いでいる。
<最果ての間>からは見えないが、外では三つの月が揃って空にかかり、辺りを明るく照らしていた。その月明かりは、内庭の天井を構成する半透明の板を通して、この内庭にも届いていた。
椅子から立ち上がり、魔王の傍へと歩み寄ってきたレイが、薄暗がりの中で神秘的な輝きを帯び、ぼんやりと浮かび上がる。
物憂げに伏せられたレイの睫毛に、青白い月明かりが宿り、頬に長い影を落としている。
なまめかしいその風情に、魔王の胸がざわざわと騒ぎ出す。
ごくりと唾を飲み込むと、魔王は逸る心を抑え付けて、ゆっくりとレイに近づき、肩を抱こうとした。しかしレイはスッと身を引くと、魔王をちらりと一瞥し、再び東屋へと引き返した。そして果実酒の瓶を持ち上げ、「飲まないか?」と誘う。
「ああ……そうだな。たまにはこういうのも、悪くないか……」
シルファから予備のグラスを受け取ると、魔王は人形に「あとは私がする。下がってよいぞ」と声をかける。
シルファは一礼すると、静かに室内へと戻って行った。
魔王のグラスに酒を注ぎながら、レイは口を開いた。
「魔王、頼んでたやつ、持って来てくれたか?」
「ああ……ここにある」
魔王は胸元のポケットから、手のひらにスッポリとおさまるほどの小瓶を取り出した。
「ありがとう」
レイはそれを受け取ると、即座に小瓶の蓋を引き抜いた。そして酒の満たされた手元のグラスに小瓶の口を傾け、とろりとした液体をニ、三滴、落としこむ。
それを見て、魔王が眉をしかめた。
「あまり酒の中に混ぜるのは感心せぬな……」
渋い顔をしている魔王を横目に、レイはグラスの中身をゆっくり飲み干した。
それは魔界産の魔力回復薬で、レイは知らなかったが最高級の代物だった。魔王はセラシャル葉を差し入れて以来、レイが「何でもいいから魔力回復薬を」と頼むと、必ずこの薬を持ってくる。
「でも、水に混ぜると、もっのすごく苦いんだ、コレ……。なんで魔力回復薬って、どれもこれも苦いんだぁ?」
レイの愚痴を聞きながら果実酒を口に含んだ魔王が、「うっ!」と呻き、危うく酒を吹き出しそうになった。
「なんだ、これは? 本当に酒なのか? まるで砂糖菓子のごとき甘さだが……」
魔王は顔をしかめながら瓶のラベルを確かめる。
レイは潤んだ瞳を魔王に向けると、蠱惑的な微笑を浮かべた。
それを見た魔王の胸に、ズキリと見えない矢が刺さる。
レイは物憂げな視線を魔王に注いだまま、口を開いた。
「魔王の口には合わないか……。一番甘いのをと言ったら、シルファが出してくれたんだ。俺は気に入ったけどなぁ……何か……他のを頼むか……? シルファを……呼んでくる」
大儀そうに立ち上がったレイが、ふらりと揺れた。
倒れそうになったその体を慌てて受け止めると、魔王はレイを抱き上げた。
「んっ……何だよ、もう飲まないのか……?」
「酒など必要ない。私はもう……おまえに酔っている」
魔王は呪文を唱えると、速攻で寝台に移動した。
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