虹の月 貝殻の雲

たいよう一花

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Ⅲ 誓約

12. 心に従って――ひとつに繋がる(2)

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「ああっ……魔王……魔王……魔王……」

声がかすれ、うわずる。
レイは自ら脚を開き、早く欲しいと言わんばかりに、魔王の体に絡ませた。

いつになく積極的なその態度に魔王は興奮し、暴走しそうになるのを必死でこらえていた。それを焦らされていると勘違いし、レイが苛立った声を上げる。

「早くっ……来いよ!」

「!!」

魔王は驚いて目を見開いた。
最近のレイの態度の変化にはもちろん気付いていたが、言葉に出してはっきりと求められるのは初めてだった。

(酒のせいか……?)

そういえば、あの果実酒は口当たりは良いが、かなり酒精の強いものだった。
抱き合い、体中をさすられ、息が上がったために、一気に酒が回ったのだろう。見ると顔だけでなく、耳や首、胸まで赤く染まり、乳首はつまんでくれと言わんばかりに、妖しく色付いてぷっくりと立ち上がっている。熱を孕んだ眼差しは蠱惑的こわくてきに潤み、今にもとろけそうな表情で魔王を誘っていた。

淫らなそのレイの姿に、魔王の心臓は口から飛び出しそうなほど、激しく鼓動を打った。

「私が……欲しいか? レイ……」

魔王の喉が、ごくりと鳴る。

「ん……ああ……欲しい……」

酒で痺れたレイの頭は、考えることをやめていた。心にのぼったことが、そのまま舌の上に乗る。

「欲しい……魔王……早く、れてくれ……」

レイの頭の片隅で、わずかに残っていた理性が羞恥に悲鳴を上げたが、それもやがて消えてしまった。
レイは自ら尻の位置をずらすと、魔王のいきりった欲望に手を添え、目的の箇所にあてがった。

「!!」

魔王の体に、雷に打たれたような衝撃が走る。

(レイがっ……初めて、私のものを触っ……!!)

レイに負けず劣らず、魔王の顔に、耳に、首に、朱が走る。
魔王はたまらず、レイの脚を肩につくほど折り曲げると、腰を持ち上げ剛直をねじ込んだ。

「ん、くぅっ……!」

先走りで濡れそぼった先端が、レイの体におさまってゆく。
やっと目的のものを与えられ、レイは歓喜と共にそれを受け入れた。

「はっ……ああっ! んんっ、はぁっ、はぁっ……ああっ…!」

淫らに嬌声を上げ、悶えるレイの痴態を眺めながら、魔王は太い幹の部分をゆっくりとレイの中に埋め込んでゆく。
徐々に深く押し入ってくるその肉塊に、レイは違和感を覚えた。感触が、いつもと違う。敏感な入り口付近を、コリコリと何かが当たり、通過してゆく。

「あっ……んくっ! はっ……あっ、ああっ!」

貫かれ、内側を押し広げられる圧迫感も、いつもより大きい。それに何か硬いものが、股間に当たっている。

「……っ? ん、くぅっ……魔……王……?」

レイの戸惑いに気付いた魔王が、動きを止めた。

「レイ……つらいか?……<従根>だ。痛いようなら、いつものように<主根>の方をれるが……どうだ……?」

(ああ……そうか……この感触は、あの突起か……)

レイはその感触を思い出した。

最初の数日間、魔王は<従根>の方を半分ほどレイの中に埋め込み、手前に張り出したもう一振りの男根である<主根>を、レイの性器と併せ持ち、手でしごいて果てていた。

魔王の男根は人間と違い、根元から二つに分かれている。

その異様な性器を初めて見たときの驚愕が、レイの脳裏に甦る。
<主根>と呼ばれる性器の下から、派生するように頭をもたげた<従根>の先端は、亀頭部分が二段に重なったような形状で、竿の部分にはぷっくりと飛び出た小さな突起が、いくつも並んでいた。
魔族は生殖器を二つ持つと、知識としては知っていたが、初めて目にした魔王の性器は、形状も異様だが、大きさも尋常ではなかった。

――絶対、入るわけない。

そう思い、恐怖で歯を食いしばっていたあの夜が、今のレイにはもう遠い過去のように感じられた。
毎晩肌を重ね、魔王を受け入れるうち――レイは自分の体が変化してゆくのを、おぼろげながら感じていた。
孕んだ母親が、子のために場所を確保するように、自分以外の肉体を受け入れる器を、体が本能的に用意したかのようだった。

