虹の月 貝殻の雲

たいよう一花

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Ⅲ 誓約

11. 心に従って――ひとつに繋がる(1)

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魔王の欲望は既に、下衣の中で痛いほどに布を押し上げ、にじみ出た先走りが下着に染みを作っている。

レイの上に覆いかぶさり、魔王は生地を引き裂きそうな勢いでレイの肌を露出させてゆく。そして自らも身に着けている服を乱暴にむしりとった。その性急な様子に、レイが目を剥く。

「おいっ……ビリッていったぞ……今。……高価たかいんだろ、その服……粗末にするなよ……もったいな……んむっ」

いきなり唇を塞がれ、魔王の体重がのしかかってくる。
息も出来ないほどの激しい口付けに、レイは抵抗しようと腕に力を込めたが、それも一瞬のことで、すぐにその腕を魔王の首に回すと、情熱的な口付けに応えた。
魔力の回復が容易になった今、自らに強力な結界を張り、夜毎の営みを拒絶することも可能だった。
しかし魔王への気持ちを自覚してからは、レイは毎晩魔王を待つようになり――その腕に抱かれることを望んだ。
魔王と視線を交わし、その体温を間近に感じ、肌に触れ、唇を重ね、ひとつに繋がることを求めた。

「んっ……ふ……はっ、あぁっ……んん……」

甘い果実酒の匂いが、レイの熱い吐息と共に、魔王の鼻腔をくすぐる。強く吸っていた唇を離すと、魔王はレイの顔を覗き込んだ。
レイが恥ずかしがるため、寝室内の明かりはすべて消してある。
窓からわずかに漏れ入る月明かりだけが、ぼんやりと室内を照らしていたが、豪華な天蓋に覆われた寝台の中は、静かな闇に包まれていた。しかしレイは知らなかったが、魔王の目は異常なほど夜目が利くため、すべてがはっきりと見えていた。

愛する者のすべてが、魔王の前に晒されていた。
長い睫毛に縁取られたレイの目は半分伏せられていたが、ちらりと覗く蜂蜜色の瞳は焦点を失くし、切なげに潤んでいる。互いの唾液で濡れそぼった唇がなまめかしく光り、続きをねだるように開かれていた。
何もかもが愛しくてたまらず、魔王はもう一度深く唇を重ねると、長い舌をレイの口内へ押し込んだ。

「ん……んん……っ」

魔王の舌がレイの舌を絡めとり、口内を縦横無尽に這い回る。

「んっ……ん、ふ……んぐ……っ!」

レイは苦しげに顔をしかめた。時折魔王の舌が、喉の奥をかすめる。柔軟に伸び縮みするその舌はやがて、うねりを伴いながら喉の粘膜を弄り、そのまま奥へと侵入してきた。

「んんっ! んっ、ぐぅっ、むぐぅ!」

魔王は欲情に突き動かされるまま、ぴったりと唇を吸い合わせ、舌先でレイの喉を探った。その苦しさに、レイが暴れ出す。

「んぐっ、……がはっ、げえっ!」

魔王が我に返り舌を引き抜くと、レイは体をよじって激しくえずいた。涙を浮かべて苦しむレイの背をさすりながら、魔王はひたすら謝った。

「すまない、レイ、悪かった。おまえの喉は人間仕様だったのか。苦しめるつもりはなかったのだ。悪かった……」

「がはっ、ごほっ……ぐうっ……何っ……はぁっ、はぁっ、どう……いうこと……だよっ?」

「魔族は喉の中にも性感帯を持っている。気持ちが高まると、口付けの際に舌を伸ばして互いの喉を探る。……ごく自然な、愛情表現なのだが……少しも、気持ちよくなかったか?」

「ない! 拷問だ! がはっ!……うぐっ、はぁっはぁ……おまえの舌……ヘンだぞ! はっ、……はぁっ……どうして、そんなに、伸びる……」

「そういえば、おまえの舌は伸びぬな……ふむ、舌も人間仕様だったのか……」

その言葉を聞いて、レイの胸中にいくつもの複雑な感情が、嵐のように湧き上がった。

人間仕様で悪いのか、と反発する気持ち、混血ゆえの欠陥を指摘されたかのような苛立ち、魔王を喜ばせることが出来ないのではという、自分に対する失望感、それらに付随する様々な感情が波のように押し寄せて、レイを混乱の渦に突き落とす。

