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しおりを挟むパシンッと嫌な音が響く。
私の手も痛むけれど、それ以上に心が痛かった。
けれどここで私がそうしなければ、きっとメリッサは止まらない。
止めなくては。メリッサの為に!
「──っにすんのよ!?」
一瞬何が起こったのか分からずポカンとしたメリッサだったけれど。
遅れて感じた痛みに、一気に血の気が上ったのだろう。また私に掴みかかろうとするも、私の方が一瞬早かった。
パシンッともう反対の頬を叩く。
「いい加減にしなさい!!」
およそ怒鳴るなんて事のない人生だった。
メリッサの言動に呆れても、喧嘩しても……だからこそ、メリッサも驚いて口を閉じる。
そのままの勢いで私はメリッサにまくしたてた。
「ここを何処だと思ってるの、神聖な学び舎なのよ!?そこで貴女は一体何をしてるの!仮にもエドワード様の婚約者でしょうが、そんな状態で将来立派な妻となれると思ってるの!?姉である私への無礼はまだしも、アンドリュー様になんて態度なの!!」
「いずれ私はエディの妻となるんだから!そしたら公爵家なんて下の者よ!」
「それが上に立つ者の態度だと言うの!?上位貴族は下位貴族を見下して良いと本気で思っているの!?そもそもまだ貴女は伯爵家の娘なのよ!こんな騒ぎを起こして王子の妻と成れると思うなんて……恥を知りなさい!!」
ここで私が引いては、全てメリッサの責となるだろう。私が姉として、伯爵家の者として、メリッサを厳しく叱責しないと……メリッサの立場は元より、王子の立場まで悪くなる。だから必死だった。必死で私はメリッサに説いた。私の真意が伝わって欲しいと……全てはメリッサの為なのだと理解して欲しかった。
一気にまくしたてたせいで空気が少なくなり、ハアハアと肩で息をする。そんな私の目の前には、茫然として頬に手を当てる妹。
その目には見る見るうちに涙が溢れだし。
妹はダッと走り出して、私の背後にいた王子に飛びつくのだった。
「エディ、エディ!お姉様が、お姉様が私を虐める!」
「メリッサ、何を……」
うああああ~!!!!
王子が何かを言おうとしても聞かず、なだめようとしてもそれも耳に届かない。メリッサは大声で泣きわめくのだった。
その場に居た全員が呆然とする中で、ひたすらメリッサの泣き声だけが響き渡っていた。
「王子……ここではちょっと……」
「あ、ああ……そうだな……」
何事かと生徒や教師が集まってくる中で。
さすがにまずいと思ったのか、学友に促され、王子はメリッサを抱きかかえるようにしてその場を去って行った。去り際に私を振り返る王子は、申し訳なさそうな……何だか泣きそうな顔をしていた。
その顔に、チクリと私の胸が痛むのはどうしてなのか。
「フィリア、すまなかった。メリッサは大丈夫だから……キミも教室に戻って」
「え……」
「大丈夫だから」
念押しされてしまえば、何も言えない。
私は彼らを黙って見送るしかできなかった。
同時に、各々教室へと散らばる生徒たち。そんな中で私だけが動けずに居た。
不意にポンと頭に置かれた手で、ようやく気付く。まだアンドリュー様が側に居た事を。
「あ……アンドリュー様、このたびは申し訳……!」
「気にしなくていいよ。……大変だね、キミも」
慌てて深々と頭を下げ、謝罪の言葉を述べようとしたら止められてしまった。
顔を上げると、紫紺の瞳が優し気に細められていた。
「伯爵家が問題にならないよう手を回すから大丈夫。心配しなくていいからね」
「は、はい……」
そうしてヒラヒラと軽い感じで手を振り。紺碧の髪を揺らしながら王子達を追いかけて行ってしまった。
その後姿を。その姿が見えなくなっても。
チャイムが鳴ってアイラに肩を叩かれるまで、その場で立ち尽くしていたのだった。
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