「レイ……?」

虚ろな目をして黙りこんでしまったレイを、魔王が心配気に見下ろしている。

「……つらいのか?」

魔王は囁くような声でそう尋ねると、半分以上埋め込んでいた<従根>を、ゆっくり引き抜こうとした。

「うっ……! くぅぅ……っ!」

<従根>の突起と、張り出た二つの先端部分が、レイの内側を刺激し、今までとは違う快感をもたらす。
レイは思わず結合部分にぎゅっと力を込め、魔王を逃すまいとするかのように締め付けた。

「ふっ……! ぅあっ! レイ……くっ!」

レイの体内で絞られ、突然与えられた快感に、魔王は息を詰めながら呻いた。
魔王の隆起した胸の筋肉が、乱れた呼吸と共に膨らんではしぼむ。玉の汗がこめかみから糸を引き、ぽたっとレイの額に落ちてきた。それを指ですくい取ると、レイは何となく口に持ってゆき、舐めた。

「……ん……しょっぱい……」

魔王の汗を舐め取った指が口から引き抜かれ、唾液が一筋唇から垂れる。半開きの口元から、濡れ光る赤い舌が、ちらりと覗いた。

その刹那。

魔王の欲情に、火が点いた。
魔王は両手でレイの腰を押さえ込み、強い力で固定すると、凶暴な猛りを一気に深く押し込んだ。

「ひっ! ぐぅっ! ……っっぅ!!」

いきなり強い力で貫かれ、レイは息を詰まらせた。
内臓がおし上げられ、声も出ない。レイは恐慌をきたし、腰にめり込んでいる魔王の手の甲に、思いっきり爪を立てた。

「っ……!」

ピリッと走る痛みに我に返った魔王は、レイがぎゅっと目を閉じガタガタ震えているのに気が付いた。

「ああっ! レイ……レイ、すまない……痛かったか……」

狂乱はあっというまに去った。わずかな刺激で我に返った魔王は、暴走を防ぐサライヤの暗示が、まだ生きて効力を保っていることを感じ、妹に感謝した。

「悪かった……レイ。怖い思いをさせたな……」

魔王は深々と挿入した<従根>を、ゆっくりと引き抜き始めた。

「んぐっ……! っ! はっ! あぁっ、くぅう!」

レイの体がびくびくと小刻みに震える。
魔王に「魔族仕様になっている」と言わしめたレイの秘所は、夜毎の結合で目覚め、いくつかの性感帯を持つに至った。刺激に弱いその箇所を、<従根>の突起部分が、次々と弄ってゆく。感じる場所をその突起が、ゴリッとこすりながら通過するたび、レイは喉を仰け反らせて声を上げた。

「はっ、あああっ! ……ぅくっ……ん、あああっ!!」

やがてずるりと完全に引き抜かれると、レイは涙にけぶる目を、うっすらと開けた。魔王の目が正気なのを見てとると、レイはホッとして息を吐き、囁いた。

「も……終わり……? ……続けてくれよ……」

「!」

 思いがけないレイの言葉に、魔王は一瞬耳を疑った。

「いっ……いいのか……?」

「ああ……さっきの…引き抜くときの感じ……良かった……。でも、あんまり奥まで挿れないでくれ……深いと……怖い」

「わ……分かった……さ、さっきは、本当に、悪かった……」

魔王は震える指先でレイの髪を梳き、こめかみに流れた涙を拭った。愛しさが胸に溢れ、荒れ狂う奔流となって体中を巡る。

「レイ……ああ、レイ……愛してる……」

「んんっ……ふぁ……!」

魔王は潤滑剤を注ぎ足し、再びレイの中へとその身を沈めた。

「ああっ……あっ……!」

甘い痺れが体中を突き抜ける。
レイの口から漏れる喘ぎ声を聞きながら、魔王は三分の一ほど<従根>を押し込んだところで、一旦動きを止めた。

「レイ……大丈夫か?」

「ん……」

レイは精一杯腕を伸ばすと、魔王の首筋に手を這わせて引き寄せ、口付けをねだった。魔王は痛いほどに胸を高鳴らせると、そっと身をかがめ、唇を重ね合わせた。

(これからは毎晩……レイに酒を飲ませるか……最高に甘く……酒精の強いものを仕入れておこう……)

そう画策しながら、今度は舌を入れずに、優しく唇を吸い上げる。

「ん、んん……はぁ……」

やがて魔王は上体をそっと起こすと、激しくならないよう気を付けながら、抽送を開始した。

「はっ! ぅああっ! ああっ! …ぅんんっ……んっ、あっ!」

「くっ……! いいぞ……レイ……最高だ……」
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