美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛

らがまふぃん

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結婚編

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 「も、申し訳、ありません。あの、あの」
 珍しくアリスが口籠もる。まごまごとした後、両手で顔を覆ってしまった。
 「エルシィ?」
 「エル様、わ、わたくし、その、し、嫉妬、を」
 今度はエリアストが目を丸くした。アリスは何と言ったのか。嫉妬、と言ったか。意味を理解して、エリアストの顔は真っ赤になる。
 「ら、ララ殿下と、親しくされていて、そのっ?」
 顔を覆う手に、柔らかいものが触れた。恐る恐る顔を少し上げると、手にくちづけている、エリアストの美しい顔が間近にあった。エリアストは耳まで赤く染めながら、嬉しそうに笑っていた。
 「え、える、さま?」
 「エルシィ、すまない。悲しい思いをさせてしまったというのに、不謹慎ですまない」
 ギュッとエリアストは抱き締める。
 「嬉しい、エルシィ。嬉しいんだ、エルシィ」
 腕の中で、アリスは困惑する。醜い感情を抱いたというのに、エリアストが喜んでいる。
 「嫉妬は、愛するが故の感情だと。愛する者からの嫉妬は、こんなにも嬉しいものなのだな、エルシィ」
 頭に何度もくちづけを落とされる。
 「嬉しいが、エルシィ、お願いだ。私のエルシィへの気持ちを疑うことは、それだけはダメだ」
 「それを!エル様の気持ちを疑ったことは、一度もありません!」
 驚いて顔を上げると、泣きたくなるほど優しく見つめるエリアストと目が合った。
 「それなら、いい。悲しい思いをさせて、すまなかった、エルシィ」
 ギュッと抱き締め、背中を撫でる。ゆっくり、何度も撫でながら、頭にキスの雨を降らせた。
 目の前で繰り広げられる光景に、ララはいたたまれないながらも、おずおずと話しかける。
 「えーっと、その、お取り込み中申し訳ないんだが」
 エリアストは堂々と舌打ちをした。
 邪魔をしてすみません。
 「アリス嬢、その、誤解をさせるような」
 「誤解などしていない。おまえは何を聞いていた」
 ララの言葉を遮って冷たく言い放つ。
 「ああ、うん。いや、まあ、その、ごめんね、アリス嬢」
 「いいえ、いいえ。わたくしが至らぬばかりに、良くしてくださる殿下にこのような」
 「ああ、いい仕事をしたな。おまえもまれには役に立つ」
 アリスの頭にキスを落としながらエリアストはララに勝ち誇った笑みを向けた。
 ムカツク。たまに、ではなく、稀に、と言うあたりも含めて。
 ララは額に浮かびかけた青筋を何とか納める。
 「アリス嬢、気休めにもならないかもしれないが、私の結婚したい相手はアレだ」
 指す方向をみると、大きな男が油断なく周囲を警戒している。
 クロバレイス国の守護神、アイザック・デイ・ガストラフ騎士団長。エリアストの二倍はあろうかという体躯は、ガッチリと鍛えあげられている。顔の半分は手入れのされた髭が覆い、細い目は眼光鋭く光っている。
 騎士団員からは、鬼神と恐れられているが、ララからしたら、森のクマさんだった。
 「超、かわいい」
 アイザックを見て、ララはそう言った。
 「殿下、よだれ
 レンフィは動じることなくララをいさめる。
 「おおっと。失礼」
 ララはハンカチで涎を拭う。
 「ま、そんなわけで、私はがんばってアイザックを振り向かせているところだ」
 ニッと笑うララに、アリスも微笑んだ。
 「殿下、本当に申し訳ありませんでした。お気遣いまでしていただき、ありがとうございます」
 「誤解って早く解かないと思いもよらない方へこんがらがっていくからね。アリス嬢の素直さは大事にしないといけない」
 ララは一息ついて続ける。
 「キミたちは何を一番大切にするべきか知っているんだね。わかっていても、大抵の人は周りを気にしてしまう。愚かだよね。大切な人を大切に出来るキミたちが、本当に羨ましい」
 ララは悲しそうに笑った。
 「その素直さを見習わせてもらうよ。少し。ほんの少し、勇気を出そうと思う。ふふ。二人に出会えて良かった。ありがとう」
 なにか、吹っ切れたようにララは言った。
 「はい。殿下のお気持ちも、通じることを祈っております」
 「うん、通じさせるから、結婚式にはぜひ」
 「気が早いです、殿下」
 「いいんだよ、レンフィ。こういうのは言っておけば本当になるの。東の国の言葉では、言霊ことだまって言うんだよ」
 「まあ。では、殿下の想いは通じます。殿下は幸せになれます。殿下はクロバレイス国一、幸せな花嫁になります」
 アリスの言霊に、ララは満面の笑みを浮かべた。
 「本当にディレイガルドにはもったいないよ、アリス嬢は」
 「黙れ」


 *小話を挟んでつづく*
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