王子を助けたのは妹だと勘違いされた令嬢は人魚姫の嘆きを知る

リオール

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15、※王子視点

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「あ~~~~……疲れた……」

 [あ]に濁点を付けそうなダミ声を出しながら、机に突っ伏す。

「お疲れのようですね、王子」
「二人きりの時に王子はやめてくれアンディ。……本当に疲れたよ」

 先ほどまでの騒動を思い出して、私は深々と溜め息をついた。

 思い出されるのは、婚約者のヒステリックな叫び。

『エディ、エディ!貴方は私の婚約者でしょう?私を愛してるでしょ!?』

『どうして何も言わないの!?貴方はやっぱり私よりお姉様の方がいいのね!』

『なによ、どうしてよ!お姉様より私の方が美しいわ、優れているわ!私こそが貴方に相応しいのよ!どうして愛してると言ってくれないの!?』

 耳障りな甲高い悲鳴のような叫びを続けるメリッサに頭を痛めるのは、何度もあった。けれど日に日に酷くなる様に、もうどうして良いのか私には分からなくなっていた。

『メリッサ、メリッサ……落ち着くんだ!キミは一体何に怯えてるんだ?何が不安なんだ?どうしてそんなにもフィリアを敵視するんだ!?』

 メリッサの不安の種がフィリアに起因しているのも分かってはいた。けれどその原因が分からない。子供の頃は仲の良い姉妹だったと聞いていたのに。

 大急ぎで伯爵家に連絡し、メリッサを連れて帰るように指示を出し。
 そしてメリッサを半ば強引に馬車に押しやって帰らせたのは、つい先ほどのこと。

 全てのきっかけは自身との婚約なのかもしれない。

 そう薄々気付いていたけれど。
 それでも動かなかったのは、逃げなのか──。

 だがエドワード自身、限界を感じていた。これ以上、メリッサのヒステリーに付き合いきれないと思い始めてもいる。

 溺れていたところを助けられた恩義はある。ほのかな恋心を抱いたのは事実。
 たしかに婚約のきっかけはあれだったのだ。
 けれどもう、それでは済ませられないところまで来ているのかもしれない。

 あの頃は、十歳にもなってまだ婚約者が決まらない事に周囲からの圧が酷かった。
 両親はといえば、放任主義で婚約者は自分で探せというスタンスだった。

 ──だが、それは好き勝手自由に選べという事では無いのだ。

 この国では、第一王子が必ずしも次期王となるわけではない。男女も関係ない。父は第一王子だったが、それは偶然だ。偶然、最も優秀だったのが父だっただけ。

 生まれた瞬間から、王族は次期王としての素質があるかどうかを逐一見張られているのだ。

 婚約者……後の結婚相手の選定もまた然り。

 どのような令嬢を伴侶に選ぶか、それもまた王としての資質を問う判断として両親は──国王夫妻は見てるのだ。

 父は自身も優秀であった。そして伴侶である母もまた、優秀で……更に二人は心から愛し合っている。理想の二人なのだ。誰も文句なく、父は王となった。それは弟・妹である叔父・叔母も。親兄弟から、側近から、国民から。全てに祝福された二人が王と王妃となった。

 自分もそうありたいと思っていたのだけれど。

 助けてくれた彼女に抱いたのは、確かに初恋の情。
 けれどそれも徐々に薄まって、今はもう……。

 このままいけば、自分はメリッサという問題児を選んだ者として、次期王候補から外されるだろう……自分の望みとは真逆の結果となる事は明白だった。

 なぜこんな事にと頭を抱えても事態は好転しない。

「それにしても……メリッサ嬢の姉に対する敵対心は度が過ぎてますね」

 公爵令息で親友のアンドリューが前の席に座り、机に頬杖をついて、呟くように言ってきた。

「度が過ぎてるって言うより……異常?」

 皮肉気な笑みを浮かべて、アンドリューは言う。

「お前、ちょっと楽しんでないか?」
「いいえ~?ただ、エドが凹んでると面白いなあと思って」
「お前は悪魔か何かか」
「あはは~、だったら面白いんですけどね!」

 ケラケラと笑う友の様子に、怒る気にもならない。
 彼はいつもこんな風に、自分に気さくに話してくれるのだ。それは幼い頃から変わらない。彼の前でだけは自分も気が楽になるのをずっと感じていた。

 彼はいつもこんな風に飄々としている。それは公爵家の次男坊として気楽に生きてるせいなのか。
 羨ましいといつも思っていた。

 自分もこんな風に肩の力を抜ければいいのだけれど。

 立場が、どうしても自分にそれを許さないのだ。

「まあでも真面目な話。メリッサ嬢は本当にまずいと思いますよ。貴方の立場、やばくなるんじゃないですか?」

 今現在、教室は誰も居ない──本来なら移動授業だから。メリッサの一件があって途中から授業に出る気も起きなかった私達は、静かな教室に二人きりなのだ。

 それでも内容が内容だけに、アンドリューの声は途端に小さく潜められる。

「本気でこのまま、婚約を続けるおつもりで?」
「それは──」

 肯定も否定も出来なかった。
 それはそんな簡単に決められる事では無いのだから。

 ふっと頭に浮かぶのは、白銀の髪を乱した鬼の形相のメリッサ。
 そして、同じ白銀の髪をもつ、ブラウンアイの彼女──。

「なあアンディ」
「ん~?」
「調べて欲しい事があるんだ」

 最初は疑う事を知らなかった幼い自分。
 成長と共に疑惑がムクムクと大きくなり。

 けれどずっと目を逸らしていた。
 見ないフリをしていた。

 もう、それは許されない。

 だが自分の力ではどうしようもない。自由に動けない身では調べられない事も多々ある。

 だから。目の前の親友に頼むのだった。
 助けて欲しいと。

 そして親友はニヤリと笑い。

 大きく頷いてくれるのだった。


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