美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛

らがまふぃん

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番外編

ディレイガルド当主の若かりし日 後編

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 「あなたにディレイガルド様は似合いませんわ。さっさとその座をお退きなさい」
 ずっと空席だったライリアストの婚約者の席が埋まり、こういうやからが出てくることは予想していた。アイリッシュは動じることなく応じる。
 「光栄にもわたくしはライリアスト様に望まれたのです。決闘をしてまでわたくしを望んでくださる殿方に嫁げることほど、幸せなことはございません」
 子女は悔しそうに顔を歪めた。
 「今だけよ!ただ熱に浮かされているに過ぎませんわ!冷静になったらディレイガルド様もお気づきになるでしょう。誰がご自分の隣に相応しいか」
 「そうかも知れませんね。ではそうならないよう精一杯努めさせていただきますわ。ご忠告に感謝いたします」
 笑って礼を言うアイリッシュ。その余裕な態度に、子女は癇癪かんしゃくを起こす。
 「このっ!なんて生意気なっ!」
 突き飛ばされ、アイリッシュは転んでしまう。手を擦り剥き、血が滲んだ。
 「何をしている」
 「ディ、ディレイガルド様っ」
 「イリス、ああ、可哀相に。血が出ている」
 アイリッシュの側に膝をつき、怪我をした手をそっと取ると、ジッと見つめた。そしてアイリッシュを囲んでいた子女たちを見回す。
 「私は将来、王国騎士団に入ろうと思っているんですよ」
 まったく脈絡のない話に、子女たちはお互いに顔を見合わせる。
 「そ、そうですの。ご立派な志ですわ」
 「あんなにもお強いのです。国をお護りくださるなら、陛下の御世も安泰ですわね」
 口々にライリアストを褒め称える。
 ライリアストは立ち上がると、この騒ぎを先導したであろう子女に近付き、微笑んだ。
 「ええ。ですからこれからも、護りたい、と思える人々であって欲しいのです」
 子女は気付いた。その目が、笑っていないことに。
 「あ、え、ええ、そう、ですわ、ね。その、通り、ですわ」
 「わかっていただけたようで嬉しいです。ではご機嫌よう」
 ニッコリ笑って、子女たちを追い出した。
 「イリス、手を見せて」
 再びアイリッシュを向き、お姫様抱っこをして側のベンチに下ろす。アイリッシュの前に跪き、血の滲んだその手を取る。ライリアストは躊躇ためらいなくその手のひらを舐めた。
 「ら、らいっ?!」
 驚いて手を引っ込めようとするが、叶わない。
 「汚いわ、やめてっ」
 地面で擦ったのだ。汚れている。血だって出ている。涙目になって尚も抵抗するが、ちっとも止めてくれない。
 「私はね、王国騎士団団長になる」
 傷口にくちづけながら、視線だけでアイリッシュを見る。いつもの柔和な顔ではない。あの、決闘のときに見せた、あの、顔。アイリッシュの胸がうるさいほど、早鐘を打つ。顔が紅潮する。
 「だ、団長、ですか」
 「ああ」
 普通はなれない。当然のことながら、たったひとつの席なのだ。けれど確信を持って断言するライリアストに首を傾げる。
 「なぜだかわかるか」
 「この国を、お護りする、と先程」
 「まさか。私はね」
 舌を這わせながら続ける。
 「血を見ると落ち着くんだ」
 ライリアストの切なげな吐息が手のひらをくすぐる。言っていることはとんでもないのに、受け入れてしまっている自分にアイリッシュは驚く。
 「けれど」
 アイリッシュの手の甲側を包んでいたライリアストの手が、するりと指を甲側から絡ませ、その指先を握るように包むと、再びその手のひらにくちづける。
 「イリス、キミはダメだ」
 鋭く射貫くような視線に、アイリッシュの背中はゾクリとした。
 「キミの血を見るのは不快で仕方ない」
 グイ、とライリアストは繋いだ手を自身の後ろに引く。上体を引っ張られ、前のめりになったアイリッシュと至近で見つめ合う。
 「ああ、そうだ。イリス、キミの血を見なくて済むよう、この国を護るとしよう」
 そのまま顔を近付け、アイリッシュの唇を塞いだ。


 *おしまい*

 次話は 同じ学園に通って体育祭 のパロディーになります。
 よろしかったらお付き合いください。
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