妹は聖女に、追放された私は魔女になりました

リオール

文字の大きさ
11 / 23

11、

しおりを挟む
 
 
「おい、早くしろ!」

 目の前に広がる光景を目でチラチラ気にしながら。
 私を連れてきた男は、私の腕に繋がれた鎖を乱暴に引っ張った。

 つんのめりながらも踏ん張って、どうにか転ばないで歩く。

 虚ろな目を薄っすら開けて、私は眼前に広がる光景に視線をやった。

 そこは闇の森と呼ばれる場所。
 その名にふさわしく、暗く鬱蒼とした森だった。

 その森に入って少し奥まった場所。討伐隊などがまだ行き来している範囲での所で馬車は止められ、私は降ろされた。

 視界一杯を覆い尽くす木々。それらのほとんどが枯れ木。茶色くカサカサになってるのに、落葉することなく木にしがみつく葉。けれど足元にもまた、枯れ葉が地面の存在を隠すかのように埋め尽くしていた。

 陽を通さぬほどに生い茂った森の奥は真っ暗で、どうなってるのか全く分からない。

 生き物の気配など皆無で、カサカサと歯が擦れる音しか聞こえなかった。

 いや、そうでもないか。

 時折聞こえるギイギイと不快な音は、恐らくは魔物の声。何度討伐隊が送られても、けして滅びる事のない存在。

 それらの息遣いが、確かに聞こえた気がした。

「ひ……!相変わらず不気味だ!ちくしょう、なんで俺がこんな役目を……!!」

 ガチガチと奥歯を震わせながら、男がぼやく。
 震える手で拘束具を外そうとするのだけど、うまくいかなくて焦る様子がうかがえた。

 その時。

ギャア!ギャア!

 叫びと共に、何かがバササと飛び立つ音がした。

「ひいいいい!!!!」

 それにビクッと体を震わせた男が、手に持った鍵を落としてしまった。

「あ、くっそ!枯れ葉の中に……どこだ!?」

 ガサガサとかき分けるも、見つからず焦りは大きくなっていった。
 そして。

「ああもういい!俺の役目はお前をここに連れて来ることだったんだから!どうせお前はすぐに死ぬ運命の罪人だ、拘束なんてそのままでいい!!!!」


 悲鳴のような叫びを上げて。

 男はドンッと私の背中を押した。

 さすがに踏ん張りがきかずに、私は前につんのめった。

「あ──!」

 叫んでどうにか拘束されたままの手で支えて。顔面強打だけは免れた。
 その時。
 ガラガラと音を立てて、馬車が去るのが視界の隅に見えた。

 必死の形相で、馬を操って。落ち着きのない馬をなだめながら、男は去って行ったのだった。

 1人ポツンと残された私は。

 ホウ……とため息をついて、視線を足元へと巡らした。

 暗いけど、全く何も見えないというわけでもないのが不思議だった。どうして?と一瞬考えるも、すぐにやめた。

 この森は奇怪で謎多き場所なのだ。どんなにおかしなことがあっても不思議な事ではない。

 だから私は膝をついたまま、作業を進める事にした。

 この森で最初にすべき事。

 つまり、拘束を外すカギを探す事を──。

 時間はタップリあった。
 あるけど無い。そんな複雑な状況の中、枯れ葉に手を入れて私はゆっくりと鍵を探した。

 そしてそれは思いのほか、早く終わる。

「あ、あった……」

 カサカサと葉の感触が続いた中で、不意に金属の感触。
 持ち上げて見れば、それはやはり目当ての物であった。

「良かった……」

 誰が聞いてるでもないけれど、独り言ちて私はそれを握りしめた。

 今の私にとって、これが、これだけが現実世界とのつながり。生きてる事を実感させてくれる物となったのだ。

 カチャンと呆気なく解き放たれた拘束。
 それを何とは無し持ったまま、私は移動した。

 戻る道が分かれば戻ろうと思ったけれど、それは甘い考えだったとすぐに分かる。

 馬車が戻って行ったはずのその道には、もう枯れ葉が積もり、道筋はもう見えなくなっていた。そうでなくても暗い森の中、かすかに目はきいても詳細は分からない状況だ。

 右も左も分からないこの森で、私は果たしてどれだけ生きていけるのか──。

 恐い事を考えて、ゴクリと喉が鳴るのがやけに響くのだった。



 
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

義妹が聖女を引き継ぎましたが無理だと思います

成行任世
恋愛
稀少な聖属性を持つ義妹が聖女の役も婚約者も引き継ぐ(奪う)というので聖女の祈りを義妹に託したら王都が壊滅の危機だそうですが、私はもう聖女ではないので知りません。

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

聖女の妹によって家を追い出された私が真の聖女でした

天宮有
恋愛
 グーリサ伯爵家から聖女が選ばれることになり、長女の私エステルより妹ザリカの方が優秀だった。  聖女がザリカに決まり、私は家から追い出されてしまう。  その後、追い出された私の元に、他国の王子マグリスがやって来る。  マグリスの話を聞くと私が真の聖女で、これからザリカの力は消えていくようだ。

妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~

サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

聖女の妹、『灰色女』の私

ルーシャオ
恋愛
オールヴァン公爵家令嬢かつ聖女アリシアを妹に持つ『私』は、魔力を持たない『灰色女(グレイッシュ)』として蔑まれていた。醜聞を避けるため仕方なく出席した妹の就任式から早々に帰宅しようとしたところ、道に座り込む老婆を見つける。その老婆は同じ『灰色女』であり、『私』の運命を変える呪文をつぶやいた。 『私』は次第にマナの流れが見えるようになり、知らなかったことをどんどんと知っていく。そして、聖女へ、オールヴァン公爵家へ、この国へ、差別する人々へ——復讐を決意した。 一方で、なぜか縁談の来なかった『私』と結婚したいという王城騎士団副団長アイメルが現れる。拒否できない結婚だと思っていたが、妙にアイメルは親身になってくれる。一体なぜ?

堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。

木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。 彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。 そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。 彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。 しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。 だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。

神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)

京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。 生きていくために身を粉にして働く妹マリン。 家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。 ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。 姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」  司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」 妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」 ※本日を持ちまして完結とさせていただきます。  更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。  ありがとうございました。

処理中です...