眉間にしわを寄せて、ぎゅっと目を瞑り黙り込んでしまったレイを見て、魔王は優しい声で話しかけた。

「レイ……まだ怒っているのか? 悪かった、二度としない。誓って、苦しめるつもりはなかったのだ。許してくれ……」

魔王は悄然と詫びながら、レイのうなじから背中を、なだめるようにさすっている。

レイはうつ伏せていた体を仰向けに返すと、魔王の顔を両手で挟み込んだ。二人の視線が、至近距離で絡み合う。何か言おうとしているレイの顔を、魔王は胸を高鳴らせてじっと見つめた。
やがてひゅっと息を吸い込むと、レイがゆっくり話しだした。

「魔王……俺は人間と、魔族と、仙界人のごっちゃになった存在だ。……だから……」

咳き込んだせいで声は涸れ、震えていた。嘔吐感から生理的に発生した涙が、瞬きした拍子に目尻から流れ落ちてゆく。

「だから……あんたの思い通りにはいかないと、思う……。喉には性感帯なんかないし、舌は絶対伸びない。それに……俺は魔族の考え方にはついていけないと感じるときもあるし……好みの味付けも違う。それから……完璧なあんたと違って、俺はズボラなところがあるし……。……もし、一緒に暮らし始めたら、あんたは……俺に失望するんじゃないのか?」

「!」

魔王は驚愕に目を見開いた。

そんな反応を返されるとは予想もしていなかったレイは、困惑して一層不安を募らせる。しかしそれも一瞬のことで、魔王から発せられる歓喜が波のように押し寄せてくると、レイの不安は霧散した。

魔王は喜びに顔を輝かせ、頬に添えられていたレイの手を、ぎゅっと掴んだ。

「つまり……レイ……私と一緒に暮らしてくれるのだな? 今のは……私の求婚に対する快諾と受け取っても……」

「違う違う! もしもの話だ! 快諾なんかしていない! 魔王、俺の話をちゃんと聞いていたのか!?」

「聞いていたとも。……レイ、私がおまえに失望するなど、有り得ない。正直に言うと……さきほど喉に舌を入れられて、苦しむおまえの姿も、非常に魅力的だと……そそられた」

「!!  このっ、へ、変態っ……!」

レイは真っ赤な顔で身をよじり、魔王を打とうとした。しかし両手とも強い力で魔王に拘束されているため、ジタバタともがくことしかできない。

魔王はぎゅっとレイを抱き締めると、切なげに震える息を吐き出した。

「ああ……レイ、私はもう……限界だ!」

「あっ……!」

魔王はいきなりレイの股間に顔をうずめると、しゃにむに食らいついた。そしていつのまに取り出したのか、潤滑剤の入った容器を手に持ち、粘りのある液体をたっぷりとレイの後ろにすりこみ始める。

ぬるりとした魔王の指が中に押し入ってきた途端、レイはたまらず声を上げた。

「はっ!ああっ!くっ……このっ……大変態……っ!!」

魔王の節くれだった長い指が、潤滑剤の助けを借りて、ずるりと奥まで侵入してくる。

レイを略奪したその日から、魔王の指の爪は常に短く切り揃えられ、尖ったところがないよう入念に手入れされていた。それはひとえにレイを傷付けないようにとの配慮からだった。
やがてレイの弱いところを知り尽くしたその指が、中でわずかに折れ曲がり、ある一点を刺激した。

「んくっ!ふ、ぁっ……あああっ!」

魔王の口の中で、レイの欲望がびくびくと跳ね上がる。
舌で先端を舐めまわすと、たちまちだらだらと、蜜が溢れ出した。

「くっ……!はぁっ、はぁっ……うあっ、あ、やっ、やめろっ……!ああああっ!」

前と後ろを同時に責められ、レイはひたすら身悶えた。
酒のせいか体中が燃え上がるように熱く、魔王の柔らかい髪が腹に触れただけで、ぞわりと甘い疼きが走る。切なくて、泣き出してしまいそうだった。
情緒不安定な自分を持て余し、レイは縋る場所を求めて、無意識に両手を魔王に向かって差し出した。

「魔王……!」

抱擁の求めに、魔王は即座に応じた。指を引き抜き、口内から屹立した欲望を解放すると、レイの体の上に覆いかぶさり、逞しい両腕で抱きしめた。レイは夢中で魔王の背中に腕を回し、隆起した筋肉に手の平を這わせた。
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