25 / 82
ディレイガルド事変編
7
しおりを挟む
「先日のお茶会以来ですわね、オーシェン伯爵嬢様」
「ディ、ディレイガルド公爵夫人様っ。あ、あ、でぃ、れい、がるど、公爵、様」
王家主催の夜会。王族への挨拶も終わり、人々が談笑している頃。
二人の登場に、シズワナは体を震わせつつ、顔を紅潮させながら、頭を下げる。醜女と陰で嗤われるシズワナに、筆頭公爵家が声をかけたことに会場はどよめいている。オーシェン家の者たちも、何事かと駆けつける。あわよくばお近づきに、の根性も携えて。
「これはディレイガルド公爵様、申し訳ございません。娘が何かご無礼を」
「ほら、謝罪なさい!誠心誠意謝るのですよっ」
何の話もしていないのに、シズワナを悪と決めつけ、その頭を掴んで下げさせる。
「大変申し訳ございません。このような醜女をその視界に入れてしまうことすら無礼でしたね」
「ほら、あなたはその顔を伏せていなさい!お目汚しにも程があるわ!」
勝手に話し始め、あろうことか、自分たちの娘であり妹であるシズワナを貶める。
アリスは扇をたたみ、最後の一折りをわざと大きな音を立ててたたんだ。伯爵家の四人は肩を震わせた。アリスは常に微笑みを湛えた穏やかな人物。その笑みが、消えている。
「シズワナ様を随分貶めますね」
アリスの言葉に、シズワナは泣きそうな顔を上げてアリスを見た。
「ああ、申し訳ありません、シズワナ様。勝手にお名前をお呼びしてしまいました」
お許し下さいましね、とアリスはシズワナに柔らかく微笑む。それだけで、もうシズワナには充分だった。罪を告白するには、想いを打ち明けるには。
「こ、公爵様、公爵夫人様、申し訳、申し訳ございませんでしたあっ」
声をかけられた時点で、すべてを観念した。ディレイガルドを欺けるはずなどない。もう、自分の罪は知られている。自分の想いは、知られてしまっている。こんな自分が望むには、烏滸がましすぎることは百も承知。
「何に対する謝罪だ」
エリアストの絶対零度の声が、視線が、シズワナの全身を震わせる。
「あ、の、て、手紙、です」
「貴様の仕業と認めるのか」
「は、はいぃ、みとめ、ます」
何の話かまったくわからず、オーシェン家の者たちは困惑した。本当に何かをしでかしていたなんて、思ってもいなかった。何か行動を起こせるような性格ではないと、わかっているからだ。それなのに、一体何をしたというのか。手紙、とは。
「おい、貴様!貴様のようなものを育ててやっているだけでも感謝して然るべきだと言うのに!ディレイガルド公爵様に何をした!」
「存在自体が迷惑だというのに、あろうことか公爵様にご迷惑をかけるだなんて!この親不孝者!育ててやった恩も忘れるとは!」
「黙れ。誰が口を開くことを許可した」
口々にシズワナを責めるオーシェン家に、エリアストが静かに怒気を込めた。オーシェン家は青ざめ、全身を震わせる。
「私がこの娘と話をしている。邪魔をするな」
先程アリスを怒らせていたことからわかる通り、これは、アリスが好まない人種だ。事前にアリスからオーシェン家のことは聞いていたが、本当に怒らせるとは。アリスの滅多に見られない感情を引き出したことにも、エリアストは不快であった。例えそれが、負の感情であっても。
ついでに潰そう。
そう考えるのは、当然だった。
*つづく*
「ディ、ディレイガルド公爵夫人様っ。あ、あ、でぃ、れい、がるど、公爵、様」
王家主催の夜会。王族への挨拶も終わり、人々が談笑している頃。
二人の登場に、シズワナは体を震わせつつ、顔を紅潮させながら、頭を下げる。醜女と陰で嗤われるシズワナに、筆頭公爵家が声をかけたことに会場はどよめいている。オーシェン家の者たちも、何事かと駆けつける。あわよくばお近づきに、の根性も携えて。
「これはディレイガルド公爵様、申し訳ございません。娘が何かご無礼を」
「ほら、謝罪なさい!誠心誠意謝るのですよっ」
何の話もしていないのに、シズワナを悪と決めつけ、その頭を掴んで下げさせる。
「大変申し訳ございません。このような醜女をその視界に入れてしまうことすら無礼でしたね」
「ほら、あなたはその顔を伏せていなさい!お目汚しにも程があるわ!」
勝手に話し始め、あろうことか、自分たちの娘であり妹であるシズワナを貶める。
アリスは扇をたたみ、最後の一折りをわざと大きな音を立ててたたんだ。伯爵家の四人は肩を震わせた。アリスは常に微笑みを湛えた穏やかな人物。その笑みが、消えている。
「シズワナ様を随分貶めますね」
アリスの言葉に、シズワナは泣きそうな顔を上げてアリスを見た。
「ああ、申し訳ありません、シズワナ様。勝手にお名前をお呼びしてしまいました」
お許し下さいましね、とアリスはシズワナに柔らかく微笑む。それだけで、もうシズワナには充分だった。罪を告白するには、想いを打ち明けるには。
「こ、公爵様、公爵夫人様、申し訳、申し訳ございませんでしたあっ」
声をかけられた時点で、すべてを観念した。ディレイガルドを欺けるはずなどない。もう、自分の罪は知られている。自分の想いは、知られてしまっている。こんな自分が望むには、烏滸がましすぎることは百も承知。
「何に対する謝罪だ」
エリアストの絶対零度の声が、視線が、シズワナの全身を震わせる。
「あ、の、て、手紙、です」
「貴様の仕業と認めるのか」
「は、はいぃ、みとめ、ます」
何の話かまったくわからず、オーシェン家の者たちは困惑した。本当に何かをしでかしていたなんて、思ってもいなかった。何か行動を起こせるような性格ではないと、わかっているからだ。それなのに、一体何をしたというのか。手紙、とは。
「おい、貴様!貴様のようなものを育ててやっているだけでも感謝して然るべきだと言うのに!ディレイガルド公爵様に何をした!」
「存在自体が迷惑だというのに、あろうことか公爵様にご迷惑をかけるだなんて!この親不孝者!育ててやった恩も忘れるとは!」
「黙れ。誰が口を開くことを許可した」
口々にシズワナを責めるオーシェン家に、エリアストが静かに怒気を込めた。オーシェン家は青ざめ、全身を震わせる。
「私がこの娘と話をしている。邪魔をするな」
先程アリスを怒らせていたことからわかる通り、これは、アリスが好まない人種だ。事前にアリスからオーシェン家のことは聞いていたが、本当に怒らせるとは。アリスの滅多に見られない感情を引き出したことにも、エリアストは不快であった。例えそれが、負の感情であっても。
ついでに潰そう。
そう考えるのは、当然だった。
*つづく*
130
あなたにおすすめの小説
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる