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アーリオーリ王国編
番外編 ~海~
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こちらはエル様とアリスの子どもが十歳くらいの時のお話しです。子どもは登場しませんが、一緒にいます。読み飛ばしても本編に差し支えございませんが、読んでいただけると嬉しいです。よろしかったらお付き合いください。
*~*~*~*~*
レイガード王国は、内陸国家だ。海がない。そのため、海産物は他国に頼っている。
ある日、休暇から戻ったエリアストの部下が土産を持ってきた。それは、海を模したものが入ったガラスドームだった。
「どういうものなのでしょう。湖よりも遙かに大きいとは伺いますが、想像が出来ませんねえ。エル様は、見たことがありますか?」
クリッと首を傾げてはにかむアリスが愛らしい。エリアストは堪らずアリスにくちづける。
「見たことがないな、私も」
そう言いながら、くちづけを繰り返す。
「ん、んぅ、える、えるさま」
「どうした、エルシィ」
「みたい、ん、です、いっしょ、んん、うみ」
エリアストは止まる。
目を潤ませたアリスが、恥ずかしそうに微笑む。
「あの、一緒に、初めての、海」
そこまで言って、躊躇うように顔を少し俯かせる。そして、エリアストを伺うように、チラ、と見る。
「い、いかが、ですか?」
必殺おねだりの上目遣いになっているなど、アリスは気付かない。愛する人の必殺のおねだり。おねだり自体殆どしてもらえないというのに。さらに上目遣い。エリアストの理性など、風の前の塵に同じ。
ベッドの上で、そんな可愛らしいおねだりをしてはいけない。
「まあああ!エル様!凄いです、凄いですわ、エル様!」
クロバレイス王国。とある貴族の別荘を借りている。別荘の裏手から伸びる緩い坂道を下ると、プライベートビーチだ。
「エル様エル様、もっと、もっと近くに行きましょう」
エリアストの手を握って早く早くとはしゃぐアリスに、エリアストは驚きつつも、心が沸き立つような感覚だった。こんなにも無邪気なアリスを見たことがない。
「エルシィ、走ると危な」
そう注意しかけた瞬間、アリスの体が傾ぐ。エリアストは繋いだ手と反対の手、持っていた日傘を投げ捨て、しっかりアリスを支えた。
「子どものようだな、エルシィ」
まさかこんな風にアリスを注意する日が来ようとは。いつも自分が教えてもらってばかりいた。
「可愛い、エルシィ」
ギュッとそのまま抱き締める。はしゃぎすぎてしまったと、照れて真っ赤になるアリスにくちづける。
「もっと、いろいろな顔を見たい。もっと見せて、エルシィ」
「あ、呆れて、いませんか?」
恥ずかしそうに顔を両手で覆ってしまったアリスのその手に、エリアストはくちづける。
「まさか。こんなにも喜んでくれるとは思っていなかった。海は偉大だな、エルシィ」
海は偉大だ。だが、なんか違う。
照れ笑いをするアリスに、エリアストは柔らかく微笑んだ。日傘を拾うと、転ばないようアリスの腰をしっかり抱いて、ゆっくり歩く。予め侍女たちにセッティングしておいてもらったパラソルの下の椅子に誘導すると、
「あの、エル様」
躊躇いがちにエリアストを呼んだ。
「どうした、エルシィ」
「もっと、近くに、行きたいです」
また、あの必殺おねだりの上目遣いをされた。
「ダメ、ですか?」
ガクリとエリアストが膝をつく。
何の試練だ、これは。
「ふええっ?エル様っ、大丈夫ですかっ」
「だ、いじょうぶ、だと、思う」
あのエリアストを、視線ひとつで膝をつかせるアリスだった。
綺麗な貝殻を見つけて喜ぶアリス。ヤドカリを見て驚いてエリアストにしがみつくアリス。波打ち際で波と戯れて無邪気な声を上げるアリス。遠くで跳ねたイルカを指して、エリアストに興奮しながらあれは何かと尋ねるアリス。
何もかもが新鮮だった。
「エル様、ありがとうございました」
別荘に戻り、晩餐に舌鼓を打ち、一息ついているときだ。
アリスは隣に座るエリアストを見つめて微笑む。
「エル様と、たくさんの新しいことが出来たこと、本当に幸せです」
「エルシィ」
エリアストはそっとアリスの頬に触れた。その手にアリスが擦り寄る。
「子どものように、はしゃいでしまいました」
頬を染めて、照れ笑いをするアリスが愛おしい。その唇に、自身のそれをそっと重ねる。
「可愛いエルシィが、たくさん見られた」
啄むように、何度もくちづける。
「もっとたくさん見せて欲しい。どんなエルシィも、私のものだ」
深くなるくちづけに、アリスの息が上がる。
「アリス」
真っ赤な顔で、瞳を潤ませたアリスを抱き上げると、極上のベッドにそっと下ろした。
「今度は大人の顔を見せてくれ、アリス」
*おしまい*
お読みいただき、ありがとうございました。
この後、新章ディレイガルド事変編へと移ります。後味のよろしくないお話しですが、久々にちょこっと顔を覗かせる婚約当初のようなエル様を楽しんでいただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。
*~*~*~*~*
レイガード王国は、内陸国家だ。海がない。そのため、海産物は他国に頼っている。
ある日、休暇から戻ったエリアストの部下が土産を持ってきた。それは、海を模したものが入ったガラスドームだった。
「どういうものなのでしょう。湖よりも遙かに大きいとは伺いますが、想像が出来ませんねえ。エル様は、見たことがありますか?」
クリッと首を傾げてはにかむアリスが愛らしい。エリアストは堪らずアリスにくちづける。
「見たことがないな、私も」
そう言いながら、くちづけを繰り返す。
「ん、んぅ、える、えるさま」
「どうした、エルシィ」
「みたい、ん、です、いっしょ、んん、うみ」
エリアストは止まる。
目を潤ませたアリスが、恥ずかしそうに微笑む。
「あの、一緒に、初めての、海」
そこまで言って、躊躇うように顔を少し俯かせる。そして、エリアストを伺うように、チラ、と見る。
「い、いかが、ですか?」
必殺おねだりの上目遣いになっているなど、アリスは気付かない。愛する人の必殺のおねだり。おねだり自体殆どしてもらえないというのに。さらに上目遣い。エリアストの理性など、風の前の塵に同じ。
ベッドの上で、そんな可愛らしいおねだりをしてはいけない。
「まあああ!エル様!凄いです、凄いですわ、エル様!」
クロバレイス王国。とある貴族の別荘を借りている。別荘の裏手から伸びる緩い坂道を下ると、プライベートビーチだ。
「エル様エル様、もっと、もっと近くに行きましょう」
エリアストの手を握って早く早くとはしゃぐアリスに、エリアストは驚きつつも、心が沸き立つような感覚だった。こんなにも無邪気なアリスを見たことがない。
「エルシィ、走ると危な」
そう注意しかけた瞬間、アリスの体が傾ぐ。エリアストは繋いだ手と反対の手、持っていた日傘を投げ捨て、しっかりアリスを支えた。
「子どものようだな、エルシィ」
まさかこんな風にアリスを注意する日が来ようとは。いつも自分が教えてもらってばかりいた。
「可愛い、エルシィ」
ギュッとそのまま抱き締める。はしゃぎすぎてしまったと、照れて真っ赤になるアリスにくちづける。
「もっと、いろいろな顔を見たい。もっと見せて、エルシィ」
「あ、呆れて、いませんか?」
恥ずかしそうに顔を両手で覆ってしまったアリスのその手に、エリアストはくちづける。
「まさか。こんなにも喜んでくれるとは思っていなかった。海は偉大だな、エルシィ」
海は偉大だ。だが、なんか違う。
照れ笑いをするアリスに、エリアストは柔らかく微笑んだ。日傘を拾うと、転ばないようアリスの腰をしっかり抱いて、ゆっくり歩く。予め侍女たちにセッティングしておいてもらったパラソルの下の椅子に誘導すると、
「あの、エル様」
躊躇いがちにエリアストを呼んだ。
「どうした、エルシィ」
「もっと、近くに、行きたいです」
また、あの必殺おねだりの上目遣いをされた。
「ダメ、ですか?」
ガクリとエリアストが膝をつく。
何の試練だ、これは。
「ふええっ?エル様っ、大丈夫ですかっ」
「だ、いじょうぶ、だと、思う」
あのエリアストを、視線ひとつで膝をつかせるアリスだった。
綺麗な貝殻を見つけて喜ぶアリス。ヤドカリを見て驚いてエリアストにしがみつくアリス。波打ち際で波と戯れて無邪気な声を上げるアリス。遠くで跳ねたイルカを指して、エリアストに興奮しながらあれは何かと尋ねるアリス。
何もかもが新鮮だった。
「エル様、ありがとうございました」
別荘に戻り、晩餐に舌鼓を打ち、一息ついているときだ。
アリスは隣に座るエリアストを見つめて微笑む。
「エル様と、たくさんの新しいことが出来たこと、本当に幸せです」
「エルシィ」
エリアストはそっとアリスの頬に触れた。その手にアリスが擦り寄る。
「子どものように、はしゃいでしまいました」
頬を染めて、照れ笑いをするアリスが愛おしい。その唇に、自身のそれをそっと重ねる。
「可愛いエルシィが、たくさん見られた」
啄むように、何度もくちづける。
「もっとたくさん見せて欲しい。どんなエルシィも、私のものだ」
深くなるくちづけに、アリスの息が上がる。
「アリス」
真っ赤な顔で、瞳を潤ませたアリスを抱き上げると、極上のベッドにそっと下ろした。
「今度は大人の顔を見せてくれ、アリス」
*おしまい*
お読みいただき、ありがとうございました。
この後、新章ディレイガルド事変編へと移ります。後味のよろしくないお話しですが、久々にちょこっと顔を覗かせる婚約当初のようなエル様を楽しんでいただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。
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