美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛

らがまふぃん

文字の大きさ
70 / 72
番外編

学園でのヒトコマ

しおりを挟む
お気に入り登録800!という喜びに、一話お届けいたします。
今回のお話は、甘々?エル様とアリスの学園でのお話。
よろしかったらお付き合いください。


∽~∽~∽~∽~∽


 昼休みの時間帯、学園の中庭は学生たちの憩いの場となるのだが、本日は静まり返っていた。天気も晴れ渡り、心地よい風が吹いている。季節の花が彩り、優しく風に揺れる木の葉が囁く、絶好の日和。
 だというのに、人影が見当たらない。
 木陰にあるベンチに、一組の男女がいるだけ。
 中庭が閑散としている原因、エリアスト・カーサ・ディレイガルドと、アリス・コーサ・ファナトラタだった。
 二人は何をするわけでもなく、ただ寄り添って座り、時々視線を交わして微笑み合う。
 その姿を、中庭が見える校舎の窓から眺める人々は、声にならない悲鳴を上げながら、近くにいる者たち同士で肩や背中をバシバシと叩き合っていた。紳士淑女にあるまじき行為だが、咎める者などいるはずもない。
 吐息で囁くように叫ぶ声があちらこちらで聞こえる。器用なものである。
 そんな周囲から隔絶された世界のエリアストとアリスは、二人の時間を楽しむ。
 暫くすると、エリアストは校舎から覗く人々に殺気を飛ばす。人々は青ざめ、中には腰を抜かしたり倒れる者も。周囲の反応は早かった。慌てて倒れた者や腰を抜かした者たちを運びながら、その場を去る。アリスが攫われる事件があってから、ディレイガルドの影も学園内に十数名潜ませているが、その影たちも二人を見ないよう体勢を取る。
 それと同時に、エリアストはそっとアリスの肩を支えるように寄せ、アリス側の自身の肩を少し下げた。その肩に、アリスの頭がこてんと乗る。
 うららかな日差しに、ちょうどお腹も満たされており、尚且つ絶対的に安心出来る存在が側にいる。その気持ちから、アリスはうたた寝をしてしまったのだ。
 眠りそうだと気付いたエリアストは、誰にもアリスの寝顔を見せるはずもなく。小さなアリスが眠りやすいように肩を下げ。愛しくその頭にくちづけを落とす。
 安心しきったアリスの寝顔に、どうしようもないほどの愛しさが込み上げる。
 その顔をさせていることが、何よりも幸せだった。

 「ま、まあっ。申し訳ありません、エル様っ」
 少しして目覚めたアリスは、失態に赤くなり、慌ててエリアストの肩から頭を上げる。けれど、エリアストの手が伸びて、アリスを元の位置に戻す。
 「もう少し、このまま。エルシィ」
 再び肩に乗せられたアリスの頭に、エリアストは、すり、と頬を寄せた。
 「エ、エル様。はい」
 アリスの肩を抱き寄せていたエリアストの手が、照れて真っ赤になるアリスの頬に、柔らかく触れる。
 「体勢、つらくないか、エルシィ」
 「いいえ、まったく問題ありませんわ、エル様。エル様こそ、わたくしにあわせていらっしゃって大変でしょう。いつもありがとうございます、エル様」
 「大変なことなどあるはずがない。どんなことでもエルシィが頼ってくれるなら、すべて私の喜びとなる」
 アリスが楽な体勢になれるよう、エリアストこそが体勢を崩しているのだ。それをおくびにも出さず、優雅に座っているように見せるのだから大したものだ。実際、超人エリアストからしたら何でもないことなのだろう。あらゆること、それはもう本当にありとあらゆるすべてのことが、アリスさえ側にいればいいのだから。
 「ふふ。エル様の優しさに甘えすぎてしまいそうです」
 「もっと甘えてくれ、エルシィ。それは私の幸せでしかない」
 頬に触れていた手をスルリと顎へ移動させて軽く持ち上げ、美しい黎明の瞳と見つめ合う。
 「はい、エル様。たくさんたくさん甘えさせていただきますわ。わたくしのことも、頼ってくださいね、エル様」
 「ああ、たくさん甘えてくれ、エルシィ。そして、今まで以上に頼らせて、エルシィ」
 そっと唇が重なった。

 さて、アリスに激甘というか、アリスしか目に入らないエリアストのアリスだけに見せるその姿に、そんなエリアストのすべてを受け入れる穏やかなアリスの姿に、周囲に変化が見られるようになった。
 婚約者が学園にいる者同士は、互いを尊重するようになった。
 人前ではなかなか難しいが、二人でいるときは、きちんと想いを伝え合うようになった。
 そのおかげだろう。
 エリアストとアリスの有り方を一年見てきた者たちの夫婦仲は、驚くほどに良い。だがそのことを、当事者である夫婦たちは、以外と気付いていなかったりもする。比べてしまう身近な対象が、エリアストとアリスであることが要因と思われる。
 余談だが、この副産物のおかげで、エリアストたちの世代は多くの子宝に恵まれるという、さらに嬉しい出来事に恵まれたのだった。



*おしまい*
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
こんな学園生活もありましたよ、というほんわか?な部分をピックアップしてみました。
再びエル様たちに会える機会を作って下さったすべての読者様に、心より感謝申し上げます。R7.7/3
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...