5 / 82
日常編
5
しおりを挟む
突然のエリアストの登場に、令嬢たちが倒れる。何とか倒れずに済んだ令嬢たちも、目が、目があ、と目を押さえて膝をついている。
「エリア――」
懲りずに名を呼ぼうとした子女の口を、片手で両頬を握るように護衛が押さえた。バスターチェ伯爵夫人は、護衛の行動にギョッとする。そして娘の言動には眩暈がした。
もしかして、ディレイガルド公爵を名前で呼ぼうとしたのか。そこまで愚かであったか。
バスターチェ夫人は痛みを覚える頭を押さえた。
「我が主を呼ぶときは、ディレイガルド公爵様、ですよ」
掴んだ手がミシミシと骨を軋ませる。冷たい双眸が子女を見る。本来であれば、危害を加えられそうになったわけでもないのに、護衛が貴族に触れるなどあり得ない。況して顔。けれど、バスターチェ夫人は元より、エリアストが何も言わないのだ。ディレイガルドが容認してることに、誰が異を唱えることが出来よう。
「ご理解いただけましたか」
護衛の言葉に、子女はコクコクと頷く。それを見て護衛は手を離す。子女はへなへなとその場に座り込んだ。
「何があった」
「そちらのご令嬢が、主に相応しいのは奥方様ではなく自分だと喚いていたものですから」
アリスに代わって護衛が答えた。アリスはストレートな物言いに、少し困ったように笑う。
「ほう。エルシィ、どこの家の者だ」
座り込む子女には一瞥もくれることなく、アリスを引き寄せながら尋ねる。
「バスターチェ伯爵家ですわ」
「バスターチェ?夫人のみの参加ではなかったか」
茶会に参加する者のリストはすべて把握しているエリアスト。子女の隣に立つバスターチェ夫人を一瞥すると、その体が遠目で見てもわかるほどに震えた。バスターチェ夫人は自身を奮い立たせる。エリアストに頭を下げ、自分の愚かな過ちを告白し、謝罪をした。
「申し訳ございません、急遽娘も参加させていただくよう無理を通しました。それだと言うのに、そのせいで公爵夫人様に不快な思いをさせました。どのような罰でもお受けする覚悟にございます」
そこでエリアストはやっと、座り込む子女に視線をやる。子女は視線が合うと、頬を染め、嬉しそうに微笑んだ。万人が、その子女を美しいと褒め称えるだろう。しかし、残念ながら相手はエリアスト。すぐに視線をアリスに向け、
「あれか?あれの何が私に相応しいと言うんだ」
母親の覚悟もわからず、自分の罪もわからない。くだらない自尊心ばかりを増長させ、すべて自分の思い通りになると勘違いをした、思い上がりも甚だしい娘。そんなものが、私に相応しいと言うのか。
不快感を隠そうともしないエリアストに、アリスは困ったように眉を下げる。
その言葉に、バスターチェ嬢は驚きを隠せない。
「自分は美しいから、主の隣に並ぶのに遜色ないと」
またも護衛が答える。その返答に、エリアストの周囲の温度が下がった。
*つづく*
「エリア――」
懲りずに名を呼ぼうとした子女の口を、片手で両頬を握るように護衛が押さえた。バスターチェ伯爵夫人は、護衛の行動にギョッとする。そして娘の言動には眩暈がした。
もしかして、ディレイガルド公爵を名前で呼ぼうとしたのか。そこまで愚かであったか。
バスターチェ夫人は痛みを覚える頭を押さえた。
「我が主を呼ぶときは、ディレイガルド公爵様、ですよ」
掴んだ手がミシミシと骨を軋ませる。冷たい双眸が子女を見る。本来であれば、危害を加えられそうになったわけでもないのに、護衛が貴族に触れるなどあり得ない。況して顔。けれど、バスターチェ夫人は元より、エリアストが何も言わないのだ。ディレイガルドが容認してることに、誰が異を唱えることが出来よう。
「ご理解いただけましたか」
護衛の言葉に、子女はコクコクと頷く。それを見て護衛は手を離す。子女はへなへなとその場に座り込んだ。
「何があった」
「そちらのご令嬢が、主に相応しいのは奥方様ではなく自分だと喚いていたものですから」
アリスに代わって護衛が答えた。アリスはストレートな物言いに、少し困ったように笑う。
「ほう。エルシィ、どこの家の者だ」
座り込む子女には一瞥もくれることなく、アリスを引き寄せながら尋ねる。
「バスターチェ伯爵家ですわ」
「バスターチェ?夫人のみの参加ではなかったか」
茶会に参加する者のリストはすべて把握しているエリアスト。子女の隣に立つバスターチェ夫人を一瞥すると、その体が遠目で見てもわかるほどに震えた。バスターチェ夫人は自身を奮い立たせる。エリアストに頭を下げ、自分の愚かな過ちを告白し、謝罪をした。
「申し訳ございません、急遽娘も参加させていただくよう無理を通しました。それだと言うのに、そのせいで公爵夫人様に不快な思いをさせました。どのような罰でもお受けする覚悟にございます」
そこでエリアストはやっと、座り込む子女に視線をやる。子女は視線が合うと、頬を染め、嬉しそうに微笑んだ。万人が、その子女を美しいと褒め称えるだろう。しかし、残念ながら相手はエリアスト。すぐに視線をアリスに向け、
「あれか?あれの何が私に相応しいと言うんだ」
母親の覚悟もわからず、自分の罪もわからない。くだらない自尊心ばかりを増長させ、すべて自分の思い通りになると勘違いをした、思い上がりも甚だしい娘。そんなものが、私に相応しいと言うのか。
不快感を隠そうともしないエリアストに、アリスは困ったように眉を下げる。
その言葉に、バスターチェ嬢は驚きを隠せない。
「自分は美しいから、主の隣に並ぶのに遜色ないと」
またも護衛が答える。その返答に、エリアストの周囲の温度が下がった。
*つづく*
201
あなたにおすすめの小説
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる